お題:100の絶望 制限時間:15分 読者:58 人 文字数:816字

忘れる思いで
 なんて順風満帆な人生であったろうか。

 最初の記憶は三才と五ヶ月頃である。
 ふにゃふにゃと笑う、僕よりもずっとずっと小さな弟。それを腕に抱く母。僕の体は父に肩車されていた。
 ほろ苦い十代を駆け抜けて、恋に溺れた二十代。
 のちの伴侶に初めてビンタされたのは二十五のときであった。

「なんて人なの!」

 言い訳をさせて欲しい。誕生日を祝うディナーの予約は忘れていなかったし、仕事の予定も入れていなかった。
 ただ、どうしても彼女の指の太さだけが分からなかったのだ。仕方がないから彼女の片割れ……生き写しのような双子の妹に土下座して宝飾店に付き合ってもらっただけなのだ。
 これで完璧だったはず。まさか店を出る瞬間、彼女が通りかかるとは思わないだろう。
 それ以前に、双子なのに不仲過ぎるとも思わないだろう。だって僕の前ではいつだってカラカラと揃えた笑みを浮かべていたじゃないか。
 加えて妹の悪い癖が「指ポキ」だったなんて。乙女の趣味じゃあないよ。おかげで彼女よりもワンサイズ太い指輪を得る羽目になった。

 のちの義妹はこう語る。

「大切な婚約指輪を人の指で測るんじゃないのよ」

 それで目が覚めて、ちゃんと彼女の指で測れたのだから結果オーライであろうか。
 この事件で双子仲も改善したと聞く。僕の前には以前と変わらぬカラカラした顔が並ぶ。乙女心はなんと不思議なものであろうか。

 ピッタリな指輪を買った時のように、人生のイベントはするりするりと僕の中にたまっていった。
 このままこんな人生がずっと続くと思っていたのに突然の別れがきた五十の春。

 指輪のはめ方も忘れてしまった君は、するりするりと僕との思い出を捨てていく。五十って人生まだまだこれからじゃあないの。忘れられる分だけ絶望も増えていって、その数を数えて百までいく頃、僕たちは立派な老人となっていた。骨ばかりの指先だけ、太さは変わらぬというのに。
 
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