お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:79 人 文字数:3693字 評価:1人

私と彼女の夏休み
――始まりは春だった――

 初めて彼女と出会ったのは中学二年生の春だった。県内で行われていた小説のコンテストで知り合ったのだ。同じお題で小説を書いた私は彼女の書いた物を読み、一目惚れしていた。

「貴方が書いたお話はとても幻想的なのね」

 そう話した彼女にも、一目惚れしていた。

 気づけば彼女と時間を共にするようになっていた。一緒に多くの物を見て、そして多くの作品に触れていた。秋には共に紅葉を見て様々な物を食した。冬には寒さと雪景色を楽しんだ。そしてまた春を迎えてお互いに作品を作り、共にコンテストに参加した。
 そうしてお互いに作品を作り合い、読み合い、そして中学卒業を迎えた日に、私は彼女に交際を申込んだのだ。

「そんなことを言わなくたって、ずっとそばにいたのに」

 そんなことを言ってのけた彼女に、今思えば勝ち目など無かったのだ。そして、高校生になり二人でまた作品を作り共有した。


――終わりを知った冬――

 高校を卒業し、大学に入学した私は、彼女とルームシェアを行い一緒に暮らすようになった。二人で東京の大学に通うため、都内で二人暮らしを始めたのだ。

「ちょっと手狭になってしまったけれど、ここは創作に向いている場所ね」

 そう笑った彼女の笑顔は今でも私の宝物だ。

 事が起こったのは大学に入学してから二年経ったある春の日のことだ。大学内の掲示板に掲示があった。

――第一回 学内小説コンテスト開催のお知らせ――

 当然、私は参加するつもりだった。そして、彼女も参加するだろうと。開催のお知らせを確認し、期限やお題と言ったルールを確認する私は、彼女を気にかけることができなかった。
 テーマは夏、一万字以内で収める事、提出は九月末までとなっていた。私はネタ帳を開き、頭の中でプロットを作成しようとしていた。そして、運命の夏を迎える。

「私はもう、コンテストに参加しないわ」

彼女は俯きながら言葉を続ける。

「いえ、少し違うわね……私はもう物書きをやめようと思うの」

彼女はまっすぐに私の目を見ながら、そう告げたのだった。


 初めて彼女と喧嘩したと思う……喧嘩といえば嘘になるだろう。一方的に私が癇癪を起こしたのだから。彼女の書く作品に心惹かれたから、彼女の作るものが好きだったから。そんな環境の中で作品を作ることができることもなく、私はコンテスト作品を完成させることができなかった。

 プロットは出来ていた。初めて彼女と出会った夏のことを書くつもりだったからだ。あの中学時代の懐かしい、それでも鮮明に思い出せるあの夏のことを。だからこそ、彼女と分かり合えなかった事が何より辛かった……いや、悔しかったのかもしれない。

 九月を過ぎ十月を迎え、十一月になろうとしていたある日、私は学内で親しかった友人とお茶をしていた。その頃私は彼女と顔を合わせることも殆ど無く、時たま家で言葉を交わす程度だった。避けられていた訳ではない、むしろ避けていたんだと思う。そんな中、唐突に友人からこんなことを聞かれた。

「彼女さん一緒じゃないんだー、いつも一緒だったのにさー」
「まあね……どうも顔を合わせづらくてさ……」

そんな他愛のない会話の中だった。

「でも、持病もあるみたいだし彼女さんも大変だよねー」

 持病がある? 聞いたことが無かった。一緒に暮らすようになってからもそんな素振りは無かった。

「私……持病があるなんて知らないよ……?」

 縋る気持ちで、何かの冗談だと言ってほしくて友人に聞き返す。

「あれ、てっきり話してるものだと思ったけど……心臓に持病があるって」

 そして、初めて私は彼女の身体のことを知ったのだ。重い心臓病であること、治療法は無く、もしかすればすぐにでも悪化する可能性があること……そして、今年の夏に病状が悪化したこと。友人から聞いたどれもが私にとっては知らないことで、知らされていないことだった。


――二人で夏を探して――

 友人から話を聞いた夜、彼女を待っていた。聞きたいことがある、話してほしいことがある、その一心で私は彼女を待っていた。
 ふと、鞄の中で携帯がなった。彼女だろうか、携帯を確認すると彼女の母親からだった。既に時刻は二一時を回っており電話を掛けてくるには遅い時間だった。時間のせいか、それともこのタイミングだからなのか、私は直感的にこれは良くない知らせを運んできたのだと確信していた。

