お題:悔しいおっさん 制限時間:15分 読者:56 人 文字数:1310字

走り抜けるもの
 どうやら俺は荷物を届けなくてはならないらしい。
 いつの間にか背負っていた荷物の中身が何かはわからない。届け先がどこなのかもわからない。
 ただ、はっきりしているのは、目の前に伸びるこの道をまっすぐひた走らねばならない、そのことだけだ。
 走る時に、考え事はいらない。走ることを考えるのは、靴のメーカーか作家にでも任せておけばいい。今、俺に必要なのは、頭をからっぽにすることだった。
 俺は何度か足踏みをして、まっすぐな道を走り始めた。
 景色を楽しもうとか、そういうことは一切考えられない道だ。
 道の両側には何もないから。
 壁だろうか、溝だろうか、そういう黒い何かが広がっているばかりで、目を楽しませるようなものはない。
 もちろん、それも必要ないことだ。ただ走るだけでいい。荷物を背負って、走り抜けるだけでいい。
 やがて俺はY字路に差し掛かる。
 右か左か。考える間もなく、俺は左に曲がる。
 これでいいんだ。考えるというのは、雑念が入るということだ。もし、考えて左に曲がったとしたら、俺は右が正解だったのではないか、と後々悩んだだろう。
 それは余計な荷物だ。荷物は、背中のこれだけでいいのだから。
 道はだんだんと狭まってきた。両側にある壁か溝か分からないそれは、決して足がつかない場所だと本能が言っているから。
 ふと、両側の様子が変わる。
 完全な板塀になった。細長い板を縦に地面に刺して並べたような、当然裏側に横板があるのだろうが、ともかくそういうシンプルな板塀が並んでいる。
 そして、その塀にもたれている人間が見える。
 何人かいるようだが、そのどれもがくたびれた中年男性だった。たるんだ腹、薄くなった頭髪、全員が全員、そんな姿で下を向いている。
 その目には光るものがある。涙だ。
 中年にもなって泣くのは、異常なことだと思う。
 時を積み重ねるほどに涙もろくはなるが、積み重ねるごとに鈍感にもなるから。
 そんな彼らが、泣いてしまうようなことがあるのか。
 俺は横道にそれてしまった。考え事をしてはいけないのに、足を緩めてしまう。
 緩めるから、耳に余計なものが聞こえてくる。

「どうしてこんな人生になってしまったんだ……」

「何で、夢を諦めたんだ……」

「あの時、もっと努力していればこんなことには……」

「たばこ、喫いたい……」

 おじさん共の悔恨は、俺の足を絡め取った。どんどん足が重くなってくる。

「何で、妻以外と寝てしまったんだ……」

「どうして俺は子どもと離されなくちゃならない……」

「何で俺じゃなく、あいつが出世するんだ……」

「電子タバコじゃ物足りない……」

 一人おかしいやつがいる。
 そのことに気付いた時、足の重さが少し軽くなった。
 どれだ。塀にもたれる無数のおじさんの中から、俺はそいつを探した。

「何でコンビニバイトは、番号で種類が分からないんだ……」

 いた。アレに違いない。
 傍目から見ても、歯が黄色い。ヘビースモーカーの証だ。
 俺はそのおじさんに、胸ポケットに入っていたタバコをやった。
 すると、ぐんと足は軽くなり、とおりを
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