お題:プロの墓 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:738字
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湿った弾丸
 ある男が死んだ。
 何も残せず、何も果たせず。
 ただ冷たい石の下、地面から6フィート下で物言わぬ躯となって埋葬された。
 墓に刻まれた名と生没年以外、彼が何者かを知る術は今はもう存在しないだろう。

 重く冷たい雨が傘を叩く。吐く息は、冷たい。無機質で陰鬱とした雨模様。
 だが私と彼の生死を分けたあの日の暖かく軽い雨と比べれば、まだ有情と言えよう。

 その道で名を馳せたであろうプロフェッショナルたる彼は雨によって殺された。
 彼が仕損じた最後の仕事のターゲットである私は雨によって生かされた。


 線香代わりと言い訳をしてタバコに火をつけ、重い煙を肺いっぱいに吸い込み、猥雑に捻れた思考を平坦にしようと軽い酸欠状態へと自分を貶める。

 あの日……
 照りつけるような夏の日差し、フライパンのように熱せられたアスファルト。
 スコープの十字線と私の顔が重なる直前に突如降り出した天気雨は地面にぶつかった端から蒸発し湿度を急上昇させ弾丸に予期せぬ抵抗をもたらした。
 恐らく名うてのスナイパーであっても神が気まぐれに降らした雨までは計算できはしなかったのだ。
 放たれた弾丸はまだらな湿気の分布と回転の力とで不規則な弾道へと歪められ、私に穴を穿つこと叶わず。彼が厳重な警戒態勢の中で持ち込めたただ一発の銃弾と杖に偽装した狙撃銃はその役割を果たせず。

 私の死に起因する混乱に乗じて逃げ出す、そんな算段もまた機能せず。
 駆けつけたシークレットサービスに容赦なく、贅沢なまでの数の銃弾を打ち込まれ彼は死んだ。


 後の捜査で彼のおおよその正体はつかめたが。結局、それが限界だった。
 あるプロは、そのおぼろげな正体の秘密を抱いたまま、石の下で延々に黙秘を続ける……
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