「あ、もしもし今家にいるのかい?」
「ええ、家にいますよ……彼女は外出中ですが」

 電話口の声は落ち着いていた。

「いい、冷静に聞いてね?……さっき都内の総合病院から連絡が有って、緊急搬送されたと聞いたわ」

何も考えられなかった。頭の中が真っ白になり、何も考えることができなかった。

「……心臓に……着替えを持って……私もこれから……」

電話口から聞こえてくる声が頭に入らない、何を言ってるか理解が出来ない、受け入れられなかった。

 気づけば私は総合病院のロビーに居た。周りに人はおらず必要以外の電気が消されたロビーは私の不安を更に煽るものだった。時計を見れば既に二三時を指していた。ふとロビーに人が入ってくる。彼女の父と母だ。

「済まないね、こんな時間に電話を掛けてしまって」
「大丈夫かい?顔が白いわ……」

 彼女の両親が私を気遣う言葉を掛けてくれる。私はその言葉を聞きながら、気づけば泣いていた。

「私……心臓のことなんて何も知らなくて……何も教えてくれなくて……」

 ぽろりぽろりと、涙が出る。泣いては行けないと思っていても止まらなかった。彼女の両親は、実の親のように泣く私をあやしてくれていた。

 翌日、彼女はICUから病室へ移されていた。面会も行えるようになっており、もう何も心配ないと思い込んでいた。医師からの説明があるからと彼女の両親が私を同席させてくれた。

「落ち着いて聞いてくださいね」

 医師がそう切り出す。

「彼女の命は持って今年の夏までです」

そう、医師は告げたのだ。


――夏休み――

 彼女は春まで入院し、退院したのは五月になってからだった。

「あーあ、君には知られたくなかったんだけどね」

 彼女は病室でそう言ってのけた。

「知れば心配するだろうから、私は私を心配する君より君が作品を書いている方が好きだから」

 退院した彼女を迎え、実家に帰らず私と一緒にいると言った彼女は、傍から見れば健康そのものだった。

そして、運命の八月を迎える。


 八月、大学の夏季長期休暇に入った私たちは、様々なところを見て回った。湘南の海や夏の色を濃く彩る高尾山、多摩川でのBBQなど夏だからこその体験を二人でしていた。
 隅田川や昭和記念公園の花火を見に出かけもした。そうする中で様々な写真も取った。

「写真があれば寂しくないでしょう?君は寂しがり屋だから」

 そんなことを言う彼女には、自身の死が見えていたのだと思う。そうしてあっという間に八月は終わりを迎えようとしていた。
 そんなある日の事、彼女がこんなことをいい始めた。

「そういえば……スイカ割りしたことが無いねぇ」

「したこと無いけどやりたいの?」

「どうせならやってみたいじゃない、目隠しをしてくるくる回って、棒を持ってスイカを割るんでしょう? とっても楽しそうじゃない」

 そんな彼女の願いを叶えるために、私はスイカを買いに出かけた。

「私は家で待っているよ、少し身体がだるくてね」

 そういう彼女を家に残して買いに出かけたのが、私は今でも悔やんでいた。

 家についた私を迎えたのは、リビングで伏せる彼女だった。ピクリとも動かない彼女を見た私は手に持った買い物袋をその場に投げ捨てて、彼女を抱き起こす。

「あぁ、良かった間に合ったねぇ」

「話さなくていいから、今救急車呼ぶから!」

「あぁ、いいよ、もう間に合わないから」

彼女は私の顔に手を当てる、こぼした涙を拭うように。

「ほら、かわいい顔が台無しだよ?泣いちゃダメだよ……ほらスイカを食べよう……約束だからねぇ……塩を振って……二人で……」

ふっと彼女の手から力が抜ける。私と彼女の、永遠の別れだった。


――エピローグ 彼女と過ごす夏――

 じわじわと熱気を放つ地面に水を打ちながら墓石を磨いていく。そうしてきれいにした墓前に切ったスイカとお線香を焚き、手を合わせる。そうして今年に何が有ったかとか、あるいは夏の思いでを話す。彼女と過ごした夏休みが無かったことにならないように。
 そうしてひとしきり話した後、スイカに塩を振って片方を口に運ぶ。

「今年も、一緒にスイカを食べれたねぇ……あの時の約束忘れてないよ」

 私は、彼女と過ごした夏を書き上げる。彼女の夏休みとうったその小説は、表紙にスイカと塩と、花火をこしらえて、誰の目にも止まらないよう本棚にしまってある。
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