お題:紅茶と悪魔 制限時間:15分 読者:43 人 文字数:1268字

悪魔の紅茶
「お紅茶をおいれしましょう」
 気が付くと、わたしは草原に建つペンションの、テラスに置かれた白いテーブルについていた。
 陽光は眩しく、青空には白い雲がゆっくりと動いている。時折吹く風が、草原をさあっとないだ。
 ティーセットの載ったワゴンの傍らに立ち、わたしにお茶を供そうとしてくれているのは、高級そうなスーツに身を包んだ、やや顔色の悪い青年だった。
 有体に言って、美形だ。こんな執事を雇った覚えはない。というか、執事なんて雇える身分ではない。わたしがドギマギしているのを見て、彼はフッと笑った。
 その時、この爽やかな草原には似つかわしくない香りが、わたしの鼻腔をついた。
 腐臭だ。
 ああ、とわたしは青年の正体に気付いた。
「悪魔……!」
 聞いたことがある。この世に最後にサタンが現れたのは、20世紀初頭のイタリアで、高級スーツに身を包んでいた、と。身なりは綺麗だが、どこか腐臭がするともされていた。
「お気づきになられましたか」
 正体を言い当てられても、青年は怯まずに微笑み返す。
「悪魔って、バレたら逃げるもんじゃないの?」
 ノンノン、と楽しそうに悪魔は人差し指を振った。
「最近は、『人間の方が怖い』などと言われましてね。悪魔だ、となっても逆に親しげにして下さる方が多いんです。あなたも、そういった御仁とお見受けしましたが」
 確かにそうだ。わたしは「イギリスかぶれ」なんて言われている通り、オカルトマニアだ。
 そして、紅茶党でもある。
「悪魔のいれる紅茶、飲んでみたいわ」
 仰せのままに、と悪魔は慇懃に礼をした。

「どうぞ」
 琥珀の色をした紅茶を白磁のカップに注いで、悪魔は恭しくわたしの目の前にそれを置いた。
「いただくわ」
 湯気の立つそのティーカップの耳をつまんで、わたしはまず香りを味わう。
 フレーバーティーだ。バラの香りがする。
「我が庭園で育てました、青いバラを使いました」
「悪魔もガーデニングをするのね」
 ええ、と悪魔は初めて営業スマイルではない笑みを浮かべた。
「そうれはもう、終末までやることがございませんから。知っておいでですか? 青いバラは地獄にしか咲かないのですよ? 人間は、科学技術で作り上げましたがね」
 天然の青いバラが咲く地獄の園は、一体どんな景色だろう。好奇心に駆られたが、きっと魂を対価にとられるので、「見たい」とは言わなかった。
 代わりに紅茶を一口、含んでわたしは吹き出した。
「まっず……」
 ぞうきんを絞った後の水みたいな味がした。何でその味を知っているか、はわたしの過去に関わる話なのでここでは省く。
「人間のお口には合いませんでしたか……」
「一体、どういうお茶なの?」
 悪魔は無言でティーポットの中を開けた。わたしは悲鳴を上げる。バラの花は香りづけだけに使ったようだ。
「いや、これ、可哀想でしょ……」
「これは罰なのです……」
 ティーポットの中にいたのは、紫色の小さな鬼だった。湯につかってふやけている。
「悪魔の紅茶、ダメなようですね……」
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