お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:29 人 文字数:3235字 評価:0人

夏だけない名前
それまでコスモスという名称を聞くと、つい頭の中でゼノサーガを思い出してしまう僕だったが、最近はそれが変わった。最近思い浮かべるのは秋桜さんのことになった。

「キラキラネームみたいですが、違います。アキザクラです」
と彼女はそういってシェイクハンドを求めてきた。シェイクハンドつまり握手の事だ。手を差し出してきた彼女がシェイクハンド!って言わなかったら僕は寄生獣か何かの様にいきなりその手が伸びてきて胸を突かれるんじゃないかと思った。ちなみにおーい竜馬っていう漫画が実家にあったが、その作品の中でたしか勝海舟先生が握手のことをシェイクハンドって言っていたような気がする。シェイクハンド、手を振るんだって。握手ってそんなに手を振るものなのだろうか?握手に対してマックシェイクのようポップなイメージは僕の中で無い。スマップの曲のシェイクみたいなイメージもない。

とにかく秋桜さんはそういう人であった。僕と彼女はシェイクハンドの後、二人でリフトの券のもぎりのバイトにいそしんだ。

冬季バイトである。近くのスキー場でそういう募集が出ていた。もぎり係募集というバイトであった。そうはいっても、もぎり以外にも仕事はあるんだろうなあ。大変なのかなあ。大変なのはやだなあ。重たいモノとか持ちたくないなあ。なんて思って心配していたのだけど、そのバイトは本当にもぎりの事しかしなかった。もぎり係という募集に対して、誠実な仕事内容であった。

リフトに乗る客が来たらもぎってもぎってもぎるだけ、これぞまさにもぎり係。もぎり係以外の何物でもない。もぎる客がいない場合は、二人でその辺の地面の雪を踏んだりしていた。踏んだりちょっと大根おろし程度につまんで投げ合ったり食べたりしていた。正直暇であった。ありがたかったのは秋桜さんが僕が雪を食べても平然としていたことだ。ちなみに都会に住んでいる親戚とかの話によると、都会人は雪を食べたりしないそうである。雪を食べたりしたらそれはそれは異常な目で見られるらしかった。雪には埃とか、空気中の汚いものが含まれているので、食べないんだそうだ。都会人はそういうことに敏感であるらしかった。賞味期限が1日でも過ぎると、ぺっぺってなるらしい。

「食べる?」
もぎりがひと段落すると、僕は親愛の念を込めて秋桜さんに大根おろし程度の雪を差し出す。もちろん自分も大根おろし程度の雪を食べながらである。すると秋桜さんは、
「うい、ご相伴に預かりましょう」
と、僕の差し出した雪は遠くに投げて自分でその辺の雪を拾って食べていた。そんで、
「御宅なかなかいきますねえ」
「これはどうも」
なんていう会話をしていた。ある日なんて突然に僕が雪をつまむとポケットからかき氷のブルーハワイのシロップを出して、手にかけてきたりもした。
「ああ、べたべたになるう」
「ししし、ただの雪じゃあもう味気ないだろう!」
「な、なんてことをするんだお前は!」
「ちょっと、べたべたな手を寄越すな」
僕たち二人はもぎる対象がいなくなって暇になると、ずっとそういうことをしていた。
「今日は私が塩おにぎりを結んできましたよ、そちもおひとついかがですか?」
「ええ?いいんですか?」
「どうぞぞうぞ」
「すいませんねえ、こちらは何のお構いも致しませんで・・・」
「食べな、カチコチになっちゃうからすぐ食べな」
「あ、はい・・・ってこれ雪じゃないか!」
「雪ですけど」
「ひどい奴だお前は!僕の純情を弄んだ!」
「うるさいもぎりが」
「お前もだろ!」
僕たちは1日のもぎり時間のほぼ大半をそのような事をして過ごしていた。おそらく来年とかはこのスキー場ももっと仕事内容を考えるに違いないだろうと思えた。それくらい僕たちもぎり係は寸劇めいたことをしていた。考えてみたら去年はそんな募集は出ていなかった。今年初めて導入されたんだろうと思う。スキー場経営者も僕たちのような寸劇めいた奴らにこれでお給金を払わないといけないのは大変だろうなと思った。

