お題:光の14歳 制限時間:1時間 読者:55 人 文字数:1592字

散歩
 ある日とある街の昼下がり。
 オフィス街というには言い過ぎだが住宅街とは言えないような都市計画が進む街の中心街で少年は佇んでいた。
 周りのビルに囲まれたそこはポツンと街の真ん中に採光がとれるようにスペースを上手く開けられており、冬だと言うのにも関わらず風は穏やかで日差しは暖かく、ベンチに座って談笑するのも良いだろうと思われる場所であった。空は晴れ渡り雲一つなく空気は澄んでいた。上空には何も飛ばず、ビルのガラスがキラキラと陽光に煌めき輝いていた。その場所で手持ちのサンドイッチかホットドックでも食べれば良い昼食をとった、と思えることだろう。
 少なくともそこが放射能で汚染されていなければ。
 街には人影は微塵もなく、その少年を除けば一切の生命はそこに存在していなかった。
 ざりっ、と少年が足を動かし地面を踏みしめる。
 少年の周囲には生命はなかった。そこは公園であったが既に主を喪った車が道路脇や公園の回転する遊具に衝突したまま二度と動かないようにされていた。車の中にいたであろう人は既に白く、半円形の白さは砕け散り座席には砂を撒いたようになっていた。公園の至る所で同じようにされ、公園の砂以外の白さで斑模様を描いている状態だ。
 オフィス街であったそこも既に誰もいないと思われた。ガラスが残っているがその建物を利用する者は既にいない。いたとしても、この放射能の大気をものともしない生物になっているのであれば、過去の街の主たちとは既に違う存在であろう。新たな主人が誕生するまで存在しているのか、それとも壊れていくのか分からなかったが少年はそれらに一瞥すると、再び歩き始める。
 見た目からして14歳程度、しかし目からは年齢には不相応な剣呑さが、そして何よりも他の人間とは違い頭上には輪が存在していた。それは言ってしまえば家庭用の蛍光灯のように昼の明るさの中でも輝いていた。
 少年は進む。
 何か目的がある訳でもない。生存者を見つけようとするということでもない。
 助けてくれと言われて何をする訳でもない。だが誰かを助ける訳でもない。
 少年は気の向くままに進んでいくだけ進み、自由に何かをすることをした。
 だが何かをするからといって何かを望んだ訳でもなかった。
 この世界で少年は特に何かをすることはなかった。ただ周囲の人間に「神だ」、「天使だ」ともてはやされたにすぎなかった。
 少年はなんでもできた。死に逝く者を蘇らせ万物を転換させられる。望まれれば全てを実現できる。
 誰もが気にしないわけがなかった。だからこそ少年は光の少年と呼ばれた。
 世界は繁栄したがたった一人の人間の、たった小さな、細やかな誰もが気軽に言える言葉で。
「何もしないでくれ」
 終末は何の気なしに、ある酔っ払いによって始まった。そして。
 世界は滅んだ。
 核戦争でも細菌でも隕石でもなく、ただ少年は「何もしなかった」。
 そう言われた瞬間から人々は魂が抜けるように、突然死に始めた。
 原因は分からず恐慌が起こりかけたが起こる前に収束した。
 誰もが言っていたにも関わらず、神だと言っていたにも関わらず。
 何でもできる存在が世界に介入しないことを指示されたならば。
 管理者がいなくなった世界は物語でもプログラムでもやはり終わるしかないのだろう。
 少年はその際も特に何もしなかった。何故かたまに生存している人間もいたが何もしなかった。
 ただ、頼まれれば施しをした。そして恐れられた。
 かつて戦争の勝者となった征服者が、とある国の国民性を見てこう言った。
「この国は12歳だ」
 ならば、神という世界の征服者は少しばかり年上の14歳程度で十分なのではないだろうか。
 少しばかり腹の立つ命令をされて逆らったところで誰が文句を言うのだろう?
 少年は綺麗に整頓された区画を歩いていた。
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