お題:とてつもない電撃 必須要素:どんでん返し 制限時間:1時間 読者:46 人 文字数:3920字 評価:1人

ヒーローの資格
 黒い軍勢が、白昼の街を駆け抜ける。彼らが通り過ぎた後は、ビルが崩れ、炎が燃え盛り、人々の悲鳴が響いた。
「B班は散開せよ。A班は俺と共に来い」
 軍勢の先頭に立つクマのような怪人が指示すると、後に続く影からにじみ出たような姿の戦闘員たちの半分が、街中に散っていく。
「さあ出て来い、ガーディス。でなければ、街は守れんぞ」
 手近に転がる瓦礫を、クマの怪人・デスグリズリーは軽々と高層ビルへ投げつける。上階にそれは命中し、大きなビルはぐらぐらと揺れた。
「ギ、ギギギ!」
 戦闘員の一人がデスグリズリーの下へ戻ってくる。小脇には一人の少女を抱えていた。それを見て、クマ怪人は鋭い犬歯を見せた。
 デスグリズリーは戦闘員から少女を受け取ると、青い顔の彼女を高々と掲げた。
「出て来い、ガーディス! でなければこの子どもを殺す! それとも、貴様は少女一人守れない腰抜けヒーローか?」
 ギギギギギ、と周りの戦闘員たちが嘲笑のような唸り声を上げた。
「どうした? 早く来なければ、この細い首をへし折るぞ!」
 また周りの戦闘員たちが笑い声を上げたその時だった。
 それは、上からやって来た。
 デスグリズリーの上に、近くの建物から飛び降りるようにして。
「何!?」
 虚を突かれたその腕から、少女の身体がこぼれる。飛び降りてきた青年は、それを上手く抱き留めて着地した。
「来たか、ガーディス!」
 どこか嬉しそうなデスグリズリーの言葉に、青年は背中を向けたまま応じた。
「悪いな、『キルデス』の諸君」
 少女を抱えたまま少し振り向いて、にやりと笑う。
「今ちょっと、お前らと遊んでやる暇はないんだわ」
 じゃあな、と言って青年は、正義のヒーロー・ガーディスは少女を抱えたままその場を走り去る。
「ふん、だからこそ追っているのだ」
 不敵に笑みを返し、デスグリズリーは「A班!」と叫ぶ。
「追え! 奴が変身できないこの機を逃すな! 必ずや抹殺するのだ!」


「ふー、ここまでくれば何とかなるだろ」
 デスグリズリーから走って逃げ、途中で見つけた車を盗み、田井シノブは運転席で一息ついた。
 辺りは人家どころか人通りすら乏しい山道だ。ここなら、と思った瞬間、後部座席から声がした。
「ねえ、お兄さん。もうドライブはおしまい?」
「あ?」
 驚いて振り返ったシノブの目に、後部座席からひょっこり顔を出す少女が映る。
 中学生くらいの、髪を片側で結った小柄な少女――デスグリズリーから救った彼女だ。
「おいおい、マジかよ……。いつの間に乗り込んだんだ?」
 気絶している様子だった彼女を歩道に寝かせてから、シノブは近くにあった車のドアのキーを破壊して乗り込んだのだ。確かに置いてきたはずなのに……。
「ずっと乗ってたよ」
「参ったぜ……」
 がっくりとハンドルに額をつけて、シノブは呟いた。
「なあ、お嬢ちゃん」
「スミレだよ」
 そっかスミレちゃん、と言い直してシノブは顔を上げた。
「お家どこだ?」
「帰りたくない」
 は? とシノブは顔をしかめる。
「帰れよ、いいから。でないと、またさっきのクマの化物が来るぞ?」
「どうして?」
 シノブは少し逡巡した後、ため息とともに答えた。
「俺を追って来てるからだ。聞こえてなかったかもしれないが、俺は――」
「守護戦士ガーディス?」
「……そう」
 ホントに、と尋ねられて、バツ悪そうにシノブは口を尖らせた。
「本当だ。でも今は、ちょっと変身できないんだが……」

 守護戦士ガーディスは、精霊界に選ばれた若者・田井シノブが変身する正義のヒーローだ。
 精霊界を離反し、人間界に攻撃を仕掛ける悪の組織・キルデスと戦っている。
 両腕の二対の丸い盾を唯一の武装とし、そこから発するエネルギーシールドや、円盤投げの要領での投擲が主な戦闘方法である。
 ただ、その戦いぶりは「守護戦士」の名に反するものである。
 エネルギーシールドを発生させて敵を弾き飛ばし、付近のビルを壊す。
 盾を地面の上で転がして敵を切り裂くついでに道路をえぐる。
 こういった破壊行為は日常茶飯事である。
 精霊界も、田井シノブの戦いぶりに「人選ミスか」と常々頭を悩ませていた。
 そんな折に事件は起こる。
 ガーディスが投げた円盤が電柱を切り倒し、逃げ遅れていた女性を下敷きにしたのだ。
 幸い女性は軽傷であったが、一般人に被害を出すのはヒーローにとってはご法度である。
 このことで精霊界は、ヒーロー監視組織「ウォッチャーズ」に働きかけ、シノブから変身能力を一旦剥奪し、査定に掛けることを要請した。精霊界の法律では、人間界にやってきて直接活動するのは違法とされていたためである。
 これを受けて、「ウォッチャーズ」はシノブの下にエージェント・ハングドマンを派遣。
 雷を操るハングドマンはシノブに夜襲をかけ、その電撃で彼を気絶させる。そして、変身アイテムである小型の盾を奪い去ったのである。
 だが、キルデスにその動きが漏れていた。
 ガーディスにシノブが変身できないことを知るや否や、こうして大攻勢をかけてきたのである。

