お題:死にかけの女祭り! 制限時間:4時間 読者:273 人 文字数:2591字

夜長さんの好きなもの
「待て。待つんだ」
「いや雨美くんも待って」
 待ちたくない。
「部活の掛け持ちを理由にクラスの出し物について話を聞いていなかったことは素直に謝る、が」
「雨美くん顔怖い」
 昔から落ち着きがないとは常々言われていたが、自分でも分かっていた性分なので、ならばいっそと、球技はサッカー、武技は柔道、試合の数合わせ要員でたまにバレーボールと、いくつか運動部に入っていた。が、そのために、部活ごとの文化祭の出し物にも話し合いをしなくといけなくて、肝心のクラスの出し物については、準備を始めるという今日の今日まで何も知らなかった。部活よりクラスのほうが人数多いし、大した問題はないだろうと踏んでいた。
 今日から出し物の準備をすると言うから、一応、役割分担や仕事くらいは把握してこなそうと思って、今回はサボらずちゃんとホームルームに参加した。
「…………女装喫茶をやるのか?」
「…………うん、やる」
 女を装うと書いて『女装』というのだから、すなわち男子が女装して給仕をし、本物の女である女子たちは裏方にまわってメニューをこさえる、ということなのだろう。
 僕が今一度確かめたいのは文化祭で何をやるかではない。男どもが表立って女子の格好をすることをメインにして、リアル女子は裏にまわってしまうということだ。
「女子は、女装、しない、のか?」
「女子が女装したらただのオシャレだから」
「オシャレして何が悪いんだ?」
「オシャレするのは雨美くんだからね!」
「僕も女装するのか!」
「当たり前でしょ!」
 僕は眉間に手を添えてしばし項垂れた。いや、この際、僕が女装することは甘んじて受け入れよう。
 しかし、だ。何故、他の野郎どもの女子のコスプレに混ざらないといけないのか。おかしい。こんなことをして一体何になるというのか。理解に苦しむ。こんな、女子を裏に押し込んで男ばかり目立つような企画、目立ちたがり屋の遠藤あたりが発案して押し通したに違いない。けしからん。あとで殴る。
「一応聞くが、誰の発案なんだ?」
「委員長の夜長さんだよ」
「ならば仕方ない」
「あれー!」
 夜長有砂利さん。頭が良くて美人ゆえに目立つからか、毎年クラス委員長になってしまうという。
 ふむ、勝手な憶測で、野郎どもの野郎どもによる野郎どものための企画だとばかり思っていたが、発案者が女子なら仕方ないな。うん。



 とはいえ。他の男どもと並んでスカートをはいて喫茶店をやるのは変わらない。
「雨美くんはスカートの長さとか希望ある? 長いほうがいい?」
「夜長さんが選ぶので構わないよ」
「本当に? じゃあ勝手に選んじゃうけど」
 そう言ってスマホになにかを打ち込んでいる。わざわざ文化祭のために服を人数分買うわけ無いだろうから、レンタルするんだろう。
「雨美くん嫌がってたって水無月ちゃんから聞いたんだけど」
「いや、てっきり遠藤あたりの誰かの立案だと思って。夜長さんの企画なら頑張るよ」
「雨美くんも男子なのに、本当男子嫌いだよね」
 上品に軽く笑う夜長さん。
「そんなに変か?」
「変っていうか、不思議? だいたいみんなさ、女子は女子同士、男子は男子同士で仲良くしない? 雨美くんは女子に優しいから女子とも仲いいんだろうけど」
 女子に優しくするのは、僕にとっては当たり前のことなんだがな。他の男子から見ると、女子にモテたくてやってるように見えるようで、かなり不本意である。だから嫌だ、というのが大きいのだが、今その文句を夜長さんに言うのも、な。
「ところで、準備って何をすればいいんだ? 買い出し?」
「あー、そういうのは女子でやるからいいよ。元々、男子たちは部活に専念したいって言って、クラスの出し物に乗り気じゃなかったからさ。じゃあ女子で飾り付けもメニューも準備するから、準備やらなくていい代わりに男子は女装ね、って」
 それでオーケーする奴らもどうなんだ。

 その後、本当に当日まで何もしなくていいと言われ、お言葉に甘えて僕は、申し訳なく思いながらも部活に足を運んだ。




 来る当日。
 僕に用意されたのは、ツインテールのウィッグ、様式美と言わんばかりのテンプレ中のテンプレのようなミニスカートのメイド服一式。
「やばい……雨美くんから違和感がログアウトした……」
「一周回って女の子じゃない気がしてきた」
 逆に今まで女の子だと思っていたのかどうかだけ知りたい。
 各々が思い思いの感想を述べていると、夜長さんがメモ帳の一枚を僕に手渡してきた。一番上にはサインペンで『接客の心得!』と、女の子らしい丸っこい字で書かれていた。
「いきなり接客と言われてもピンとこないと思って、簡単だけど、とりあえずこれさえ言えれば大丈夫だと思うから」
「ありがとう、夜長さん」
 助かるよ、と続けて言うつもりでメモに目を通すと、

 ①おかえりなさいませ!(呼び込み)
 ②今日は寄り道しないでまっすぐ帰ってきてくれたんですね(空いてる席に案内しながら言う)
 ③今日は特別に、好きなものを作ってあげますよ! 何がいいですか?(ここでメニューを渡す)
 ④────これ以上読みたくない────

「…………女装喫茶ってメイド喫茶も兼ねてるのか?」
「メイド服着てるから。あ、みんなじゃないよ。遠藤くんはチャイナドレスだから、中国語もまじえてる」
 よかった。チャイナドレスじゃなくて。遠藤よ、南無三。
 なるほど、女装した服装にあわせて接客も変えると。一理ある。……いや待てよ。『着てるから』って、そもそもこの服選んだの夜長さんでは?
 そうこうしている内にチャイムが鳴り、校内放送により、一般参加の入場が知らされた。



「おこしやすー」
「ニーハオ! ニーハオ!」
「マジ卍じゃねー? っべーってマジっべーって! ちょっと来てってリアルにー」
 男どもが、女装で、裏声で、カップルや家族に呼び込みをしている姿を、出入り口付近で見守り、その次には僕が入場者に「おかえりなさいませ!」「今日は寄り道しないでまっすぐ帰ってきてくれたんですね」と、裏声で対応し、注文を取り、メニューを運ぶ。最初に戻る。
「ニーハオー! ニーハオー!」
 そして遠藤はさっきから挨拶しかしてない。
 控えめに言って死にたい。
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