お題:右のふわふわ 制限時間:15分 読者:37 人 文字数:916字

魔道具工房にて
さあお入り、と師匠に促されて少女は作業場に足を踏み入れた。
部屋の隅の燭台に火が入り、闇が柔らかな光に払われる。
作業場は雑然とした印象があった。幾人もの魔法使いが愛用する魔道具は、師匠が一から作るというよりも、この雑然とした混沌の中から拾い上げられるものなのではないか。少女はそう感じた。

師匠は少し奥まった場所にある机に歩み寄り、少女もそれに続いた。
その机だけは多少なりとも片付けようと努力した後が見られ、やや空間があけられている。
そこには意味ありげに鎮座するふたつのこぶし大の物体があった。

左は滑らかな表面を持ったそら豆のような形をしていて、
右はふわふわとした毛に包まれた円錐形をしていた。

師匠は燭台の灯りがそれらをよく見えるようにかざし、注文があって発注したが手違いでふたつ届いたこと、注文者に渡すものはどちらか片方でいいから、好きなほうを少女に育てさせようと思っていることを伝えた。少女は驚いた。使い魔の卵を見たのは初めてであったし、師匠が好きな方を選べというのも大変珍しい出来事だった。
戸惑ったまま師匠と卵たちを繰り返し交互に見つめていると、師匠からさっさと戻って茶にしたいから早くするようにと叱責が飛んだ。少女は覚悟を決め、ふわふわした卵のほうに手を伸ばした。柔らかい毛のしたに硬い殻の感触がある。円錐の底面を触ってたしかめると、たしかに丸みを帯びていて、有機的な雫型を思わせた。

「これにします」

ぎゅうと円錐を抱きしめ、少女は青い瞳を師匠に向けた。
師匠は満足げに笑って、お茶にしようと退室を促した。


***


ビーカーに入れた水がカタカタと揺らいだかと思うと、そこから何かが飛び出した。
翼の羽ばたく音が朝の寝室に響き、少し大人びたがまだ少女と言える彼女の頭の周りをまわる。
水が入っていたはずのビーカーの中身はいまは空であり、少し大きめの鳥ほどのサイズに変化したドラゴンが彼女を叩き起こすべくギャアギャアと騒ぎ立てていた。
はい、はい、起きます。おはよう。
一緒に育っていく使い魔は彼女よりも幾分か時間にうるさいようだ。
今日も彼女は使い魔と一緒に、魔道具工房で修行に励んでいる。
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