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お題:暗い心 制限時間:15分 読者:28 人 文字数:758字

彼には梟の伴侶がいる

 火傷だらけの鬼がひとり、森を歩いてゆく。
 その晩は新月で、鬼にとって幸いなことに、今にも雨を降らしそうな厚い雲が夜空をみっしりと埋めていた。風も重く、優しく、火傷に外気が触れても鬼が痛みを覚えることはなかった。こんな夜はそうそう無い。鬼は、ここ一月ほど隠れ潜んでいた洞窟から、また別の住処へ移るために、多大な危険を犯して夜の森に出てきたのだ。
 あたりは真っ暗闇だった。月明かりも星明かりもない夜、獣たちのひそかな囁き声と、風に騒ぐ森の枝葉が打ち鳴らす海のようなざわめき、湿った土の匂い、普段は光に場所を空けているものたちが、暗闇の中では色めき立つ。人間には恐怖を与える彼らを、鬼はちっとも怖がらず、むしろ心から愛していた。かといって彼らに見つかりたい訳でもなかったので、鬼は足早に、しかし密かに、木々の間を進んでいった。
 鬼の火傷は光によるものだった。彼は心底から光を恐れ憎んでいた。正確には、光が自分の皮膚に与える痛みを憎んでいたのだが、彼にとってはどちらも同じものだった。鬼の仲間たちは、彼の恐れを理解できなかった。もちろん、鬼の種族は光よりも闇に親しむものではあるが、それでも満月や星を愛でていたし、宴会のときには赤々と蝋燭の灯を燈し、酒の水面にちらちらと照りはえる光を尊いものと呼んでいた。この鬼だけが、その光に耐えられなかった。いつからか全身の皮膚が焼けただれ、気の毒がった鬼たちが手当のために——患部をよく見ようとして——光を近づけると、鬼の皮膚は内側でひどく傷んだ。彼が泣き叫ぶ理由を、その苦痛を、仲間たちはどうしても理解できなかった。鬼は、仲間たちのもとを離れ、人の手が入っていない原生林の奥深くへと姿を消した。
 今の彼を苛むのはただ、天気の良い夜と、雨を前にして飛び交う蛍の光だけだ。
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