お題:紅茶と悪魔 制限時間:15分 読者:46 人 文字数:1268字

悪魔の紅茶
「お紅茶をおいれしましょう」
 気が付くと、わたしは草原に建つペンションの、テラスに置かれた白いテーブルについていた。
 陽光は眩しく、青空には白い雲がゆっくりと動いている。時折吹く風が、草原をさあっとないだ。
 ティーセットの載ったワゴンの傍らに立ち、わたしにお茶を供そうとしてくれているのは、高級そうなスーツに身を包んだ、やや顔色の悪い青年だった。
 有体に言って、美形だ。こんな執事を雇った覚えはない。というか、執事なんて雇える身分ではない。わたしがドギマギしているのを見て、彼はフッと笑った。
 その時、この爽やかな草原には似つかわしくない香りが、わたしの鼻腔をついた。
 腐臭だ。
 ああ、とわたしは青年の正体に気付いた。
「悪魔……!」
 聞いたことがある。この世に最後にサタンが現れたのは、20世紀初頭のイタリアで、高級スーツに身を包んでいた、と。身なりは綺麗だが、どこか腐臭がするともされていた。
「お気づきになられましたか」
 正体を言い当てられても、青年は怯まずに微笑み返す。
「悪魔って、バレたら逃げるもんじゃないの?」
 ノンノン、と楽しそうに悪魔は人差し指を振った。
「最近は、『人間の方が怖い』などと言われましてね。悪魔だ、となっても逆に親しげにして下さる方が多いんです。あなたも、そういった御仁とお見受けしましたが」
 確かにそうだ。わたしは「イギリスかぶれ」なんて言われている通り、オカルトマニアだ。
 そして、紅茶党でもある。
「悪魔のいれる紅茶、飲んでみたいわ」
 仰せのままに、と悪魔は慇懃に礼をした。

「どうぞ」
 琥珀の色をした紅茶を白磁のカップに注いで、悪魔は恭しくわたしの目の前にそれを置いた。
「いただくわ」
 湯気の立つそのティーカップの耳をつまんで、わたしはまず香りを味わう。
 フレーバーティーだ。バラの香りがする。
「我が庭園で育てました、青いバラを使いました」
「悪魔もガーデニングをするのね」
 ええ、と悪魔は初めて営業スマイルではない笑みを浮かべた。
「そうれはもう、終末までやることがございませんから。知っておいでですか? 青いバラは地獄にしか咲かないのですよ? 人間は、科学技術で作り上げましたがね」
 天然の青いバラが咲く地獄の園は、一体どんな景色だろう。好奇心に駆られたが、きっと魂を対価にとられるので、「見たい」とは言わなかった。
 代わりに紅茶を一口、含んでわたしは吹き出した。
「まっず……」
 ぞうきんを絞った後の水みたいな味がした。何でその味を知っているか、はわたしの過去に関わる話なのでここでは省く。
「人間のお口には合いませんでしたか……」
「一体、どういうお茶なの?」
 悪魔は無言でティーポットの中を開けた。わたしは悲鳴を上げる。バラの花は香りづけだけに使ったようだ。
「いや、これ、可哀想でしょ……」
「これは罰なのです……」
 ティーポットの中にいたのは、紫色の小さな鬼だった。湯につかってふやけている。
「悪魔の紅茶、ダメなようですね……」
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:フニャフニャの妹 制限時間:15分 読者:0 人 文字数:58字
うるさい。エアコンの音、差し込んでくる日光、頭に覆いかぶさる眠気、かすかに聞こえる蝉の音、つきものの沈黙、うるさい。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:暗いカラス 制限時間:15分 読者:2 人 文字数:706字
昔々のお話です。 あるところにカラスという名の鳥がいました。 カラスは生物学的には間違いなく鳥であるのですが、ペンギンや鶏のように空を飛ぶことができない鳥のよ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ぽつタイプライター お題:愛と憎しみの狸 制限時間:15分 読者:13 人 文字数:620字
タヌキ自体はそうでもないが、タヌキの置物にだけは異常な執着を見せる男がいる。 彼はタヌキの陶器の置物を見るや耐えがたい嫌悪感と吐き気に襲われ、猛烈に叩き割りた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
5525 ※未完
作者:日ノ宮理李@ハナねね町長 お題:これはペンですか?違うわ、それは血痕 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:821字
人は比較する動物。 誰かを貶めたり、蔑んだり、けなしたりする……。 うーん、どれも同じ意味か。やることは変わらない。人に嫌われることをするってこと。どんなに好 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
2018081401.txt ※未完
作者:樹真一 お題:これはペンですか?違うわ、それは血痕 制限時間:15分 読者:16 人 文字数:642字
「これはペンですか?」 という書き出しで始まり、「違うわ、それは血痕」 というオチでぞわりとさせるショートショートが好評を博したのが7年前で、それ以来、そのヒッ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:DDT お題:春の大学 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:482字
まだまだ大学生になるのが、特権階級だったころ。東京の私立大学、N大学には毎年春先に開かれる知る人ぞ知るイベントがあった。春休みに入ると卒業生は去り、卒業できなか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:官能的な負傷 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:373字
彼女は美しかった。私の知る彼女のうちで最も艶めかしく、蠱惑的だった。圧倒的な戦力差を物ともせず、僅か数千の部下と共に数十倍は下らない数の敵軍を引き留めた彼女。そ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:興奮した決別 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:98字
自宅で仁は瞑想していた。すると、なにやら雑念が現れた。「なんだ、あのあの子への気持ちか。」疑問がはれて仁はすっきりした。そして再び瞑想にもどった。こんな夏の終わ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:理想的な土 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:774字
自家栽培のために裏庭に作った畑には、肥料が欠けていた。そのへんの土に種を蒔いたところで勝手に野菜が大きく育ったりはしないのだ。とはいえ、初心者のことだから買い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:絵描きの同情 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:133字
仁は繰り返すように髪のセットをしていた。すると、なにやら白いものが現れた。「そんなことある!?」仁はあたりを見回した。「なんだ、あの最近買ったワックスか。」不安 〈続きを読む〉