「しっかし、あれはとんでもない電撃だったな……」
 シノブは脇腹をさする。
「お兄さん、鍛え方が足りないんじゃない?」
「うるさいよ」
 シノブと、スミレと名乗る少女は、車を降りて山道を歩いていた。車が入れないような山奥ならば、安全と考えたのである。
「まあ、鍛え方が足りないから? 俺は変身アイテムを奪われちゃったわけで」
 だからさ、とシノブはスミレを振り返る。
「君も俺みたいなヒーロー失格野郎の近くにいたら、危ないってことだーかーら……!」
「見て見て、でっかいキノコ!」
 無邪気にはしゃぐスミレに、シノブは呆れて肩をすくめた。
「聞いてるか、スミレ? てか、そんな離れんなよ、迷うぞ」
 それに危ない、とシノブは彼女に近付いた。
「でもさ、お兄さんはヒーローだと思うよ」
 急にスミレは真面目な顔でシノブの方を振り向く。
「だって、ボクを助けてくれたよね?」
「ま、そうだけどよ……」
「それって、正しいことでしょ?」
 だけど、とシノブは後ろ頭をかいた。
「あのクマ野郎を倒せなかった……」
「倒すばっかりが、ヒーローの仕事かな?」
「いやいや、お嬢ちゃんにはわかんないかもしんないけどね、俺は――!」
 危ない、とシノブは途中で言葉を切り、スミレを抱えて倒れ込んだ。彼らの立っていた場所に、銃弾が爆ぜる。
「見つけたぞ、ガーディス!」
「ちっ、もう来やがったか!」
 山道の下、デスグリズリーが戦闘員たちを引きつれてこちらを見上げている。
「変身できない貴様を殺し、我らの支配を確実なものとしてやる!」
「考えがせこいぜ、クマさんよ!」
 シノブはファイティングポーズをとる。
「ふん、何とでも言え。後ろの子どもごと、貴様はなぶり殺しだ!」
「ざけんなよ!」
 向かってきた戦闘員の一人を、シノブは殴り倒した。変身できなくとも、シノブの体の中には精霊の力が残っている。ただし、ガーディス変身時の1/10でしかないが。
「ぐ、クソ!」
 いつもなら簡単に倒せる戦闘員たちに、シノブは徐々に押し込まれていった。
 更に――
「おーっと、そこまでだぞガーディス!」
 デスグリズリーの声に振り向くと、クマ怪人の腕にはスミレが抱かれていた。
「てめ――!」
「この少女を助けたいらしいな、ガーディス?」
 シノブは歯噛みした。何で、逃げてないんだ。あいつがいなけりゃ、簡単に逃げられたし、逃げ回ってさえいれば、いつかは変身アイテムは戻ってきて、そして……。
「そんな考えでいいの?」
 クマ怪人の腕にありながらも、スミレは冷静であった。
「おい、貴様、何を勝手にしゃべって――」
「逃げて逃げて、変身アイテムが戻ってくればいい。それで、こいつらを倒せばいい。それって、正しいことなの?」
 シノブは拳を握る。
「君は何者? ワルモノを退治するワルモノ? 違うでしょ?」
 俺は――
「守護戦士、ガーディス……。正義の、ヒーローだ」
 スミレはゆっくりうなずいた。同時に、彼女の姿がデスグリズリーの腕から消える。
「な……!?」
 驚くキルデスの一団を尻目に、スミレは瞬時にシノブの目の前に戻ってきていた。
「試験はごーかく」
 シノブを背後にかばうようにして、スミレは立った。その背中は、小さな少女の者とは思えないぐらいに、大きく見えた。
「だけどごめんね、変身アイテム持ってきてないの」
 だからサービス。スミレがいつの間にか手にしていた鍵を自身の両脇に差し込むと、身体に紫の稲妻が走る。すると、彼女の身体は光に包まれた。
「ボクが倒してあげるね。久々に、暴れたいし」
 光が晴れたスミレは、大きく姿が変わっていた。どこかの制服のような服装から、ほとんど裸に二本の帯を巻いたような姿に。そして、その手には左右一本ずつの槍が握られていた。
「じゃ、いっくよー!」
 呆気にとられている周囲を置き去りに、スミレは強烈な雷を放った。


「ふー、じゃあ、そろそろ帰るね」
 キルデスの一団を文字通り瞬殺し、どこかすっきりした顔でスミレはシノブに言った。
「あ、ああ……スミレ、あんたって……」
 スミレは、少女はどこか寂しげに首を横に振った。
「スミレじゃないよ。今のボクは、ただのハングドマン」
 じゃあね、脇腹鍛えときなよ。
 そう言って、「ウォッチャーズ」のエージェントは飛び去って行った。
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