お題:知らぬ間の足 制限時間:15分 読者:58 人 文字数:1162字

人が怖い、人より怖い
 中学二年生の松田トシキは、ある夏林間学校で山奥のロッジに泊まった。
 クラスメイト達と雑魚寝をしていたのだが、深夜尿意を覚え、目が覚めてしまう。
 不便なことに、ロッジの中にはトイレがない。山道を降りたところに炊事場があって、そこに仮設トイレがあるだけだ。
 トシキは隣で寝ている友達のツトムを起こそうと思ったが、ピクリとも動かずに寝ている彼を起こすのは忍びないと思い、一人で外に出た。
 別に炊事場まで下りなくとも、とトシキは夜闇の中考える。どこかの藪に向かって立小便をしてもバレまい、と思いついた。そうして山道の横道に入り、木の陰で用を足す。
 し終った頃に、ふと木の向こうに何者かの気配があることに気が付いた。
 こっそりと覗き見、トシキは青ざめる。
 そこにいたのは、頭にライトを二本刺した鬼気迫る形相の女だったのだ。女の手には、木槌と五寸釘、そして藁人形が握られている。
 丑の刻参りだ。
 トシキはかつてホラーマンガで読んだ知識を思い返す。
 丑の刻参りは、決して見られてはいけない。見られると、かけた呪いが自分に返ってしまうから。だから、目撃者を殺さねばならないのだ。
 気付かれたら殺される。トシキは急いでその場を離れようとする。
 その時、足元で大きな音が鳴った。
 枝を踏み砕いてしまったのだ。
 丑の刻参りの女が、鬼の形相でこちらを見た。
 目が合う。
 一瞬の静寂の後、トシキは悲鳴と共に逃げ出した。
 一方の女は、一瞬呆気にとられたものの、すぐに我に返って「待て!」とトシキの後を追う。

 這う這うの体で、トシキはロッジに帰りつく。すぐさま自分の布団に入り、ガタガタ震えた。
 まさか、ここまで追っては来ないはず……。
 が、その期待を無情にも砕く音がした。ロッジの玄関が開いたのだ。
 しまった、鍵をかけておけばよかった。
「寝ていた者は、足が暖かい。起きていた者は……」
 女の低い声が響く。他の者は起き出さない。みんな寝入っている。
「違う……」
 女は玄関に近い方から順に、布団の中に手を入れている。
「違う……」
 トシキがいる布団は、玄関から数えて四番目だ。
 すぐに順番が来る。女の衣擦れの音が迫る。今に、トシキの隣、ツトムの布団に手を……。
「違……!?」
 きゃあ!? と女は大きな悲鳴を上げた。
 さすがにその声で他のクラスメイトが起き出す。女は慌ててロッジを出て行った。
 何だ、何だとクラスメイトたちが騒ぐ中、トシキは生きた心地がしなかった。
 蒼い顔をしていると、同じく蒼い顔のツトムが話しかけてきた。
「なあ、俺の隣にずっと、青白い顔の女が寝てたんだ。それが、さっき何かが布団の中に手を入れて来て、それにさわって逃げ出したんだ……」
 幽霊と鈍い画家hし合ったのだ。
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