お題:とてつもない電撃 必須要素:どんでん返し 制限時間:1時間 読者:43 人 文字数:3128字 評価:0人

肉、美味いが故に
美味かった、そりゃもう舌でとろけるどころか舌が溶けたかと思うほど美味かった。
たかが塩コショウで味付けしただけの肉、本当に、ただそれだけ。
しかもステーキみたいに、どーんとあるならともかく、薄切りに行儀よく焼かれている様子はどこの酒場のオツマミかと言いたくなる程。なにケチケチしてるんだかみっともない。
いやいや本当に、こんなの工夫もなにもあったものじゃない、コトコト手間暇かけて煮込んだシチューの方がゼッタイ美味いに決まってるじゃあないですか、原始時代の調理法を今に持ってこないでくれませんかと言った五分前の私は、うん、完全にパーフェクトに馬鹿だった。

美味い、美味かった、まじで。

見ればテーブル向こうのお師匠さんも固まってる。あっちが持ってきたもののはずなのに、予想外すぎて思考がフリーズしているらしい。
目を真ん丸にしたまま、ワインを口につけゴクゴクと飲み干し、ようやくブハァと息を吐いていた。
私もグラスに入った水を飲む、味が流れてしまうことに惜しさがあった。

「……うまいっすね」
「ああ……」

言葉少なに、私たちは二枚目に手を伸ばした。
普通、焼いただけの肉といえば、こう、硬くて噛みちぎるのが大変で、それでもモッギュモッギュと咀嚼する内に旨くなるシロモノだ。多少は臭みがあっても味の内、完全に腐ってなければ万事オーケー。そういう認識だった私にとって、これは断じて『肉』じゃなかった。

「師匠……」
「なんだ……」
「なんですか、これ」
「牛肉、ではないか……?」

なぜ自信なさげ。
いや、気持ちはわかるけれども。

「割と私は怪しんでます」
「同じ人間でも、勇者や王侯貴族もいれば裏社会のボスや情報屋もいるだろう」
「後ろ二つの方が高級品っすね」
「当然だ、前二つはろくでなしの代名詞だ」

あいつら、こっそり研究してるだけの魔術師である私たちの、横槍や邪魔しかしないからなあ、と思い返しながら再び味わう。

食べる内に、油の質が良いんだ、と気づく。
上下した唇がちょっと引っ付く感じは、上等なコンソメに似ている。しょっぱいとか甘いとかとは別の、豊饒な重さとでも言うべき方向性。めっちゃ美味い。

「師匠、これ、一体どこで買ったものなんです?」
「秘密だ、そうそう手に入るものじゃない、味わって食え」
「言われなくても、そうせざる得ないですよ」
「こちらとしても、これは予想外だった、二度目は本当にいつ手に入るかわからん」

そっかあ、と言いながら、私はテーブルに目を走らせる。
樫の木でつくられた分厚いその上に、師匠が趣味で作った皿、そこに残された肉は残りあと三枚。
いつの間にか食べていた。
本当に気づけば消えていた。
私たちは同じタイミングで食べていたし、一度に二枚食べるなんてこともしていない。
つまり、これはそう、師匠のミスだ。

