お題:謎の王 制限時間:30分 読者:56 人 文字数:1714字

謎の王に会ったアメリア
 アメリアは言われていたのです。その蓋を開けてはいけないよ、と。けれどアメリアは開けてしましました。大切は友人のために、自分はどうなってもいいから、と。
 アメリアが開けた蓋から出てきた人物は、謎の王と名乗りました。本名はとうに失い、みんながそれぞれ謎の王、謎の王と呼ぶので、謎の王はそれ以外の名前を忘れてしまったというのでした。
 「あなたにも、かつての名前があったの?」アメリアは琥珀色の瞳を瞬かせて言いました。
 謎の王はそうだと答えました。苦悶に満ちた絞り出すような声でした。謎の王は続けます。この世界は魔力を持っていて、特に一番の魔力は名前だということ。名前を忘れてしまっては帰ることがでいないということ。けれど、謎の王はこうも言いました。私が力を使えるようになれば、お前を帰すことができる、と。アメリアの世界には魔法がない、科学が発展した都市が数多くありました。アメリア自身も魔法というものを見たことがありません。決っしていないわけではないそうですが、森の奥深くに隠れ住んでひっそりと小さな魔法を扱える程度という噂話しか耳にしないのです。アメリアは謎の王に言いました。
 「あなたが魔法を使えるようにするには、私、何をやったらいいの?」謎の王は答えました。私の名前を探しておくれ。
 アメリアは靴紐を結び直しました。これから、謎の王の本当の名前を探しに行くのです。大丈夫、とアメリは自分に言い聞かせました。目の前に広がっているのは灰色の森です。動物の鳴き声や、虫たちの羽音は全く聞こえなく、暗く湿った風の通る筋だけが奥へ続いているのでした。その奥も、目を凝らしても凝らしてもどんよりとした薄墨色の景色しか見えないことと言ったら! アメリアは震えそうになる自分の足を少しばかり強めに叩きました。大丈夫、大丈夫。きれいな川の水を水筒に汲んだし、謎の王がくれた果物もたくさんある。家に帰るんだ。それはまるでアメリア自身が己の心の臓に魔法をかけているかのようでした。家に、帰るんだ。
 アメリアはわき目も降らずに歩いていきました。背丈ほどのある草をかき分け、枝が目に入らないように押しのけ、砂利の斜面も、土の階段も、一心に歩いていきました。途中、雨が降ったので大きな木の下で雨宿りをしていると、謎の王の言う本当の名前とはどんな形をしているのか、どこにあるものなのかを聞いていないことに気づいてがっくりと項垂れましたが、それでもアメリアは雨が上がるころにはまた踏み出してい増した。そうして上り坂を三つと下り坂を二つ超えたころ、アメリアの目の前に大きな湖が顔を出しました。空を大きく映し出した水鏡の湖は、アメリアの膝の力を奪うのに十分なものでした。
 「きれい」
 アメリアは呟いて膝にのせていた鞄から最後の果物を取り出して、ゆっくり噛み締めるように食べました。甘酸っぱい果汁がどっと溢れ、アメリアの唇の端から勢いよく流れ出ようとします。アメリアはそれを手の甲で拭って、何度も何度も舌で味を感じました。湖には風が吹いておらず、静かな湖面にはアメリアの気配しかしません。アメリアは途端に寂しくなって、涙がこみ上げてきました。この世界に迷い込んでから今までそんなことを感じたことはなかったのに、急に謎の王のことが恋しくなったのでした。アメリアは果汁でむせないように慎重に飲み込みながら、静かに嗚咽を漏らしました。そうして、頭にふっと浮かんできた一つの言葉を口にしたのでした。
 一瞬、音が消え、それからまたすぐに轟音と共に風が強く吹き付けました。アメリアは髪を抑え、吹きすさぶ風の中何が起こったのだろうと立ち上がりました。そして湖の上に誰かが立っているのを見つけました。
 謎の王です。謎の王がアメリアの目の前に立っていたのでした。彼は見たこともないほど穏やかに微笑んでアメリアに言いました。名前を見つけてくれたありがとう、と。
 アメリアがつぶやいたのは謎の王の本当の名前でした。アメリアは嬉しくなって、何度もうん、うん、とうなずきました。涙も次から次へと溢れてきます。そうして、謎の王の力を借りて、アメリアはものと世界へとかえ
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