お題:宿命の彼方 制限時間:15分 読者:58 人 文字数:934字

苗字血縁同定
 藤森タカコは、結婚して森藤タカコになった。
 まさか自分の苗字を逆さにした人と出会い、恋に落ち、結婚までしてしまうとは思わなかった。
「ある意味では、宿命だね」
 タカコの夫のコウキは、そんな風に笑った。
 タカコが森藤姓になった夜、不気味な夢を見た。
 夢の中で、タカコは新居のベッドに一人で寝ている。すると、ちょうど胸の辺りにすうっと影が現れるのだ。
 影の正体は、髪をふり乱した女だった。髪の間からのぞくぎらついた目玉がタカコを見下し、こう言うのだ。
「やっと見つけたぞ、森藤の末裔よ……。恨み晴らさでおくべきか……!」

 タカコはコウキに夢の話をした。コウキは大層恐れ、「何かうちの家柄にあるのかもしれない」と実家の両親や祖父母に問い合わせた。
 しかし、有力な手掛かりは見つからない。その間も、タカコは同じ夢を見続ける。
「恨み晴らさで、という割に何もしてこないの」
 タカコは努めて明るくそう言った。コウキの不安げな顔は変わらない。新妻は、明らかにやつれていたから。
 コウキの実家が檀家をしている寺を訪ねたり、いくつかの神社でお祈りしたが効果はない。枕元にお守りを置いても見るし、お札を置いても関係なく出てくる。

 打開策は、意外なところから現れた。
 タカコは、自分の実家の両親にも夢のことを相談していた。最初は、特に父親が「向こうの家が呪われた家系だ」などと騒いでいたが、調べてみるとそれがまったくの「逆」だとわかった。
 実はタカコの実家、すなわち藤森家は四代前、タカコの曾々祖父の頃に、一度苗字を変えていたのである。
 変更前のその苗字こそ、「森藤」であった。
 当時のことは、曾祖父の日記に「父から聞いた話」として書き遺されていた。
 曰く、当時の森藤家に使用人として勤めていた女がいたが、叔父(曾々祖父の弟)が彼女に乱暴し、更に子どもを下させたことがあった。そのことを苦にした女は「森藤家を末代まで祟る」と言い残し、川に身を投げて自殺した。
 曾祖父の叔父は祟り殺され、森藤家全体にも呪いがかかったが、さる高名な術師の助言を受けて、苗字を変更、以後は祟りはなくなった、という。

 そんなわけで、藤森タカコは夫婦別姓をとることになった。
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