しかしまあ、僕たちがそういう事を考える必要はない。僕たちはもぎりである。一介のもぎり係である。もぎりが経営について考える必要はない。甘城ブリリアントパークとかのもぎりとかならまだしも、リフトのもぎりである。しかもバイトなのだから。

「滑りたいなあ・・・」
秋桜さんは時たまそういって奥州山脈を見上げたりしていた。僕はスキーとかスノボとか、したこともなく、ソリですらうまく滑れないタイプの生き物であったため、ほっとしていた。開店前とかに面の状態を調べる人とかが滑ったり、厨房のバイトの人とか、ペンションのバイトの人とかがいひいひうへうへあはあは言いながら滑ったりしていたが、僕たちもぎり係はそういう事をしなかった。

「秋桜さんって滑れる人?」
ある時、あまりにも滑りたい滑りたいと斜面の亡霊に憑りつかれたように言っていたので聞いてみると、
「滑れんよ」
という答えが返ってきた。さらに、
「私はもぎり係で一緒になるやつがいい人そうだったら教えてもらおうと思っていた口だよ」
そう続けた。
「あ、そうなの?滑れないけど僕」
「そうだろうね。興味なさそうだもん」
「あ、わかる?そうです、そうなんですよお。すいませんねえ」
そののち、彼女は除雪車が運んできたコーヒー牛乳みたいな色をしたこ汚い雪の塊、サーロインステーキ10キロくらいの様相の雪をもってきて僕にぶつけてきた。
「何をしやがる!」
「腹で滑れ、その上に私がのってタオパイパイみたいにしてやる」
なんて言ってきたので仰天した。このエピソードは世界仰天ニュースに出してもいいんじゃないかと僕は思った。

またある日の事、
「君はさ、お金稼いでどうするの?」
「何が?」
秋桜さんはもぎり済みの券をスキーウェアのポケットにしまいながら聞いてきた。
「いやだってさ、冬休みだよ?仕事ばっかりしてんじゃん」
「それは秋桜さんもそうでしょう?」
僕たち二人は同い年だった。彼女は冬休みの間、関東圏から親戚の家を頼ってこちらに来て、バイトしているそうであった。僕はその話を聞いてそんなにスキー場で働きたかったのかと思って、やべーなこいつと思っていた。
「うーん、まあでも、アマゾンでね、ほしいものがあるんだよ」
「ああ、そうなの?」
「うん、こっちはね、店もあんまないでしょう?だからさ、ゾンとかを見るとね、こう心が躍るよ、それでほしいものがたくさんできたんだ。ほしいものリストがいつまでたっても減らないんだよね」
「へー」
そんな話をした。秋桜さんは特に興味もなさそうであった。聞いておいて失礼な輩じゃないかこいつはってなった。

「秋桜さんは?」
「私?」
「うん、雪が見たいとか僕からしてみると異常者の発想だけど、どういう事?」
「・・・」
そこで急に彼女は黙ってしまって、雪を一点見つめし始めた。その姿は熱視線を撃つサイクロプス見たいだったので、慌てて、
「言えないなら別にいいんだけど」
と、遠慮をした。すると秋桜さんは、

「私ね、このバイトが終わったらちょうど目標額が溜まるの。詳しくは君も聞きたくないだろうから、端折るけどまあ、色々あってね親の遺産とか、そういうのがあるんだけど、でも、これからの自分の人生設計を去年のカレンダーの裏に書き出してみるとちょっと少なかった。それでバイトしてんだ」
そういった。
「何?大層な話?」
親の遺産とか、重たい話?
「どうかな?でもね、私卒業したら海外に行くの。そんで雪も降らない土地だから、まあ、たまたま、こうして雪を見に来たんだよ」

