お題:団地妻の人々 制限時間:15分 読者:113 人 文字数:967字

団地妻の人々
 陰口告げ口噂話、根も葉もきりもない井戸端会議。分厚い板チョコみたいな、おんなじ形の建物の群れ。暮らしているのは似たり寄ったりの家族。繰り返されるのは変わり映えのない日々。
 あの人たちはつまるところ、退屈しているんだと思う。なんの変哲もない日常に、子供の世話と夫のご機嫌取りに。だから際限なく益体もなく喋り続ける。今もこうやって。
「あらあ、マキちゃん。もう学校終わったの?」
 声をかけてきたのは井戸端会議常連その一。はい、となるべく失礼にならないように返事をする。
「今日は午前授業だったんです」
「まあ、じゃあお母さんと一緒にお昼ご飯食べられるわね。よかったわね」
 再び、はい、となるべく失礼にならないように返事をする。今度は愛想の良い、母親思いの娘に見えるように笑いながら。
「お母さん、最近見かけないけどどうしたの? 具合でも悪いの?」
 妙に勘繰るような顔を向けてきたのは井戸端会議常連その二。この人には気をつけないといけない。大抵、ろくでもない噂話――しかも迷惑になるたぐいの――の元を辿るとこの人に行き当たる。
「いいえ。私の勉強を見てくれているんです。私がお願いしたんです」
 当然、私も本当のことを言わない。勉強熱心な娘とそれを応援する母親。演出はその程度で充分。
「あらあ、偉いわね。でも、マキちゃんもあんまりお母さん困らせちゃだめよ?」
 はい、と再び返事。今度は殊勝そうな顔で。
「そうだ。先日いただいたスナップエンドウ、とっても美味しかったです。父も母も喜んでいました。ありがとうございます」
 すかさず、井戸端会議常連その三に一礼。何かと理由をつけて我が家に「差し入れ」を持ってくる。それがただの在庫処分なのはわかっているけれど。
「そうお? よかったわあ」
 有機栽培がどうこう、とか言うのを笑顔で聞き流したあと、そろそろ行かなくちゃ、という素振りを見せる。
「ごめんなさい、母が待っているので、もう帰ります」
 ごめんね引き留めちゃって。お母さんによろしくね。かけられる言葉に丁寧に返事して、踵を返す。
 私はまだ小学三年生だけど、あの人たちと話すと一気に歳を取るような気がする。どっと疲れる。普段あの人たちの相手をしている母に少しだけ同情する。
 退屈しのぎに私を殴る、ろくでもない母親だけど。
作者にコメント

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