「師匠」
「なんだ」

私は満面の笑みで。

「アイアム育ちざかり」
「礼を尽くすということの意味を、お前は知っているはずだな?」

私たちは、しばらく沈黙していた。
そして、鏡合せのようにゆっくりと、そろって肉の一枚を皿から自分のところに移した。
お互いに、笑っていた。
目はマジだった。

「……」

無言のまま咀嚼し、パンを千切り、口へと運ぶ。
空気が張り詰め、私たちの表情も張り付いたままだった。

「師匠、最近お腹出て来てません?」
「お前はいくら食べても貧相なままだな」

ちょっとでも心当たりあって視線を下に向けてくれれれば、その隙にかっさらってやったというのに。
あと誰が貧相だ、誰が。

「この肉も、貧相が貧相のまま、なんの益もなく通過するよりは、俺の一部となる方が喜ばしいはずだ」
「なに妄言ほざいてんですかこの師匠!」

伸ばされたフォークを、空中で私のフォークで受け止める。
私の調理器具が拮抗し、互いにギギギと悲鳴を上げた。

「……おい、離せ」
「ッ!」

おい、と言った時点ですでに雷撃の魔術が発動していた。
反射的に手を離したのは、日ごろの師匠行動からの予測だ。こういう時に容赦しない性格だ。
だからこそ、先手を打つことができる。
そのままフォークが下へと下がるより先に、私は皿を引き寄せていた。ガツンと調理器具が樫の木を貫く。どんだけ力込めたんだ。

「おい弟子! 行儀が悪いぞ!」
「どっちがですか!」

そのまま手づかみで喰らってくれるわという勢いで手を伸ばすが、その皿の上にはいつの間にか、飼っているマイハムスターがきゅ?と小首を傾げていた。肉なんてどこにもねえ。

「はいぃ!?」
「馬鹿め」

幻影魔術、と気づいた時には、師匠が剣士のような無駄に洗練された身のこなしで空中にあったフォークをつかみ肉をかっさらった。ハムスターの幻が消えると同時だったのは幸い。無駄に高性能な師匠の幻影魔術だと、脇腹刺されてもだえ苦しむ様子になっていた。

「ハッ! 馬鹿は師匠だばーか!」

どこか抜けているところのある師匠の、空中にあったフォーク。すなわち私のフォークに向けてアポートをかけた。物体の取り寄せ術、とりわけ自分自身のものであれば簡単にかけることができるこの魔術は、膨大な魔術抵抗であっても突破できる。
マイフォーク&お肉さまと私の縁は、ことほど左様に深いのである。

「いただきまーす!」

今度は幻影に騙されないよう目をつむって食おうとする。
が、既に無いフォークを振り切った体勢の師匠、その目が光ったのが見えた。

「げ」

一声上げながらも体を横倒しにできたのは、まぎれも無く幸い。だって、フォークが途中から溶解していた。師匠の目から放たれた圧縮雷撃が切断したのだ。その後ろにいた私も、体ごと回避してなければ同じ目にあっていたはずだ。

「まじで殺す気ですか師匠!」
「避けただろうが、信頼だ!」
「なんですかその世界一いらない信頼!」

壊れた物品は、もう『私のもの』とは言えない。アポートでの引き寄せは無理。というか床に這いつくばってる状態だ。
高笑いしながら手を伸ばしているであろう師匠。その姿を想像し、頭の血管が二三本ばかりキレる。
そこまでして食いたいのか、なんてヤツだ……!

私は風系統の、切断の魔術を使う。
師匠も同系統の魔術を行使した気配があった。

「これで――!」

お互いに、まったく同時に発動する。


――ところで、どんでん返し、というものをご存じだろうか。
舞台かなんかで、どんでん、と音出すかどうかは知らないけど、背景の書かれた絵を起こすもの。
私たちがやったのは、それに近いものだった。

まず、私が机の脚を切断し、同時に力をかけることで、机をこちらへと倒した。師匠から見れば、机の裏がいきなり現れるどんでん返しだ。
けれど、同時に師匠が床を円形に切断し、力を込めて蹴っていた。たぶん、私が何をしようと「床ごとのどんでん返し」をすればいいと判断したためだ。

けれど、結果として――

「は?」

ぐるん、と前方から机が迫り。
ごるん、と後方から切断された床が迫り。
つまりは、私が挟み撃ちにつぶされそうな塩梅に。
どっちも凄い勢いで、かなりヤバそう。

あ、肉がちょうど口に入るような恰好だけど、これ確実に大怪我コースでは?

「馬鹿弟子が!」

どちらも接触するより先に、師匠が打ち出した二発の雷撃が、私に触れることなく何もかもを消失させた。





「師匠」
「なんだ」
「これからは、半分個しましょう、こういう時」
「そうだな」

割とひどいことになった場所で、私たちは揃って嘆息した。



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