お題:愛、それは嘔吐 制限時間:15分 読者:70 人 文字数:1329字

愛の試練
 タクが下田さんに告白するらしい。校舎裏に呼び出すというベタな手段をとったあいつは、俺に「物陰から見届けてほしい」と頼んできた。
「そして、ダメだった時は慰めてくれ」
 そんな予防線を張るなよ、と俺は辟易したが、野次馬根性を発揮してこっそりと見守ってやることにした。

「し、下田さん。ごめんね、こんなところに呼び出して」
 タクめ、緊張しているな。俺が隠れている木は、下田さんの背後5メートルほどのところにある。そのせいで、タクの表情はうかがえるが、下田さんの反応はわからない。
「いいよ……。それで、どうしたの?」
「じ、実は、俺、き、君のことがずっと好きで……」
 おお、言った。意外と根性あるな。少し俺はタクを見直す。それを言い出すのに30分ぐらいかかるかと思っていた。
「そ、そうなの?」
「よか、よかったら、俺と、その、つつつ、付き合ってほしい」
 ここまで言えたなら、もう上出来じゃないか。俺は謎の上から目線で、タクに喝さいを送る。これだけできるなら、いいよな。たとえフラれたってさ。
 そう俺が思っていると、下田さんは予想外の行動に出た。
 タクから二、三歩後ずさると、突然右手を自分の顔に近付けた。
 背後からなので俺の位置からは何をやっているのか分からないが、タクは見たこともないくらいに目を見開き、口を開けている。
 次の瞬間、下田さんの行動は何だったのか知れた。
「ゲェェェェ……」
 突然の、女子の口から出るにしてはガッツのありすぎる音声。
 まさか、と思ったら下田さんは下を向き、ビチャビチャビチャビチャと汚らしい音を立てて、口から薄茶色い半固形の液体を地面にぶちまけた。
 少し開いた下田さんの腿と腿の間から、それが零れ落ちるのが見える。ツン、とした臭いが辺りに立ち込めた。
 ゲロを吐くほど、嫌だったのか。
 いや、違うか。下田さんは手を口元の辺りに持っていった。
 つまり、自分で吐いたのだ。
 だから、自ら嘔吐を選んでしまうぐらいに、タクの告白が嫌だった、ということになる。
「え、え……?」
 タクは呆然としている。青ざめているのがここからでもよく分かる。
 好きな女の子の口から、断りの言葉の代わりにこんなものがぶちまけられたのだ、ドン引きもドン引きだろう。
 そして、それ以上に下田さんはタクに引いているということに……。
「違うの!」
 不可食もんじゃ生成器こと下田さんはそう言って、右手でタクの腕をつかんだようだ。恐らくは、自分の口に突っ込んで、喉の奥をいじってゲロを吐かせた右手だ。
「木本くんのことが、吐くほど嫌いってことじゃないの! むしろ、嬉しいの! 嬉しいからゲロを吐いたの!」
 下田さんは、とんでもないことを言い出した。
 彼女が説明したところによると、下田家では愛の告白を受け入れる時に、女子は必ず嘔吐せねばならないと家訓で決まっているらしい。
 つまりはOKということなのだが、それを見て相手の男が嫌になることも多かったようだ。
「だからね、こんなわたしでもいいと言うなら、このゲロにあなたの顔を突っ込んで見せて!」
 タクは断った。
 いつか下田さんのゲロに顔を突っ込む男は現れるのだろうか。
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