ユーザーアイコン
お題:暗い心 制限時間:15分 読者:43 人 文字数:758字

彼には梟の伴侶がいる

 火傷だらけの鬼がひとり、森を歩いてゆく。
 その晩は新月で、鬼にとって幸いなことに、今にも雨を降らしそうな厚い雲が夜空をみっしりと埋めていた。風も重く、優しく、火傷に外気が触れても鬼が痛みを覚えることはなかった。こんな夜はそうそう無い。鬼は、ここ一月ほど隠れ潜んでいた洞窟から、また別の住処へ移るために、多大な危険を犯して夜の森に出てきたのだ。
 あたりは真っ暗闇だった。月明かりも星明かりもない夜、獣たちのひそかな囁き声と、風に騒ぐ森の枝葉が打ち鳴らす海のようなざわめき、湿った土の匂い、普段は光に場所を空けているものたちが、暗闇の中では色めき立つ。人間には恐怖を与える彼らを、鬼はちっとも怖がらず、むしろ心から愛していた。かといって彼らに見つかりたい訳でもなかったので、鬼は足早に、しかし密かに、木々の間を進んでいった。
 鬼の火傷は光によるものだった。彼は心底から光を恐れ憎んでいた。正確には、光が自分の皮膚に与える痛みを憎んでいたのだが、彼にとってはどちらも同じものだった。鬼の仲間たちは、彼の恐れを理解できなかった。もちろん、鬼の種族は光よりも闇に親しむものではあるが、それでも満月や星を愛でていたし、宴会のときには赤々と蝋燭の灯を燈し、酒の水面にちらちらと照りはえる光を尊いものと呼んでいた。この鬼だけが、その光に耐えられなかった。いつからか全身の皮膚が焼けただれ、気の毒がった鬼たちが手当のために——患部をよく見ようとして——光を近づけると、鬼の皮膚は内側でひどく傷んだ。彼が泣き叫ぶ理由を、その苦痛を、仲間たちはどうしても理解できなかった。鬼は、仲間たちのもとを離れ、人の手が入っていない原生林の奥深くへと姿を消した。
 今の彼を苛むのはただ、天気の良い夜と、雨を前にして飛び交う蛍の光だけだ。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:こさと@3/13~15不在 お題:暗い心 制限時間:1時間 読者:244 人 文字数:1891字
1. 煮込み料理は好きかな、と尋ねてきた男性に頷きを返すと、彼はてきぱきと調理を行った。どうも昨夜から煮貯めていたらしい鳥骨のスープに内海の野菜を鮮やかに放り込 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
未完 ※未完
作者:マルチ お題:暗い心 必須要素:セリフ無し 制限時間:1時間 読者:295 人 文字数:563字
ある街はずれに、ひとりの男が住んでいた。かれには、かねてから不思議に思っていることがあった。彼には、なぜ、ひとが赤い色に興奮するのかがわからなかった。なぜなら、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:汚れた狐 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:956字
「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」 これがやりたい、とある狐は思った。 別に銃で撃たれて死にたいわけではなく、人間にショックを与えてやろうと、こう考 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:佐藤りーまん お題:汚れた狐 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:481字
獣の目を見たのは、その日が初めてだった。佐藤は荒ぶれた竹藪の奥で陽の光を避け、息を潜めている。昨日上級者向けの山を登っていると、正規ルートから外れ、遭難してしま 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:こののん@テストによるショック死するかも(´°ω°) お題:ナウい作品 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:55字
私は今、頭を乾かしている。そして今、ドライヤーを切る。服を着て、今、テレビを見始める。面白い。今から寝るなう。 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:日ノ宮理李@ハナねね町長 お題:楽観的な音楽 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:1085字
気分を変えるために場所を変えるのは実のところめんどくさい。その場で気分爽快になるのが一番であり、移動に時間をかけるのは凄くアホらしい。頭だって有効期限がある。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:すな お題:嘘のアパート 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:1209字
「部屋を借りたんだ」 ボヨウはそう言って笑った。「部屋を? 宿舎があるのに?」「うん、愛の巣。おれたちの」「……ああ、なんか言葉のチョイスが古いです、ボヨウ。気 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:早すぎた夕日 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:81字
轟は散歩をしていた。すると、なにやら虫が現れた。「なんだ、新種の虫か。」疑問がはれて守はすっきりした。そして再び散歩にもどった。夏の夕方はやはり明るい。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雷藤和太郎@バーチャルピエロ お題:疲れた宗教 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:1165字
「音楽を聞く?」「そう、音楽を聞く」 ハンバーガーショップの不安定な丸椅子に座って、キミコはにっこりと笑った。「ただ音楽を聞くだけの宗教なんて、聞いたこと無いよ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:疲れた宗教 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:97字
自宅で守は掃除していた。すると、なにやらチャイムがなった。「なんだ、あの宗教のおばさんか。」疑問がはれて守はすっきりした。そして再び掃除にもどった。台所の小バエ 〈続きを読む〉

