お題:彼女の夏休み 必須要素: 制限時間:1時間 読者:98 人 文字数:2649字 評価:0人

竜巻の来訪
 島にはろくに遊ぶものがなく、最近では人家から発見した将棋盤がもっぱらの暇つぶしだった。とはいえ駒も足りてないし、盤もひび割れ四隅が欠けてるし、ついでに僕もレイジもルールを知らなかった。たとえ知っていても、頭を使うのが嫌いな僕たちは覚えようとしなかっただろうし、互いの理解に限界があるので気づけば逸脱して、ゲームとしては成り立たなかっただろう。
「……間一髪、危ういところだった。お前の番だぜ」
 いびつな楕円形しか残っていない盤の向こうで、レイジが冷や汗をぬぐい、不敵に笑った。見つけられた駒の全部、プラス、そこには碁石やチェス、オセロまで混じっているが……、山積みにされた駒、その頂点に突き刺した木の棒が倒れれば負けという勝負だ。
 複雑なことを考えるようにできていない頭で思いつくのは、砂浜でもできるような単純なものとなる。
「この奇跡的なバランス! 天才だ」
 馬鹿はすぐに自分のことを天才とか言う。二言めには自画自賛する幼なじみのまえには、たしかに危ういバランスで積み上がった駒の山。でもまだ倒壊には遠い。「このチキン!」とヤジを受けながら、ほとんど棒を支えるのに貢献していない端っこの飛車を取り除いた。
「次、君の番だよ」
「大胆さってものが欠けてるな、お前には。時には賭けに出ることも男には必要だと思うぜ」
 有言実行、とばかり大胆としか言いようのない手つきで、ごっそり駒を盤上から持っていった。なんて量だ、と僕は驚き、果たして倒れるのか否か、ぐらつくその棒をふたりしてかたずを呑んで見守った――
 その瞬間、地響きとともに、窓の外を突風が吹き抜けていった。縁側の障子が衝撃ですべて吹き飛び、和室に倒れ込んできた。台所からは水道管の破裂する音、テレビは謎の映像を受信しザーザーと砂嵐めいた音声を垂れ流し、庭へと屋根瓦がつぎつぎ落下していくのが見えた。
「きた! きた!」
 あんがいビビリのレイジは座布団で頭を防御してうずくまった。なにかが訪れた、それを歓迎するような周囲の異変に、そういやそろそろ夏か、とぼんやり僕は考えた。将棋盤はひっくり返り、勝負の行方はおあずけ。駒の山と同じに、この廃屋もいつ崩壊するかわからないので、嫌がるレイジを引きずって外に迎えに出た。
 曇り空だったはずだが、まるで彼女の到来を歓迎するかのような晴天へ様変わりしている。強い日射しの下で、ノースリーブのワンピースを着た、ザ・夏といった格好の少女が、黒髪を風に揺らしている。
 反吐を吐きそうな顔をしている友人が僕を押しやるように隠れる。気にする素振りもなく、彼女は太陽よりも輝く笑みで、
「きちゃった♪」
 言葉と同時、小さな竜巻がいくらか生まれて、僕らのそばを駆け抜け、さっきまでいた背後の平屋を粉微塵に吹き飛ばした。ぱらぱらと、上空へ舞い上がった木片が落ちる音。かまいたちが僕の頬をかすめたのか、小さな傷を作っていた。「だから嫌なんだよーもう」と、レイジがすでに泣き言を漏らすが、夏の恒例行事なのだから、諦めるしかない。

 なにして遊ぶ? とキラキラした目でまとわりついてきて離れないので、楽しい遊びを提案する以外に選択肢がなかった。島を訪れた彼女をまずはもてなさないとならないので、ふたつを同時に実行するために、海辺で昼食ということになった。
「七輪? 潮干狩り?」
「魚を焼いてもいいけど」
「おもちが食べたいな」
 わがまま言うなよ、と諌めたレイジは巻き起こった突風でなぎ倒され、しぶしぶ民家からもちを探してくるべく出向いていった。さっきいた平屋のあたりは、家がいっぱい落ちている、この人のいない島において住宅地と呼べる場所なので、すぐに目当てのものは見つかるだろう。
 海辺には、僕と彼女と七輪が残された。
「一年間、なにしてた?」
 午前中に釣ったぶんの魚があったので串を通して焼きながら、まずは当たり障りなく問いかけた。香ばしい匂いによだれを垂らしながら彼女は、
「うーん、いろんなところに行ってたよ。そのたび、もうくるなって言われたけど」
「相変わらずだね」
「アメリカなんか、特に。石まで投げられた」
 忙しくしている彼女が唯一休息にくるのがこの島だ。夏休みは短く、ここでの休みが終わったらすぐに世界に向けて旅立っていく。
「だから腹いせに、家ごと吹き飛ばしてやるんだ。ドロシーみたいに。あの子、もうここにはいないんだっけ?」
「カカシとロボットと、臆病なライオンと……あとなんだっけ、とにかくお供を連れて魔法使いに会いに行くんだって旅に出ていったよ」
「憧れの状況に自分が置かれたものだから、夢と現実の区別がつかなくなっちゃったのかな」
 やれやれ、とため息をつきながら、魔女は指先から出した光線で通りがかったカニを消し炭にする。「焼きすぎちゃった」
 やはり七輪だと向き直り、焼き魚が完成するのを待っている。
「つい癖になっちゃって、街ごと無人島に飛ばしちゃったのは悪かったと思うけど……君たちも、帰りたいなら帰ってもいいんだよ?」
 気まぐれな魔女は気まぐれに提案するが、僕は首を振る。
「なんというかな……君がうっかりに気づいてこの島を再訪するのが遅かったから、生死をかけた人間の争いみたいなのにうんざりしちゃって」
 集団でのサバイバル生活が穏やかであることなどない。島の反対端にある海辺には、骨を埋めた墓が連なっている。
「内面の醜さを知っちゃったからかな。人の多いとこにもう行きたくないんだ。君がたまに飛ばしてくれる無人の家のおかげで暮らすには困らないし。たまに電波な女の子が同乗してるのには困りものだけど」
「ふむ。つまり君は私に感謝してるということだね?」
 ならばもてなしなさい、と薄い胸を張る。この島に来る以前から人間関係にうんざりしていたのを見透かされたようで、思わず苦笑が出る。
 魚が焼けた。ついでに、おもちの袋を提げたレイジが遠くから戻ってくるのが見えた。生き残りをかけた熾烈な争いにおいて、最終的に残るのは他人に無関心のやつで、あの幼なじみと気が合うのもそうした性分が似通っているからだろう。
「塩は?」
「えっ、塩? おもち探してこいって……」
「馬鹿だなー。魚焼くんだから塩いるだろ。ねえ?」
「うん、いる」
 ほかほかと湯気を立てる魚を振って、彼女はこくんとうなずく。ぶつぶつ文句を言いながら、レイジの背がまた遠ざかっていった。





 
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