お題:愛、それは嘔吐 制限時間:15分 読者:38 人 文字数:1329字

愛の試練
 タクが下田さんに告白するらしい。校舎裏に呼び出すというベタな手段をとったあいつは、俺に「物陰から見届けてほしい」と頼んできた。
「そして、ダメだった時は慰めてくれ」
 そんな予防線を張るなよ、と俺は辟易したが、野次馬根性を発揮してこっそりと見守ってやることにした。

「し、下田さん。ごめんね、こんなところに呼び出して」
 タクめ、緊張しているな。俺が隠れている木は、下田さんの背後5メートルほどのところにある。そのせいで、タクの表情はうかがえるが、下田さんの反応はわからない。
「いいよ……。それで、どうしたの?」
「じ、実は、俺、き、君のことがずっと好きで……」
 おお、言った。意外と根性あるな。少し俺はタクを見直す。それを言い出すのに30分ぐらいかかるかと思っていた。
「そ、そうなの?」
「よか、よかったら、俺と、その、つつつ、付き合ってほしい」
 ここまで言えたなら、もう上出来じゃないか。俺は謎の上から目線で、タクに喝さいを送る。これだけできるなら、いいよな。たとえフラれたってさ。
 そう俺が思っていると、下田さんは予想外の行動に出た。
 タクから二、三歩後ずさると、突然右手を自分の顔に近付けた。
 背後からなので俺の位置からは何をやっているのか分からないが、タクは見たこともないくらいに目を見開き、口を開けている。
 次の瞬間、下田さんの行動は何だったのか知れた。
「ゲェェェェ……」
 突然の、女子の口から出るにしてはガッツのありすぎる音声。
 まさか、と思ったら下田さんは下を向き、ビチャビチャビチャビチャと汚らしい音を立てて、口から薄茶色い半固形の液体を地面にぶちまけた。
 少し開いた下田さんの腿と腿の間から、それが零れ落ちるのが見える。ツン、とした臭いが辺りに立ち込めた。
 ゲロを吐くほど、嫌だったのか。
 いや、違うか。下田さんは手を口元の辺りに持っていった。
 つまり、自分で吐いたのだ。
 だから、自ら嘔吐を選んでしまうぐらいに、タクの告白が嫌だった、ということになる。
「え、え……?」
 タクは呆然としている。青ざめているのがここからでもよく分かる。
 好きな女の子の口から、断りの言葉の代わりにこんなものがぶちまけられたのだ、ドン引きもドン引きだろう。
 そして、それ以上に下田さんはタクに引いているということに……。
「違うの!」
 不可食もんじゃ生成器こと下田さんはそう言って、右手でタクの腕をつかんだようだ。恐らくは、自分の口に突っ込んで、喉の奥をいじってゲロを吐かせた右手だ。
「木本くんのことが、吐くほど嫌いってことじゃないの! むしろ、嬉しいの! 嬉しいからゲロを吐いたの!」
 下田さんは、とんでもないことを言い出した。
 彼女が説明したところによると、下田家では愛の告白を受け入れる時に、女子は必ず嘔吐せねばならないと家訓で決まっているらしい。
 つまりはOKということなのだが、それを見て相手の男が嫌になることも多かったようだ。
「だからね、こんなわたしでもいいと言うなら、このゲロにあなたの顔を突っ込んで見せて!」
 タクは断った。
 いつか下田さんのゲロに顔を突っ込む男は現れるのだろうか。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
檻の中 ※未完
作者:にい お題:今度の囚人 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:667字
同室の4人にいまや名前はない。親から受け継いだ苗字も、将来の期待をかけて贈られた名も、法を犯したときから名乗ることは許されなくなった。個人を識別するために必要 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:欄橋/イトカ@企画消化中 お題:アルパカの夏休み 制限時間:15分 読者:20 人 文字数:569字
汚れなき白き生物は、ある一人の思惑により世界に売られたその身を狙う強欲な"モノ"から必死に逃げまとう新緑が芽生えていた大地は、血潮が染み付き、腐敗した土地へと姿 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:regalec お題:アルパカの夏休み 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:867字
過去、現在、未来。時間は連続的に変化していき、すべての物質は、少なくとも非相対論的な解釈のもとでは同じ時間の関数の存在としてここにある。我々とて例外でない。足元 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:くちなし お題:汚れた船 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:484字
たぬきは泥舟に乗って、沈んでしまった。昔話であったっけ。うろ覚えだけれど、結構残酷だった気がする。そうそう、カチカチ山だ。あれ、いまじゃあソフトに話を変えられて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:beta0874 お題:それいけお茶 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:922字
一面の茶畑が広がるのどかな田舎にも、トラブルはつきものだ。ひとりの男の子の泣き声が抜けるような青空に響いている。しかし、その涙の理由を訪ねてくれる大人はすぐ周囲 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:日ノ宮理李@バブみ道団長 お題:見憶えのあるゴリラ 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:1241字
駅前で人が吹き飛ぶのが見えた。「あぁ……」 いつかはやるんじゃないかと思って人物がその中心で暴れてた。 うん、彼女だ。「どうしてこんなことに?」「あ、あぁ、な 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:ロシア式の月 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:438字
「СПАСИБО」スパーシバと、相手にお礼をいうと相手の方も話せて嬉しかったとお礼を言って会釈をして去っていった。正直、疲れた。仕事関連で海外の人と話す事はよく 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:むにゃむにゃ@即興 お題:最後の百合 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:472字
また一本百合が枯れた。花瓶に残されたのは一本だけになってしまった。匂いを嗅ごうと花瓶を近づけようとするも、手がうまく動かない。仕方なく体を寄せるだけにした。窓か 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:佐藤りーまん お題:強い年賀状 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:517字
破けた紙が指に張り付いた。強い雨が体を打ちつける。「どうしてこんなことになったんだろうな」後ろから声がした。父親だ。母親に怒鳴りつける威勢の良さはもうない。事態 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:akishinohonobu お題:アルパカの不動産 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:594字
「えっと、家を探してるんですけど」目の前にいるのは一匹の動物。話しかける事が可笑しいのはわかっているが、彼(彼女?)しかいないので仕方ない。俺は言い聞かせて声を 〈続きを読む〉