の即興 小説


ユーザーアイコン
作者: お題:刹那のコウモリ 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:606字
一秒間の変身能力を手に入れた。 たった一秒。一日の内、たった一秒だけ、私はコウモリに変身できる。 数十冊の魔道書を読破し、怪しげな薬にいくつも手を出し、それこ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:女の海辺 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:798字
人魚の子を身篭った。 孤独な身の上、それも自営業だったので、誰にも説明を求められはしなかったが、切実な問題として、産むのに良い場所がなかった。人間の病院には掛 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:暗い心 制限時間:15分 読者:43 人 文字数:758字
火傷だらけの鬼がひとり、森を歩いてゆく。 その晩は新月で、鬼にとって幸いなことに、今にも雨を降らしそうな厚い雲が夜空をみっしりと埋めていた。風も重く、優しく、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:孤独な黒板 制限時間:15分 読者:53 人 文字数:690字
その日、登校すると、黒板には暴言が描き殴ってあった。私の名前と一緒に。およそ板書にはそぐわない、たった数文字で黒板の端から端までを埋めてしまうほどの、大きくて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:3月の動揺 制限時間:15分 読者:55 人 文字数:743字
最近ちょっと困っていることがあって、と、二百年ぶりに再会した旧友は挨拶もそこそこに口火を切った。 最近と言ったって、私たちの尺度のことだ、どうせ三百年以内の出 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:セクシーな善人 制限時間:15分 読者:49 人 文字数:377字
新宿何とか丁目の細い裏路地、丑三つ時の間だけ、とある地縛霊が人生相談所をやっているらしい。しかも、実に盛況であるらしい。先週の土曜は十人以上の大人たちが寒空の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:当たり前の木 制限時間:15分 読者:49 人 文字数:456字
裏山に佇む一本の白樺が、私の神様だった。 いつから信仰心を抱くようになったのかは覚えていない。物心ついた頃にはもう、裏山で遊びまわった帰り道に、白樺に手を合わ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:戦争と絶望 制限時間:15分 読者:60 人 文字数:861字
どうも私は気が狂っているらしく、ふたつの時間を交互に生きている。 現在と100年後の世界、と言うべきか、100年前と現在の世界、と呼ぶべきか、いまいち判断が付 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:静かな傘 制限時間:15分 読者:54 人 文字数:782字
不思議ではあるけれど、何の役にも立たない代物、というのが世の中にはそこそこ存在する。 祖父から譲り受けたこの傘も、そんな代物のひとつだった。祖父もまた知り合い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:傷だらけの笑い声 制限時間:15分 読者:40 人 文字数:855字
祖父はレコードが好きだった。 若い頃は歌うことも好きで、ほんのひととき、歌手として活躍したこともあったらしい。祖父の家には、その頃の古いレコードが何十枚も眠っ 〈続きを読む〉