お題:あいつの百合 制限時間:4時間 読者:301 人 文字数:2515字
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百合といえば
 百合の花といえば、小学生の頃、お見舞いに持っていってはいけない花だと親に教えられたのが最初。なので以降、百合と聞いて好ましいイメージが浮かばない。百合の花も不本意だろう。
 その百合の花束を、あいつが持っていたのを休日に見かけた。
 持っているところだけだったが、当然見舞いではないのだろうから、誰かにプレゼント、もしくはプレゼントされたのだろう。と思うだろうが、影が薄いあいつの知り合いなんて、クラスメイトの俺か、ファンとして追いかけている先輩くらいだ。いや、くらいというか、完全にこの二人だけだ。誰かから貰ったりあげたりするはずない。なら自分用? いやまさか。中学の時から憧れの先輩を追いかけて、高校までついてきたようなやつが、自分用に花なんて買う趣味があるとは思えない。

 どうしても気になったので、次の月曜日、登校して教室に入ってすぐに聞いた。
「明保野、こないださ」
「はい?」
「こないだ百合の花を持っていなかったか?」
「あ、はい。買いました」
 買ったのか。
「いつも仏花用にしか花を買わないので、たまにはと思って」
「仏花用? ……あ、そっか、父親……」
「はい。お父さんのお墓参りに」
 お供え用の花だったのか。すごく失礼な勘違いをしていたのを心の中で謝罪する。
「お墓参りくらいは、さすがに家族で行くのか?」
「いいえ。日をずらして行きました。本当は、お父さんの命日は先週の土曜日でした」
「え! 一週間ずらしたのか?」
 明保野の家が、少し特殊な事情なのは知っている。
 父親が他界して、母親はすぐに再婚して。けど再婚相手の男と、明保野は相性が最悪に良くなくて、母親が男の味方をするものだから、見かねた弟の提案でプチ家出をして。ちょっとした騒ぎになってしまったらしいけど、結局、明保野を一人暮らしさせるという建前で家に残し、母親と弟は再婚相手の男の家に行ったとか。
 それ以来母親とも気まずいらしいとは言ってたけど。
「……いくらなんでも、お前のほうが気使いすぎじゃね? 父親の墓参りなんだし、向こうが遠慮するところだろ」
 向こう、と言ってもこの場合は新しい父親だけを指すけれど。名字はなんて言ったっけか。
「んー…………」
 唸っている。そんな難しいことか。
「なんか、駄目、なのか?」
「駄目というか……。お母さんが東雲さんにべったりで」
 東雲さん? あー、再婚相手か。
「弟の話だと。お母さんと東雲さんだと、東雲さんのほうが立場が偉い、みたいな?」
「なんだそれ? 社内恋愛的な?」
「というわけでもなく」
「ええ?」
「二人は二人のほうが好きなんだと思います」
「…………?」
 明保野の話がよくわからないまま、先生が来て、ホームルームが始まってしまった。
 先生は今日も、俺の目の前の席に座っている明保野を飛ばして、俺から出欠を取り始めた。



 放課後。明保野は今日も、憧れの先輩と一緒に、先輩の家までついていってから自分の家に帰るだろう。
 俺はというと。
「この先で墓参りって言ったら、ここだよな」
 帰宅部の特権で、早く学校を出て、この間明保野が向かったであろう墓地を歩いている。
 再婚相手を「東雲さん」と言っていたんだから、明保野自身は名字が変わってないんだろう。なら「明保野」という名前の墓があるはず。そして百合を目印に、ぐるっと見渡しながら、白い百合の花が供えられている墓を探す。
 端から順繰りに見て回って、数分して、それらしい墓を見つける。確かに「明保野」と彫られており、まだ綺麗な白百合が添えてある。
 しかし、百合以外の花はない。線香が少なくて周りが綺麗なのは、こないだ来ただろう明保野が掃除したからだろうけど。まさか既に家族が供えた花を片付けるなんてことはしないだろう。一週間しか経っていないのに。
 同級生の俺相手にだって敬語で話すようなあいつが、一週間だけ飾られた花をそのまま捨てて、自分の持ってきた分だけを置くようなことをするだろうか。いくらなんでも、そこまではしないだろう。向こうの父親と相性最悪でも、母親と気まずくても。弟には気を許してるようだし。いくら、自分を置いていった親二人でも、そこまでは────

『二人は二人のほうが好きなんだと思います』

 ふいに思い出した。
 意味は分からなかったけれど、いまこの状況を見れば、なんとなく分かるかもしれない。
 もし、自分だけ遅れて父親の墓参りに来た時に、先週誰かが来ていたはずの場所に、そんな痕跡がないくらいに汚れていたとしたら。花も線香も何もなかったら。
 今はきちんと手入れがされている。墓石に砂埃はついてないし、白百合はまだ茎がしっかりしている。
 俺は、あいつの持ってきた百合の水を取り替えた。部外者だけど、水を替えるくらいだったら、多分、セーフ、かな。いやセーフってことにしておいてほしい。百合の花を見ながら、あの日見かけたあいつの映像を浮かべる。あの時声をかけても、あいつは一人で行っただろう。
 一人でここに来て、どんな気持ちでここの掃除をして、花を添えて、線香を上げたか、想像つかなし、したくないけれど、『二人は二人のほうが好き』という言葉が全て物語っているように思う。
 父親がいた時は四人で住んでいた、かつての家に残されて、父親の墓にも自分しか来なくて。何重もの意味で、置いていかれたように見える。
 そろそろ帰ろう。よそんちの墓の前にあまり長居するものでもない。俺は俺の家に帰ろう。

 途中寄ったコンビニで百円のコーヒーを飲んで、そういえば「歩く姿は百合の花」なんてことわざがあったよなー、とぼんやり。もっと長かったような。なんだっけ。立てば芍薬座れば牡丹、か。女性らしさをたとえたやつだっけ。百合の花を抱えて歩く明保野の姿を思い出す。そして今日の朝、いつものように「おはようございます」と返事をした時の顔、いつもどおりだった。何の変わりもない。女性らしいかどうかはさておき、あいつらしいな、とは思う。
 俺は当分、花屋を通りかかるたびに、百合の花とあいつを思い出しそうだ。
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