ユーザーアイコン
お題:暗い心 制限時間:15分 読者:71 人 文字数:758字

彼には梟の伴侶がいる

 火傷だらけの鬼がひとり、森を歩いてゆく。
 その晩は新月で、鬼にとって幸いなことに、今にも雨を降らしそうな厚い雲が夜空をみっしりと埋めていた。風も重く、優しく、火傷に外気が触れても鬼が痛みを覚えることはなかった。こんな夜はそうそう無い。鬼は、ここ一月ほど隠れ潜んでいた洞窟から、また別の住処へ移るために、多大な危険を犯して夜の森に出てきたのだ。
 あたりは真っ暗闇だった。月明かりも星明かりもない夜、獣たちのひそかな囁き声と、風に騒ぐ森の枝葉が打ち鳴らす海のようなざわめき、湿った土の匂い、普段は光に場所を空けているものたちが、暗闇の中では色めき立つ。人間には恐怖を与える彼らを、鬼はちっとも怖がらず、むしろ心から愛していた。かといって彼らに見つかりたい訳でもなかったので、鬼は足早に、しかし密かに、木々の間を進んでいった。
 鬼の火傷は光によるものだった。彼は心底から光を恐れ憎んでいた。正確には、光が自分の皮膚に与える痛みを憎んでいたのだが、彼にとってはどちらも同じものだった。鬼の仲間たちは、彼の恐れを理解できなかった。もちろん、鬼の種族は光よりも闇に親しむものではあるが、それでも満月や星を愛でていたし、宴会のときには赤々と蝋燭の灯を燈し、酒の水面にちらちらと照りはえる光を尊いものと呼んでいた。この鬼だけが、その光に耐えられなかった。いつからか全身の皮膚が焼けただれ、気の毒がった鬼たちが手当のために——患部をよく見ようとして——光を近づけると、鬼の皮膚は内側でひどく傷んだ。彼が泣き叫ぶ理由を、その苦痛を、仲間たちはどうしても理解できなかった。鬼は、仲間たちのもとを離れ、人の手が入っていない原生林の奥深くへと姿を消した。
 今の彼を苛むのはただ、天気の良い夜と、雨を前にして飛び交う蛍の光だけだ。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:こさと@3/13~15不在 お題:暗い心 制限時間:1時間 読者:252 人 文字数:1891字
1. 煮込み料理は好きかな、と尋ねてきた男性に頷きを返すと、彼はてきぱきと調理を行った。どうも昨夜から煮貯めていたらしい鳥骨のスープに内海の野菜を鮮やかに放り込 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
未完 ※未完
作者:マルチ お題:暗い心 必須要素:セリフ無し 制限時間:1時間 読者:306 人 文字数:563字
ある街はずれに、ひとりの男が住んでいた。かれには、かねてから不思議に思っていることがあった。彼には、なぜ、ひとが赤い色に興奮するのかがわからなかった。なぜなら、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:知らぬ間の勇者 制限時間:15分 読者:2 人 文字数:176字
人に誇れるような人生を送ってきたわけではない。それよりも、いつだって人に知られることのない裏側ばかりを縫うように生きてきていた。だから今回、表舞台も表舞台、自 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:イトカ/欄橋 お題:穢された悲劇 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:921字
瞳に映らないもの。それこそが幻想の正体。だから、私の瞳に映っているこの黒い景色は、夢でもなければ幻でもない。きっとそう、誰かが奪い去ってしまったもの。それは果た 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:夢路 お題:危ない失踪 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:336字
部屋の中はもぬけの殻だった。 小さなテーブルの上に乗っているコーヒーはまだ湯気が立っていて、つい先程まで人がいたように思える。 けれども、いない。この小さなワ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:環蜜虫@遡行 お題:少年のふわふわ 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:481字
ほんの30分前の出来事だった。出来事というにはあまりにも些細なきっかけというべきか。少年は、「それ」に目線をおとす。毛皮で身を包んだ、グニャグニャとした手触りの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
狸鍋 ※未完
作者:八待二進 お題:朝の狸 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:911字
山の麓に、子を持たず暮らしている老夫婦がいた。男の方は猟を、女の方は編み物をして暮らしていた。つつましい生活だが、二人は幸せだった。しかし、二人は子が要らない 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:鳥の父 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:234字
鳥の父は雛のために餌をとる餌は隣の鳥がよくいく場所鳥の父はそこで全部とっちゃう 雛はおかげでいっぱいご飯食べれる一方隣の鳥はそんな鳥の父が嫌いで少しだけしか餌を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:憧れの兄 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:160字
ないものねだりで兄弟姉妹が羨ましい兄なら色々と守ってくれそうな弟なら勉強教えて姉なら宿題やってもらって妹なら全部助けたくなるようなそんな感じしかし話をきくと大抵 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:激しい火 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:53字
激しい火が燃えたぎっている。夏菜子はなにもかも捨てると決意したのだ。決別したい過去も愛しい想いも...。 〈続きを読む〉

