お題:冬の悪魔 必須要素:ひょっとこ 制限時間:2時間 読者:49 人 文字数:1538字
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俺の実家は元地主で見上げるほど大きな蔵を一つ持っている。そして、今は使われなくなったその蔵の中には一つポツンとひょっとこのお面が所蔵されていた。子供の頃何故お面だけあるのかを祖母に聞いてみたことがあったが、この家を守ってくれているのよと曖昧にしか答えてくれず、その後同じことを問いただしてもはぐらかされて答えてくれなかった。俺は子供心に不思議に思ったが、同時にそれ以上聞いてはいけないのかもしれないと思い、忘れることにした。だから、実家の蔵にひょっとこのお面があることを父が死ぬまで思い出さなかった。


「あの人がこんなに早く亡くなるなんて」
母は喪服からハンカチを取り出し、めそめそと泣いていた。
「母さんしっかりしろよ。父さんは十分に生きたよ」
「こないだやっと70歳になったばかりよ!あと数年生きてくれてたっていいはずじゃない」
そう言ってまたすすり泣いた。さっきからこの繰り返しだ。確かに平均寿命に比べれば長いとは言い難い。だが、世の中には父よりもっと若くして亡くなる人がいるのだから、父も決して短くはないと思うのだが。
「そんなに泣くなよ。父さんだって母さんにそんな顔で見送って欲しくないだろ」
母のすすり泣きが止まった。母は俺のほうを振り返る。
「……それもそうね。私がしっかりしてなきゃ」
母はいつもの元気を戻し、キビキビと動き始めた。それを見て俺はほっとした。あれなら父も未練なくあの世に旅たてるだろう。


「あの蔵どうしようかな」
俺は夜中皆が寝静まった頃、蔵のことで頭を抱えていた。俺は一人っ子なので兄弟はいない。だから、父の相続人は母と俺なのだが、俺は普段東京で暮らしているためなかなかこちらのほうにはこれない。一方、母も高齢で足腰が悪く、あの蔵を手入れすることは出来ない。
「あの蔵にはお面しか入ってないし、必要ないよな。ならいっそのこと壊すか」
こうして蔵の処分は決まった。


父の葬式から数日後、俺は業者に連絡して蔵を壊してもらうことにした。なので、今日は蔵の中にあるものを家のほうへ運び出すことにした。
重い扉を開けた。中にあるのはあのひょっとこのお面だけだった。
「聞いてた通りだな。ここにはお面しかない」
一人呟きながら奥のほうに足を踏み入れた。中は数十年以上開けていなかったせいかカビ臭い。マスクでもしてくれば良かったと思いながら、ひょっとこのお面が掛けられている壁のほうに向かった。ひょっとこのお面を見つけ、手に取り、しげしげと眺める。
「不気味だな。なんでこんなものだけ置いてあったんだろう」
彼は不思議がりながら外に出ようと扉に向かった。ところが扉が開かない。
「嘘だろ。誰か閉めたのか?」
ちょうどそのとき後ろから気配を感じた。暗くおぞましい何かの。
「なんだ!」
振り返るとそこには魔物がいた。恐ろしい顔をした、魔物が。
「俺は悪魔だ。おまえ、よくもそれを外したな」
「このお面に何があるっていうんだ」
「それはおまえの先祖が家の繁栄を願って俺と誓約を結んだときのものだ。そして、それにはおまえの先祖が俺と誓約するときに代償にしたものどもの念が入っている。」
彼はハッとし、周りを見た。大勢の人間ではない者たちに囲まれている。
「オノレ、ヨクモワレワレヲコロシオッテ。ユルサン」
その者達は彼にゆっくりと近づいている。
「おい、助けてくれ」
「残念だが助けることはできん。それが誓約の代償だからな」
「そんな……」
「これはいずれ誰かが支払わねばならぬものだ。それがたまたまおまえだっただけのこと。助ける理由なんてない。じゃあな」
「まってく」
背中に衝撃をくらう。彼は息絶えた。


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