お題:どこかの娼婦 制限時間:15分 読者:24 人 文字数:807字

仮の宿
 本来とるはずだった宿が、いろんな不運が重なって駄目になった。一日の営業回りを終えて、あたたかい寝床で一息つける予定だったのだ。それが訪れてみれば受付で告げられた一言。
「雨漏りがひどいので泊まれません」
 雨漏りくらいなんだと思った。客のご機嫌取りが仕事のようなもので、クレーマーに困らされる苦労は十分にわかっているつもりだった。が、いざ客の立場になるとそんな気持ちも忘れて、突如被った理不尽を端からあげつらってすべてを相手の非にしたくなる。
 宿の主人は慣れている。動じてはしまいだとよく理解している。客でないときの俺のように。
「試しにご覧になりますか」
 なんて、懐広く提案してくる。見てやろうじゃないかと思った。最近はあまり雨に出会わず、長い借りを返してもらうぞとばかり、その夜は豪雨だった。見たところ古くもないようだし、部屋の四隅に染みができる、そのくらいなら十分修繕がきくじゃないかと文句をつけてやるつもりだった。……が。
「今日の日中、隕石が落ちてきたんですよ」
 その客室にはそもそも天井がなかった。四隅どころか四方の壁、カーペットの下にいたるまで水浸しである。主人は悲しい目をしていた。一体空からとつぜんやってきた災厄に、なんの保険が下りるというのか、修理にかかる費用を思って、悲しみに暮れている。散々街を歩きまわってようやく得た契約先から、自社に帰った途端にキャンセルの連絡をもらう、俺にしたらそのくらいの悲劇といえるだろう。
「あのベッドで寝たいというのなら構わないです。大穴は下の階にまで及んでいますが」
 駄目になったのはその下を含む二部屋だった。穴を覗けば、もうひとりの客と思しき男が、同じように悲しみに暮れている。
 いいです、と遠慮がちに言って辞した。

 そして野宿するわけにも行かず、適当なラブホテルに一泊している。どこかから娼婦の喘ぎが聞こえてきて、さんざんな夜だと思った。
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