の即興 小説


ユーザーアイコン
作者: お題:壊れかけのもこもこ 制限時間:15分 読者:22 人 文字数:525字
毛布は良い。何故って、毛布は壊れようがないから。 その絶対的な真理を、ひとは、おそらく生後数ヶ月ごろには、無意識のうちに悟っているのだろう。子供がお気に入りの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:1000のぬくもり 制限時間:15分 読者:25 人 文字数:712字
「終末医療の一貫として」というお題目が無ければ使うことを許されないその医療魔法は、遠い昔の民話を依り代にしていた。一羽一羽が強力な麻酔と鎮静作用を持つ、甘い砂 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:近いお尻 制限時間:15分 読者:48 人 文字数:900字
死者の戻ってくる日、という風習は世界のあちらこちらにある。 東の島国では彼らの送迎まで用意するというし、西の大陸には気が触れるほどの鮮やかな色彩で彼らの帰還を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:刹那のコウモリ 制限時間:15分 読者:46 人 文字数:606字
一秒間の変身能力を手に入れた。 たった一秒。一日の内、たった一秒だけ、私はコウモリに変身できる。 数十冊の魔道書を読破し、怪しげな薬にいくつも手を出し、それこ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:女の海辺 制限時間:15分 読者:54 人 文字数:798字
人魚の子を身篭った。 孤独な身の上、それも自営業だったので、誰にも説明を求められはしなかったが、切実な問題として、産むのに良い場所がなかった。人間の病院には掛 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:暗い心 制限時間:15分 読者:71 人 文字数:758字
火傷だらけの鬼がひとり、森を歩いてゆく。 その晩は新月で、鬼にとって幸いなことに、今にも雨を降らしそうな厚い雲が夜空をみっしりと埋めていた。風も重く、優しく、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:孤独な黒板 制限時間:15分 読者:86 人 文字数:690字
その日、登校すると、黒板には暴言が描き殴ってあった。私の名前と一緒に。およそ板書にはそぐわない、たった数文字で黒板の端から端までを埋めてしまうほどの、大きくて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:3月の動揺 制限時間:15分 読者:81 人 文字数:743字
最近ちょっと困っていることがあって、と、二百年ぶりに再会した旧友は挨拶もそこそこに口火を切った。 最近と言ったって、私たちの尺度のことだ、どうせ三百年以内の出 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:セクシーな善人 制限時間:15分 読者:78 人 文字数:377字
新宿何とか丁目の細い裏路地、丑三つ時の間だけ、とある地縛霊が人生相談所をやっているらしい。しかも、実に盛況であるらしい。先週の土曜は十人以上の大人たちが寒空の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:当たり前の木 制限時間:15分 読者:80 人 文字数:456字
裏山に佇む一本の白樺が、私の神様だった。 いつから信仰心を抱くようになったのかは覚えていない。物心ついた頃にはもう、裏山で遊びまわった帰り道に、白樺に手を合わ 〈続きを読む〉