お題:とてつもない電撃 必須要素:どんでん返し 制限時間:1時間 読者:59 人 文字数:2885字 評価:0人

自己完結的エンド
 集まった親族は揃って妙な顔をしていた。さて、なにかおかしなことを言っただろうか。そろそろ結婚を期待される歳でもあるし、いい報告ができたと思ったのだが。
「彼女と結婚するつもりです」
 もう一度言ってみた。親族一同、今度こそ聞き間違いはなかったはずだ。なのに、伯父は身を乗り出して、「なんだって?」。叔母は額を押さえて、「本気なの?」
 いったいこの反応はなんなのか。わけがわからない。無駄に広いから、という理由で親戚の集まりにはなにかと使われる実家の和室にいる全員、困惑していた。もちろん、僕もそんな反応に戸惑っている。
 彼女はたしかに定職にはついていない。だけど、家事は得意だし、今ならんでいる料理だって、控えめながら彼女の手伝いがあって作られたものだ。何より美人だし、お嫁さんとしては理想の女性だと思うのだが。
「はっきり言ってください。僕たちの結婚になにか問題でもあるんですか」
 祝ってもらえるとばかり思っていたから、さすがに憮然とした。よく集まる間柄といえど、関係性が離れていると遠慮してしまうこともある。こういう場面ではっきり言葉にしてくれるのは、実の親をおいてほかにいなかった。
「じゃあはっきり言うが」
 と、口火を切ったのは僕の父親。頼りになる、という視線が親戚一同から向けられて、まるで自分が厄介事を持ち込んだかのようで僕は面白くない。
「お前の嫁候補とやらは、どこにいるというんだ?」
「ここにいるよ。父さん、耄碌したのか。僕の隣の座布団に座ってるじゃないか」
「悪いが、そこには何もない。私たちには、彼女が見えないんだ」
 僕はぽかんとして、横に目を向けた。いつでも幸薄そうな、彼女の控えめな微笑が返ってくる。両親と親戚に挨拶ということで、綺麗な着物を着てきた彼女は、そこに確かに座っている。
「お前が結婚したいと思っている彼女は、空想の存在なんじゃないか?」
 そんな馬鹿な。僕の脳裏に、出会いからはじめてのデート、家にお泊りにきたことまで、数々の思い出が蘇る。だけど、言われてみれば彼女が第三者と喋るのを見たことがない。僕と会わないとき、なにしているか知らないし、彼女から人を紹介してもらったこともない。
「信じられないどんでん返しだ……」
「いやそこまで違和感があって、どうして気づかなかったか不思議だよ」
 父親は呆れている。でも僕があまりのショックに目頭を押さえると、親戚も同情しておろおろしはじめた。せっかく、結婚相手が見つかったと思ったのに。それがまさか、自分にしか見えない相手だったなんて。落胆も想像できるというものらしい。
「若いころにはよくあることだ。俺もずっと恋人と同棲していたと思ったら、部屋に憑いてる幽霊だったことがあった」
 謎の体験談を伯父が語ったことで、ひとまずはその話は終いになった。

 ショックが大きかったのでしばらく寝込んだ。彼女は甲斐甲斐しく僕の世話を焼いてくれた。洗面所とを往復して濡れタオルを取り替えてくれた。しかし、傍目にはそれは全部僕が自分で行っているように見えるらしい。
「うろついてないで、おとなしく寝てなさい」
 母親に注意されて我に返ったとき、一生懸命タオルを絞っている自分の手を見下ろして、なんとも虚しい気持ちになった。
 薄幸の美人で、無口で、いつも僕の癒しとなってくれた理想の嫁候補。言われてみれば男の願望を反映した都合のいい存在であるし、今どき一歩下がって亭主を支える妻、なんて時代遅れで、現実の女性には鼻で笑われるというものだろう。
 でも、僕にとってはリアルに存在していて、結婚だって本気のつもりだった。深夜、音もなく壁からサプライズ的に現れた彼女と一緒に、式場のパンフレットなど楽しくめくったものだ。彼女との思い出があるだけ、自分にとってしか存在しない、という事実が重くのしかかった。
 綺麗な着物姿のままで、僕のベッドの横に心配げに寄り添う彼女に背を向けた。そうしたら壁側にぬっと現れたので目を閉じた。今度は夢のなかに出現してもの言いたげにするので、無理やり好きなアイドルのことを考えて頭から追い払った。
 つれなくしていたら、そのうち彼女は現れなくなった。これが恋人関係が自然消滅するというやつか。

 飯も食わずに落ち込んでいたら、見事に体調を崩して入院した。親戚がかわるがわる訪れて、花を置いていった。妙に優しいから、知らぬ間に重い病にでもかかって、僕にだけ隠されているのかもしれない。彼女とのことがあってから生きる気力を失っていたから、べつに構わなかった。
 くだんの伯父が見舞いにきた。花でも果物でもなく、自分の体験が土産話だと得意げにした。なにか聞きたいことがあるか、と僕と似たような経験をした彼が言った。
「じゃあひとつ。部屋に憑いていたということは、引っ越しが破局のときということで、その点で僕と彼女のほうが絆は強いということですね」
「聞きたいことというより主張したいことじゃねえか。見放されておいてよく言うよ。おまけに呪われてやがる」
 僕はどうやら呪われているらしい。彼女に冷たくしたからだろうか。伯父は訳知り顔で、枕元の果物を勝手に食べながら、先達からのアドバイスめいたことを口にした。
「俺はずっと独身だと思われているが、実は結婚していたことがある」
「初耳です」
「例の幽霊だ。引っ越すときに別れ難かったからプロポーズしたらOKされた。そう長く住んでなかったから、電撃結婚だと言っていい」
 これは驚きだった。幽霊とも結婚できるなんて。
「していた……ということは、今は」
「日常生活の些細なすれ違いでな。電撃離婚だった」
 電撃って言いたいだけじゃないのかこの人はと思わなくもないが、たしかに参考になる体験談だった。それが空想にしろ、幽霊にしろ、憑かれている本人に影響力がある、という点で。目の前の中年男は、じっさいに存在しない相手と結婚し、離婚したと本気で信じ込んでいる。つまり思い込みであっても、本人にとっては紛れもない真実なのだ。
 それはけっしてひとりのなかで完結するわけではない。空想の彼女を幸せにしてやれる方法だった。
「ありがとうございます、伯父さん。あなたの失敗談で、僕は勇気をもらいました」
 失敗談とか、身も蓋もない言い方するんじゃねえ、と毒づかれた。

 入院中のベッドの下に、彼女はずっと潜んでいたらしい、呼びかけたその夜、髪を引きずって、悲しげな目をした彼女は現れた。結婚したいという話をして、果物の皮で作った即席の指輪をプレゼントした。冗談のようなプロポーズだったが、空想の関係である僕たちには似つかわしく、彼女の流した涙だけがリアルだった。
「信じられない。末期がんだったのに」
 そういうわけで、僕は退院した。医者は死ぬほど驚いていたが、原因は不明とのことだった。おそらくは思い込みの力は偉大ということだ。伯父の失敗を踏み台にしたためか、新婚生活は順調で、今度三人めの空想の子供が生まれる予定だ。




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