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お題:3月の動揺 制限時間:15分 読者:62 人 文字数:743字

それでも扉は閉ざさない

 最近ちょっと困っていることがあって、と、二百年ぶりに再会した旧友は挨拶もそこそこに口火を切った。
 最近と言ったって、私たちの尺度のことだ、どうせ三百年以内の出来事に決まっている。問いただしてみれば、やはり、ここ百年少々のことだと言う。いいかい、それは、最近とは言わないのだよ、と言い含めても旧友は聞く耳を持たない。
「で、いったい何だって言うんだい」
「まぁ待ってくれ。どうせ今日も来るはずだ」
 旧友はそわそわと、部屋にびっしり貼られたカレンダーと、所在無げに佇む小さなデジタル時計を交互に見た。二百年ぶりに訪ねた彼の家は、いったい何度の転居を繰り返したものか、元の面影を感じさせる家具はひとつもなく、そもそも兎小屋のように狭く、物置のようにがらくたが積み上がり、唯一の風流といえば、開け放たれた窓のそばに咲く一本の桜ぐらいのものだった。彼がそれ以上の説明を一向にしないので、私はまた言った。
「もう良いだろう、弥生、とっとと話してくれよ。いったい何だって言うんだい?」
「弥生?もうそれは俺の名前じゃないよ。とにかく黙っててくれよ」
「あんまり長居はできないんだよ、僕だって忙しいんだ、もう僕の月まで二週間もないんだし。せっかく呼んでもらったところ悪いが——」
 低くくぐもったノックがした。弥生は飛び上がった。
「来た!来た!ああ、卯月、テーブルの上に乗ってた方がいいぞ」
 それはもう僕の名前じゃない、と言うよりも速く、弥生は玄関に吹っ飛んで行って扉を開けた。開け放たれた窓から玄関へと、部屋を春風が通り抜けた。そしてたちまち、数百の、着古された制服たちの亡霊が、弥生の部屋をあっという間に埋め尽くした。僕はあっけに取られて声も出せず、とにかくテーブルの上に避難した。
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