お題:ワイルドな感覚 制限時間:15分 読者:49 人 文字数:1202字

人の好き好き
 大鷺高校の真倉エミリは、部活動として自ら創作した紙芝居を近隣の保育園や幼稚園、図書館などで読み聞かせしている。
 ただ、その内容があまりに皮肉に満ちていたり、子どもに聞かせたくないような内容だったり、要するに「黒い」ことで有名だった。一部からは称賛の声もあったが、近年は「リアルエルサゲート」などとも批判されている。
「また、新しい紙芝居を作ろうと思うんだけど」
 そういうことなので、エミリの友人で紙芝居の絵を担当している美術部員の七條露子は、彼女のことが心配になっていた。
「いいけどさ、今までみたいな内容だったら、あたし絵を描かないよ?」
「じゃあ別の人に頼むから、とりあえず考えた話を聞いてくれる?」
 こいつに心配は通用しない。一言交わしただけで、露子は悟ってしまった。むしろ、「自分がエルサゲートのはじまり」とでも言い出しかねない人間だった。
「わかった。じゃあ、聞いて判断するわ」
「ええ、それでは昔々……」
 エミリは話し始めた。

 あるところに漁師がいて、その漁師は嵐の夜に人魚を助けた。
 漁師の村では「人魚は魔物だ」と恐れられていたが、若いその漁師は美しい人魚に惚れてしまい、誰も来ない入り江の岩かげに彼女を隠し、怪我が治るまで保護しようとした。
「意外と普通ね」
 ここまでは、と内心で露子は付け加える。
「あら、普通の話しかしていないわよ」
 とぼけてみせてから、エミリは続ける。
 嵐の翌日、漁師は人魚に「何か食べたいものはないか」と尋ねた。人魚は上半身が魚で、下半身が人間だったので……。
「待って、待って……!」
「どうしたの?」
「今何かおかしかった気がするんだけど、もう一回言ってくれる?」
 嵐の翌日、漁師は人魚に「何か食べたいものはないか」と尋ねた。人魚は上半身が魚で……。
「はい、おかしい」
「どこがかしら?」
「上半身が魚って、半魚人じゃん!」
 しかも、漁師は「美しい人魚に惚れた」はずだ。これでは、魚の頭の女に惚れたことになってしまう。
「そうだけど、何かいけないの?」
「いけないでしょ、普通は上半身が人間で下半身が魚なのが人魚でしょ?」
「でも魚の頭を愛するがゆえに漁師になった、って人だから……」
「それはそれでヤバいでしょ!」
 ともかく、とエミリは話を続ける。
 人魚は漁師に「カニが食べたい」と言った。漁師は急いでカニをとってきた。
 漁師がカニをゆでようとすると、人魚は名状しがたい素早い動きで漁師の手からカニを奪取し、そのまま甲羅ごとバリバリ噛み砕いた。
「そう、人魚はサメの人魚だったの」
「サメの人魚だったの、じゃないでしょ!」
 その姿を見た漁師は千年の恋も冷めてしまい、村人に人魚のことを通報、殺してしまった。
「めでたし、めでたし」
「いやいや……」
 人の好みという「エゴ」がぶつかり合う、というお話よ。エミリは笑った。
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