雨宮ヤスミの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:危ない机 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:1280字
「人食い机の噂って知ってる?」 彼女は沈みかけた三日月のように唇をゆがめた。 人食い机は、僕の通う中学校に伝わる怪談の一つだ。 どこかの教室に人食い机と呼ばれる 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:希望のスキル 制限時間:15分 読者:16 人 文字数:1217字
「居眠り運転のトラックとテロリストの車爆弾に挟まれた上に、落雷に打たれ地盤沈下で足元の道路が崩れて死んでしまうとは、あまりに可哀想だということになった」 パッと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:希望の人 制限時間:15分 読者:19 人 文字数:1005字
その箱は、開けてはならぬ箱。 開けてはならぬ箱は、いつかは開いてしまう箱。 箱に詰め込まれていたのは、ありとあらゆる災厄であった。 箱が開かれてからというもの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:ゆるふわ愛され孤独 必須要素:2000字以上3000字以内 制限時間:1時間 読者:34 人 文字数:3001字 評価:1人
栗山さんのことを僕よりよく知っている男は、この世にはいないだろう。 栗山さんは、僕と同じ高校同じクラスの二年生。下の名前はユキというが、多くの場合は苗字で呼ば 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:黄色い門 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:1274字
「赤、青、赤、青、赤、赤、青だ。いいな、間違えるなよ」 そう言って先輩は、僕にピルケースを握らせた。中にはいくつかの錠剤やカプセルが入っている。 この薬を飲んで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:犬のテロリスト 制限時間:15分 読者:16 人 文字数:1049字
カルブは腕のいい犬の調教師だった。 その技術を見込まれて、彼はある組織から勧誘される。 組織は、「この世は間違った神に支配されている」と謳い、「暴力によって邪 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:緩やかな深夜 制限時間:15分 読者:31 人 文字数:1000字
秋の夜長というけれど、それほど長さに差を感じない。 それはすぐに寝てしまうからだ、と彼は言ってわたしを外に連れ出した。 玄関先で大きな欠伸をすると、外にいた彼 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:免れた天使 制限時間:15分 読者:22 人 文字数:1224字
「……というわけで、今日は言うことを聞かない王様の心を開くため、この国の赤ん坊を皆殺しにします」 背中に白い鳥の羽を持つ美しい天使は、その笑顔に似つかわしくない 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:蓋然性のある感覚 制限時間:15分 読者:33 人 文字数:1144字
「大体のことは感覚でわかるんだ」 筑波くんはよくそう言うが、学校の成績は良くない。感覚でわかるんじゃないのかよ、と言うと「こういうのは勝手が違うから」と言い訳す 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:たった一つの使命 制限時間:15分 読者:27 人 文字数:1128字
「みなさんには、使命があるのです。人間は、必ず一つの使命を帯びて生まれてくる。今日旅立つみなさんは、その使命を探しに長い長い旅に出るのです……」 中学の卒業式の 〈続きを読む〉