お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:115 人 文字数:2328字 評価:2人

しょっぱくて甘い夏休み。

 ――あれは遠い夏の日だった。
 両親の結婚記念日ということで、二人が前々から旅行を企てていたのは知っていた。
 僕も今年で一五歳。中学三年生ということもあり受験勉強を今のうちからしっかりやっていこうと心に決めていた。この夏は二人に水を差さないように鼻から旅行に付いて行く気などなかった。

 そんなこともあり、夏休みの間。父方の実家に僕は預けられることとなった。
 海外への長期旅行。たまには楽しんで来て欲しい。


 ◆


「あら、大きくなったねぇ僕は」

 僕を見やると声をかけてきたのは、久方振りに会うおばあちゃん。
 昔から変わらない風貌で、しわくちゃな笑顔が時を感じさせなかった。

「さぁさ、お上がり一人でここまで来るの大変だったでしょう。今お茶とお菓子を持ってくるからね」

 そう言うとキッチンの奥へとわざわざ用意しに行ってくれた。おばあちゃんらしい。

 ここまで来るのに電車を利用した。
 もう一五なのだから何でもできる。尾崎だったら盗んだバイクでここまでやってきたかもしれない。
 よく晴れた日。熱されたアスファルトから陽炎が立ち、遠く山々が波打って目に映る。
暑い夏は虫たちを囃し立て、喧然たる道をただひたすらに歩いた。
 そして、この長閑な田舎にポツンと佇むのがおばあちゃんの家。
 前にここに来たのはじいちゃんが亡くなって一周忌の頃だったかな。

「ほら、お茶とお菓子よ。久しぶりに来たんだからじいちゃんにも挨拶してくれるかい?」
「うん、わかった」

 そう相槌を打つとおじいちゃんに線香を。そして家族の健康を。見守ってくれることを願った。願ってみた。今から大人になろうとしている僕の精一杯のお願い。

「今日からメグミちゃんも来るのよ。僕に会うのはほんと小さいとき以来かしらね」

 メグミちゃん? はてさて、聞いたことあるような、ないような。

「ゴメン。おばあちゃん僕全然憶えてないや」
「あら、そうかい? おばあちゃんの娘。えーと、僕のお父さんの妹の娘さんよ」
「そうなんだ……」

 やっぱりちょっと記憶にない。

「おばあちゃん二人も来るからこの夏は全然寂しくないわ」


 ――そう楽しそうに笑って話す祖母の顔を今でも俺は忘れない。


 夕焼け空を広く庭が見渡せる縁側に座り眺めていた。
 子供ながらにこの景色は忘れることなく脳裏に焼きつき、一生の宝物になるとそう考えていた。

 遠く車の音がした。排気ガスと草の匂いが鼻についた。

「僕~メグミちゃんが来たから一緒にお出迎えに行こうか」
「今行く!」

 そのメグミちゃんがやってきた。

「おばあちゃんとぉ……キミは誰かな? 私はメグミ」

 そう言う顔はやけに大人びていて僕の顔は見る見るうちにあの夕焼けのように赤く染まっていただろう。
 父の妹の娘と。こう聞けば一見。僕より小さい子が来るんじゃないかと勝手に想像していたのだけれど。思惑とは裏腹に彼女は――

