お題:見知らぬ宗教 制限時間:15分 読者:102 人 文字数:1266字

新興宗教ヘロヘロ教
「こんにちは。神さまの話に興味ありますか?」
「間に合ってます」
 日曜の昼下がりに現れた宗教勧誘の女性を見て、わたしはすぐにドアを閉めようとした。しかし、女性はドアの隙間に足を入れてそれを阻む。
「ちょ、何を!?」
 驚くわたしを尻目に、女性はやけに手慣れた様子でチェーンを外す。無茶苦茶だ、ここまでやる宗教勧誘が今までいただろうか。
「間に合っているということはないと思うのです」
「帰ってください!」
「我々が信仰しているのは……」
 話聞けよ、こいつ。
「世界三大宗教の一つ……」
 仏教やキリスト教、イスラム教がこんな強引な手段を使うというのか。
「ヘロヘロ教です」
「聞いたことない!」
 しまった、反応してしまった。女性はパッと顔を輝かせて「興味があるようですね!」と身を乗り出してくる。というか、足を更にぎゅうぎゅう入れてくる。彼女の履いているナイキのスニーカーのロゴが半分我が家に入り込んでいた。
「ご存じの通り、ヘロヘロ教は紀元前3世紀にこの日本で誕生した弥生時代の宗教です」
 全然ご存じじゃない。というか、弥生時代にそんなものがあったなんて信じがたい。
「偉大なる教祖ヘロヘロは……」
 名前! 酷いだろ、既に疲れてるじゃないか。
「弥生時代に飢えて死んだ男で、彼を助けなかった罪を全人類が背負っているというのは、既に自明のことと思いますが……」
 そんな名前付けるから飢え死にするんだろうが。
 しかも面倒くさい「罪」とか言い出したし。
 というか、さっきから当たり前みたいな空気で話すの止めてほしい、怖いから。
「我々はヘロヘロに謝罪の気持ちを伝えることで、ヘロヘロの魂を天国へと導き、宇宙すべてをヘロヘロのものにするために活動しているのです」
 宇宙全てがヘロヘロって、もう滅んだ方がマシだろそれ。
「ヘロヘロに謝罪の気持ちを伝えても、我々は死後天国に行くことはありませんが……」
 じゃあ何のためにやるんだ。ご利益は? 現世利益ないとやんないよ、日本人は。
「魂はすべて無に帰りますが……」
 死後の世界否定するタイプにしてもひどい。無に帰るとか、生きていく気力出ないだろ。あ、だからヘロヘロなのか。
「それでもヘロヘロを天国に押し上げるのはやりがいのある仕事と感じています」
 リクルートサイトの先輩社員のコメントみたいなこと言い出したな。
「今はわたし一人しかいない宗教ですが……」
 三大宗教じゃないのかよ。どんだけ盛ったんだ、この女。
「きっと1万年後には、世界三大宗教の一つに数えられているはずです!」
 先も先、っていうか先どころじゃない。人類存続してるかも怪しいだろ。
「その時にはわたしの魂は無に帰していますし、きっとヘロヘロもまだ天国にたどり着いてはいないでしょうが……」
 まだダメなのかよ、そろそろ休ませてやれよヘロヘロ。
「ヘロヘロが天国に着いたら、宗教が終わってしまうので、できるだけ天国につかないでいてほしいんですけど……」
 暴言過ぎるわ。ヘロヘロが可哀想になってくる。
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