僕はそれを聞いて、少しセンチメンタルな気持ちになった。きっともうもぎりのバイトもできないことになるだろうと思った。

彼女の名前は、秋桜雪子というそうだ。

今はもう海外である。

永遠の夏に暮らしているらしい。

作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:30 人 文字数:2328字 評価:2人
――あれは遠い夏の日だった。 両親の結婚記念日ということで、二人が前々から旅行を企てていたのは知っていた。 僕も今年で一五歳。中学三年生ということもあり受験勉 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:39 人 文字数:3394字 評価:2人
目の大きい少女だな、というのが第一印象だった。 それを上目づかいにこちらに見せてくるのだから、たまらない。「ねえ、おじさん。あたし泊まるとこないんだけど」 俺 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:disturbおじさん お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:16 人 文字数:3693字 評価:1人
――始まりは春だった―― 初めて彼女と出会ったのは中学二年生の春だった。県内で行われていた小説のコンテストで知り合ったのだ。同じお題で小説を書いた私は彼女の書い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:29 人 文字数:3235字 評価:0人
それまでコスモスという名称を聞くと、つい頭の中でゼノサーガを思い出してしまう僕だったが、最近はそれが変わった。最近思い浮かべるのは秋桜さんのことになった。「キラ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:17 人 文字数:2649字 評価:0人
島にはろくに遊ぶものがなく、最近では人家から発見した将棋盤がもっぱらの暇つぶしだった。とはいえ駒も足りてないし、盤もひび割れ四隅が欠けてるし、ついでに僕もレイ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:inout お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:3012字 評価:0人
夏休み、吸血鬼になった、最悪だ。私は夜の落ち切った中を静かに進む、周囲は木々、フクロウが呑気に鳴いていやがる。月明かりすら差し込まない完全な闇は、今の私にとって 〈続きを読む〉

和委志千雅の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:今日の夕飯 必須要素:血痕 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:1117字
冷蔵庫が開かなくなった。「おいおいちょっと待ってくれよ」冷蔵庫には業務スーパーで買ってきたマーガリンが入っていた。マーガリンも入っていれば、チェリーのコンポート 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:肌寒い蟻 必須要素:クリスマス 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:928字
お正月もとっくに過ぎて、七草がゆも食べ終わり、もう世間は恵方巻やらバレンタインなどに向かっている昨今、家に帰ってきてポストを開けると、クリスマスカードが入ってい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:何かの秀才 必須要素:スケベ人間 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:900字
ある日、習字がしたいと思った。年も替わったし習字とかしたいなーって思った。普段習字とかしないけど、去年とかおととしとかもしてなかったけど、でも今年はしたい。なん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:29 人 文字数:3235字 評価:0人
それまでコスモスという名称を聞くと、つい頭の中でゼノサーガを思い出してしまう僕だったが、最近はそれが変わった。最近思い浮かべるのは秋桜さんのことになった。「キラ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:寒い春 必須要素:寿司 制限時間:15分 読者:30 人 文字数:1133字
実家から救援物資が届いた。一人暮らしの私の生活を案じてのことである。「荷物送ったから、受け取ってね」父母は荷物という名で呼ぶが、私はそれを救援物資と呼んでいる。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:アブノーマルな太陽 必須要素:年収 制限時間:15分 読者:29 人 文字数:996字
寒いんだけど、太陽が出ていた為、私は布団を干すことにした。「干した後の布団で寝ると最高だよねえ。ダニのしがいのにおいとホント最高だよねえ」なんて言いながら布団を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:昨日食べた階段 必須要素:ひょっとこ 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:874字
実家に備わっている階段は急だ。あるいはそれを昔ながらの階段というべきなのかわからないけどもとにかく急だった。「久々に見ると急だなあ」お正月実家に帰省した際もそう 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:燃えるつるつる 必須要素:日本 制限時間:15分 読者:21 人 文字数:996字
お正月、実家に帰省した際、そんなつもりはなかったのに気が付いたら金田一少年の事件簿を読みだしていて、雪夜叉のところまで読んでいたものだから、わああ!ってなった。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:箱の中の社会 必須要素:頭痛 制限時間:15分 読者:29 人 文字数:964字
ピクシブにはタグの数の制限があるらしい。タグが制限されるようなものを提出していないため、私にはまったく関係ない話だけど、とにかくそういう制限があるらしく、制限と 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:闇の食事 必須要素:右ストレート 制限時間:30分 読者:28 人 文字数:1742字
「あははははー」「いひひひひー」「うふふふふー」実家に帰省して、家族で楽しく食事をしていると、急に部屋の電気が消えた。でもまあ誰も騒がなかった。それというのも雪 〈続きを読む〉