お題:安全なしきたり 制限時間:30分 読者:49 人 文字数:1322字

ルールとは何か
「この国、つまり日本にはたった一つだけルールがある。このルールを守ればまず怒られない」先生は私をまっすぐ見ている。
「それはなんですか先生」私はその目をまっすぐ見つめ返す。少しドキドキする。
「人に迷惑をかけない。これにつきます。これを守るだけで、世の中は平和で安全なものになるのです」
「迷惑をかけない、というのはどういうことですか」
 先生は開け放たれた窓に歩み寄る。先生はその窓から見える景色が好きだった。
「世の中にはいろいろな人がいます。その誰もが不快に思わなければ何も問題がないのです」
「これまでに私は少なくない人を不快にさせたように思います。それはいけないことだったのでしょうか」
「例えば誰を不快にさせたのでしょうか」
「そうですね」少し考える。「家族や友人でしょうか」
「家族は迷惑を掛け合うものです。了承の上であるはずなのでそれは問題ありません。友人は、仲がよければ多少ならしょうがないでしょう。しかし、関係の薄い友人、クラスメイトの中でも話さない人はいますよね。そういう人は嫌なことをされたり、言われたりしたら印象が悪くなって、ろくに話してくれなるでしょう。つまり、程度によるのです。関係の深い仲のいい人なら大抵のことは許してくれるでしょう。けれど、赤の他人なら少しのことで、下手したら裁判や示談、という話になってもおかしくありません。だから、誰にも迷惑をかけない、ということが基本のルールということになります。このことを常に意識すれば、法律を犯すこともまずないでしょう」
「私は先生にピアノを教わっています。これは先生に迷惑を掛けているということなのでしょうか」
「それは違います。私は対価として、料金をいただいています。つまり、了承しているのです。第一、私は教えることが好きなので、迷惑とは一つも思っていません。ただ、誰かに何かを教わるときは、教わる前に、お願いします、と、教わった後に、ありがとうございました、と言うとよいと思います。そうすれば、教える方も気持ちよく教えることができます」
「なるほど。では、どうすれば人に迷惑を掛けない生活ができるのでしょう。家から一歩も出なければいいのですか」
「それも違います。もちろん、仕事をして、ちゃんと自分で稼いでいれば問題はないでしょう。しかし、今のあなたにはそれはできません。なぜなら、人間は食べていかなければならないのです。そのためにはお金が必要なのです。そのお金はおそらく両親が稼いだお金でしょう。それは両親に迷惑を掛けていることになります」
「なるほど。では生きていない方がいいのですか」
「それもまた違います。まず、死んでしまった後ですが、基本的に自分で自分の遺体を処理できないので誰かに迷惑を掛けることになります。次に、あなたの知り合いが悲しむことになります。これは迷惑を掛けているということになります。あなたが生きていればそんな思いはしなくてすむのですから。そして、私はこんな話をしましたが、あなたは今のまま生きるとよいと思います。人は迷惑を掛けることで成長すると思うのです」
「なるほど。もう時間ですね。ありがとうございました」
「どういたしまして」
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