「私は高校二年生なんだけど……いくつかな? おっちゃんの息子さんだよね?」
「そうなのよ。中学三年生なのだけど……あらあら照れ屋さんなのね」

 僕はなぜか気恥ずかしくなっておばあちゃんの後ろへと隠れていた。

 ――これが俺と彼女との最初ではない。最初の出逢いだった。


 その日の夕飯も僕はただおかずとご飯をただひたすらに注視して食事を済ませた。
 ちょっと年上の女の子とどう話したらいいか、皆目検討がつかなかったからだ。

「おばあちゃん。私先にお風呂頂くね」
「うん、ゆっくりしていきなぁ」

 そんな会話をよそに今度はテレビをずっと見続ける。
「志村後ろ、後ろー!」
 騒がしくテレビは和やかに部屋を包み込んだ。

 ――この頃のテレビはなんだか毎日がキラキラしていたな。

 ふわっと浮き足立ってお風呂を覗きたいとかやっぱり思っちゃうのだけど。
 それをしたら、両親に面目ないしおばあちゃんに失望されると自我を抑えた。僕の良心が働いた。


 次の日。
 何もすることがない僕は縁側でおばあちゃんが切ってくれたスイカを頬張っていた。
 近くの川で冷やしてきたココの畑で採れたものだ。

「ぼく~隣いいかな? 昨日から全然話してないじゃない?」
「うん……」

 ここに来てから借りてきた子犬のように『うん』としか言ってない気がする。

「ほら、塩かけるとめっちゃ美味いんだよ! こうなんだかさ、俺は甘いんだぜーってしょっぱさの後ろ側から甘さが押し寄せてくるの」

 そう聞いた僕はメグミちゃんに習って塩をかけるとかけすぎちゃって……。

「あはは、そんなにかけたらしょっぱさが勝っちゃうよ」

 言われた通り。しょっぱさが勝った。

「うーしょっぱくてもう食べれないよ」

 そう言うと彼女は……

「じゃあ上の部分だけ食べてあげるさ」

 パクパクっとしょっぱい部分を根こそぎ食べてった。

「メグ姉ちゃん……やばっ」

 嬉しさと恥ずかしさと、メグミさんの男気に男ながらに……なんかこう惚れた。


 こうして日々は進んでいった。
 毎日毎日キラキラと宝石のような日々。
 僕の人生経験値は研鑽を重ねるように。

「メグ姉ちゃんはさ、大きくなったら何なるの?」

 ある日僕はこんな質問をした。

「うーんとね。幸せで健康な家族を……家庭を築くことかな? うふふ……」

 そう聞いた。





 ――そして、今。

 メグ姉ちゃんは。
 メグミは幸せな家庭を築いた。
 そして僕も……俺も支えている。
 この幸せな毎日が、あの日から続いている。


 END
作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:115 人 文字数:2328字 評価:2人
――あれは遠い夏の日だった。 両親の結婚記念日ということで、二人が前々から旅行を企てていたのは知っていた。 僕も今年で一五歳。中学三年生ということもあり受験勉 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:212 人 文字数:3394字 評価:2人
目の大きい少女だな、というのが第一印象だった。 それを上目づかいにこちらに見せてくるのだから、たまらない。「ねえ、おじさん。あたし泊まるとこないんだけど」 俺 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:disturbおじさん お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:89 人 文字数:3693字 評価:1人
――始まりは春だった―― 初めて彼女と出会ったのは中学二年生の春だった。県内で行われていた小説のコンテストで知り合ったのだ。同じお題で小説を書いた私は彼女の書い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:126 人 文字数:3235字 評価:0人
それまでコスモスという名称を聞くと、つい頭の中でゼノサーガを思い出してしまう僕だったが、最近はそれが変わった。最近思い浮かべるのは秋桜さんのことになった。「キラ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:113 人 文字数:2649字 評価:0人
島にはろくに遊ぶものがなく、最近では人家から発見した将棋盤がもっぱらの暇つぶしだった。とはいえ駒も足りてないし、盤もひび割れ四隅が欠けてるし、ついでに僕もレイ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:inout お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:132 人 文字数:3012字 評価:0人
夏休み、吸血鬼になった、最悪だ。私は夜の落ち切った中を静かに進む、周囲は木々、フクロウが呑気に鳴いていやがる。月明かりすら差し込まない完全な闇は、今の私にとって 〈続きを読む〉

キュウミリの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:箱の中の駄洒落 必須要素:えへへ 制限時間:1時間 読者:105 人 文字数:1966字 評価:1人
「えへへっ」 クラス中が笑い声で満たされる。和やかな空気がこの教室に漂っていた。 お調子者の新井が得意の『ち○ち○カスタネット』を披露した。 その技というのは下 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:幸福な負傷 必須要素:バナナ 制限時間:1時間 読者:95 人 文字数:2384字 評価:2人
それは突然のことだった。 逡巡する暇もなく、それは唐突に僕を襲った。 横断歩道を渡っていた僕は出勤途中で、いつも通り何の気なしに仕事のことを考えながらダッシュ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:115 人 文字数:2328字 評価:2人
――あれは遠い夏の日だった。 両親の結婚記念日ということで、二人が前々から旅行を企てていたのは知っていた。 僕も今年で一五歳。中学三年生ということもあり受験勉 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:99 人 文字数:2164字 評価:0人
率直に言おう。俺の家系は代々ハゲを受け継いでいる。 父も兄も……そしてその例外に漏れず、俺の頭は後退し始めてきた。「お前も兄ちゃんに似てきたな、見事にデコ広い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:シンプルな殺し 必須要素:ビール 制限時間:1時間 読者:102 人 文字数:1858字 評価:1人
今にも泣き出しそうな空がそのまま暗い帳となり、この日は一日を通して闇に包まれていた。 空き缶や求人雑誌の破片が散乱としていて、それはそれはごみ箱のような道を歩 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:死にかけの社会 必須要素:大道具さん 制限時間:15分 読者:100 人 文字数:500字
――世界は廻っている。 人類が誕生し幾星霜。 彼はいつものように身支度を整える。東京と云えど狭い部屋だ。 テーブルの上にはパンが食べかけのまま無造作に置いてあ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
無題 未完 ※未完
作者:キュウミリ お題:優秀な喜劇 制限時間:30分 読者:187 人 文字数:577字
隣人の部屋がうるさい。 とてつもなくうるさい。音楽を爆音でかけているとか、楽器を弾いているとかでもなく。ただドスドスと足の踏み鳴らす音が毎日のように続いていた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
エブリデイ ※未完
作者:キュウミリ お題:穏やかな小説練習 制限時間:30分 読者:204 人 文字数:781字
小鳥のさえずりをアラームにして、僕はベッドからゆっくり体を起こす。 眠い目を擦りながら、重いまぶたをこじ開ける。カーテンを開けて空を見上げる。 晴れ渡る青空に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:日本凶器 必須要素:Twitter 制限時間:1時間 読者:252 人 文字数:2381字 評価:0人
キモオタヒキニートの俺は今日も日課の大好きな声優さんのTwitterをチェックする。「うぅ~今日も収録で帰りが遅いらしいな。心配だぁー!」 俺はこの声優さんと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:許されざる王子 制限時間:15分 読者:275 人 文字数:240字
私は誰に許しを請うのだろうか。 私は誰に許されたいのか。 他国から恐れられ、圧倒的といわれていた我軍は敵軍の奇襲により敗走した。 敵の軍勢は我軍の半分にも満た 〈続きを読む〉