お題:免れた天使 制限時間:15分 読者:66 人 文字数:1224字

神の印
「……というわけで、今日は言うことを聞かない王様の心を開くため、この国の赤ん坊を皆殺しにします」
 背中に白い鳥の羽を持つ美しい天使は、その笑顔に似つかわしくない物騒なことを言い放った。
「ただし、この国には我らの民も一緒に住んでいるので、その赤ん坊は避けなくてはなりません。一応、民の代表者に『家に印をつけておけ』と伝達してあるので、それが伝わっている人たちはそうしていることと思います。そういう家は避けましょう」
 何か質問は、と周りにいる年若く見える天使たちを見回すと、その中の一人が手を挙げた。
「あの、何でこんなに若い天使ばかりで任務にあたるんですか?」
「この作戦と同時に、我らの民をこの国から脱出させます。赤ん坊を皆殺しにすると同時に民たちに準備をさせ、それを率いて国を出ます。多くのベテラン天使はそっちについています」
 脱出ルートの先には巨大な湖がある。ここの水を開いて民を渡すのに、たくさんの天使の力がいるのだ、と付け加えた。
「こっちは赤ん坊を殺すだけですから。君たち新人でもできます。人間も昔から言うでしょう、『赤ん坊の首をひねるよりも簡単なことはない』と」
 大きく間違った用法であったが、新人天使たちに気にする者はいなかった。

 その夜、闇夜に紛れて天使たちは対象の国に入った。
「さて、各自散開して殺して回ろう。家畜も見逃すんじゃないぞ」
 うなずき合う若い天使たちの中に、あのベテラン天使の姿はない。彼は王宮の初子を殺す班を率いている。こちらの新人ばかりの班を率いているのは、キカナエルという天使だった。天使として生まれて、まだ日は浅いが、「他に比べたら比較的マシ」という理由で班長に任命された。
 キカナエルは続ける。
「我らが民の家には、説明があったように印が――」
 しかし、ふと言いよどんだ。
 あれ? 印がつけてある家を避けるのだったっけ? その逆、印がついてる家を襲うのだったっけ?
「どうしたの、キカナエル?」
 他の班員に聞かれて、キカナエルは自分の疑問をみんなに伝えた。天使というのは素直にできているものなのだ。
 しかし、その素直さが班員たちを混乱させる。
「えっと、確かついてる家を避けるんじゃなかったっけ?」
「いやいや、わざわざつけるんだから、そこを襲うんだって」
「でも、民に通達したって言ってたじゃん」
「だから、通達して襲うべき家に印をつけてるんだってば」
 ああ、とその言葉でみんな納得した。そうだ、襲うところに印をつけておいてくれているんだった。
「よし、じゃあやろう! みんな印のついた家を襲うぞ! 一人も逃がすな!」
 おー、と天使たちは気勢を挙げて各自散って行った。

「待ちなさい、キカナエル」
 そこでふと、辺りが明るくなる。ベテランの天使が顔を見せた。
「これがシミュレーションでよかった」
 ベテランの天使はキカナエルの間違いをただし、彼を作戦から外してしまった。
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