雨宮ヤスミの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:大好きな理由 制限時間:15分 読者:28 人 文字数:1387字
「あたしのことを大好きな理由を5個挙げて?」 かわいい女の子にこんなことを聞かれるシチュエーション、正直僕は憧れていた。 だけど、こんな形で叶えたいとは思わなか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:出来損ないの笑い声 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:1079字
わたしの通っていた中学には、「蛇男」という怪談があった。 体育館の床下から「蛇男」の笑い声が聞こえてくる、というもので、在校生ならみんな知っている怪談であった 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:今度の負傷 制限時間:15分 読者:20 人 文字数:964字
トシダ高校の野球部は呪われていると評判だ。毎年必ず大怪我する生徒が出る。 指導方法などの問題ではない。何せ、みんな練習中以外の時間に怪我をしているから。 5年 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:フォロワーのお金 必須要素:コミティア 制限時間:1時間 読者:36 人 文字数:3220字 評価:1人
業界最大の登録者数を誇るコミック系SNS「コミック・コミュニティア」、通称「コミティア」。 ここではプロ・素人を問わず、多くの漫画家が日夜作品を発表し、しのぎ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:楽しい英霊 制限時間:15分 読者:25 人 文字数:1185字
どこの国の部族か忘れてしまったが、「プンナムパパラヤー」という祭りがある。 非常に楽しげな響きなので、そのインパクトある名前はよく覚えている。 「プンナムパパ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:贖罪の会話 制限時間:15分 読者:24 人 文字数:1265字
こんな中学にしては珍しい、いい先生なのだと思っていた。 中二の時の担任の太田先生は、クラス内で孤立しがちな生徒によく話かけていた。 わたしが通っていた学校は結 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:蓋然性のある私 制限時間:15分 読者:20 人 文字数:1184字
この世のすべては宇宙人か何かが作ったプログラムかもしれない。 そんな疑念を持ったまま、わたしは生き続けている。 一度、同僚に相談したが、返答は冷たいものだった 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:灰色の愛 制限時間:15分 読者:20 人 文字数:1074字
「ねぇ、愛って何色か知ってる?」 リカは隣に寝る男に尋ねた。20を過ぎたリカよりも、倍は年を取った男だ。ざらついた無精ひげを撫でて男は、「そうだなあ……」と気の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:メジャーな男 制限時間:15分 読者:26 人 文字数:1236字
わたしの家の近所では、「メジャーマン」と呼ばれる怪人物がいるという噂があった。小学校は元より、中学の学区域レベルでも名が知れていた。 高校に入って、不審者情報 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:混沌の昼食 制限時間:15分 読者:24 人 文字数:1108字
「清田も一緒に食べようぜ」「いや、俺、お昼は一人で食べるって決めてるから」 そう言って俺は弁当箱を抱え、何とか教室から脱出する。 これから孤立してしまうかもしれ 〈続きを読む〉