お題:ひねくれた傘 制限時間:30分 読者:135 人 文字数:1464字

想いを乗せた白い息
今日もまた、1日が終わってしまった。
伝えようと決めてからもう何ヶ月が経ったのだろう。
大好きで遠い遠い、彼の背中を見つめながら、また1日が終わる。
今にも雨が降り出しそうな、煙みたいな雲を眺めながら、私は帰ろうと息をついた。
ふう。
白い息。
ああ、もうそんな季節か。
そういえばやけに肌寒いと思っていた。
冬。春と夏と秋の次の、冬。
君の背中を見つめ始めてからもう三つも季節を跨いだけれど、私はずっとずっとこの位置にいるままだった。
なんとか隣に並んだと思ったら、すぐに追い抜かれて、また背中を追いかけて。
このまま進めないまま、私は何回か春を迎えてしまうのだろうか。
「よ。」
よく知った声が聞こえた。
いつのまにか隣に並んで歩いていた、優しい体温を感じながら私は、今日も目を逸らしながら答える。
「…よ。」
熱くなる顔を隠すように道端の小さなお花を見つめながら、私の心臓は嬉しそうに笑い始める。
どうやらまだ、今日は終わっていなかったみたいだ。

「今日の部活でさ〜、」
くだらない話を聞きながら一緒に歩く帰り道。
私にとっては何一つくだらなくはないのだけれど、あくまでも仕方なく、私は話を聞いてあげている。
家が同じ方向だなんて、前世で世界でも救ったんじゃないかと思ったりしているのだけれど、あくまでも仕方なく、私は一緒に歩いてあげているのだ。
「へえ、くだらな。」
それでも私のひねくれた口は言うことを聞かなくて、可愛げの無いことをいつも勝手に言ってしまうのだ。
本当に言いたいことは、こんなことじゃないのに。
私が本当に、ずっと前から言いたいことは。
「好きだなぁ、」
「え?」
目を見開いてこちらを見下ろす、彼。
え?
私、今、声に出した?
「えっ、あ、えっと、これは、」
えっと、と私は口籠もった。絶対に今、顔、真っ赤だ。
「えっと、その…俺の、ことが?ってこと?」
目が泳いでいる。
ああ、これは、きっと駄目な合図。
「違うよ、嘘。嘘だから!」
嫌だ、まだ終わりたくない。
必死に私は首を横に振った。
「そっか。」
安心したように彼はちょっと微笑んだ。お花が綻んだみたいに。
「よかった、俺さ、」
次の瞬間、私は人生の終わりみたいな何かを知ることになる。
「彼女出来たからさ。」



そこからのことはよく覚えていない。
気づいたら彼はいなくて、私の息は切れていて。
そこから走って逃げたのか、普通にばいばいしたのか、まったく覚えていなくて、ただひとつだけわかるのは、私の目からは水滴が溢れ出ているということ。
彼女。
全く、知らなかった。
予想外の失恋だった。
こんなはずじゃ、なかった。
失恋だとか、これからどう顔を合わせようかとか、いろいろ考えることがありすぎて、今は何も考えられない。
ふう。
また、白い息。
私は、次の春をちゃんと迎えられるだろうか。
あったかくなったら癒えるだろうか。
癒えるといいな。
珍しくそんな可愛いことを思っていると、空から冷たい水が降り注ぐ。
ああ、なんだか気持ちがいい。
ぽつぽつと冷たいものを頬に感じながら、彼の好きな人を想う。
どんな人だろう。
私より可愛い人なのだろうか。
私は前世できっと世界を救ったけれど、彼女はもしかしたら宇宙を作ったりしたのかな。
彼女を羨ましく思うと同時に、悔しいのでいなくなってほしいと、そんな単純なことを考える。
やっぱり私は、ひねくれているな。
そうしてちょっと笑みを零して、私は帰ろうと歩みを進めながら、ピンクの傘を開いた。

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