お題:運命の門 制限時間:1時間 読者:17 人 文字数:1106字

運命の門 ※未完
 庭園の小さな裏門は、昔から「運命の門」と呼ばれていた。曽祖父の曽祖父か、祖父の祖父かがそう名前をつけたのだと、祖父が言っていたのを思い出す。祖父がまだ小さかった頃には、鉄のアーチの上に、今にも錆び落ちそうなラテン語の銘板が掲げられていたらしいが、ある嵐の夜、とうとうどこかへ消えたそうだ。
 なぜ運命の門と呼ばれているのか、今となってはわからない。名づけ親が通ったときに幸運が舞い降りてきたか、通る者に幸運をもたらすようにという願いか。どうであれ、銘板がなくなった頃から、この家と幸運とは縁遠くなった。この半世紀、経済的状況は悪くなる一方だ。祖父は将来を憂いながら死んでいくだけで済んだが、父は急病を患い、満足な治療も受けられないまま亡くなった。私は家の中のものをほとんど売り払って事業をしてきたが、そちらの風向きも良くはない。私の住んでいる世界全体が、斜陽の下にある。とうとう、先祖たちが何百年にもわたって住んできた、この屋敷も引き渡さなければならなくなった。
「最後のお別れを済ませてこい」
 横柄な家の買い手は、それだけを言って屋敷の周囲を検分しに行った。私は皮肉な表情一つできなかった。壁際に立って書類とにらめっこする雇われの会計士を尻目に、私は戸をくぐった。
 しばらく訪れていない間に、廊下までもが埃を被っている。むき出しの木の床がひどく軋む。かつては十人ほどのメイドが隅々まで掃除をしていたらしいが、私の小さい頃には三人ほどがよく使われる場所だけを清潔にしていた。いまや、一人の家人すらいない。
 私は一番に、三階へ昇った。廊下の一番手前に、子供の頃に与えられた自分の部屋がある。扉もすぐには開かなかった。少し力を入れて引くと、酷い音を立てて扉が開いた。ベッドや棚は取り払われ、部屋にあるものは古い机だけだ。たくさんの衣服や本で埋め尽くされていた部屋の記憶が、脳裏をよぎる。思い出を頭の奥に抑え込み、窓際へと歩いていく。
 窓の下には、荒れ果てて雑草だらけになった庭園と、錆びついたアーチのかかった古い裏門があった。私の小さい頃には、華やかではないながらもきっちりと整えられていた庭園は、森の一部になりかけている。裏の門にも、かつての面影はない。
 門の向こうに、人影が現れた。この家の買い手だ。周りを見てきたのだろう。一人で何かぶつぶつ言っている。運命の門を開けようとしたが、戸が錆びていて開かない。彼は戸を蹴り始めた。不思議と、怒りも悲しみも、何の感情も浮かばなかった。
 彼は戸を何度か蹴り、ようやく開いた。そして足を進め始めると、門のアーチが曲がった。ずいぶんな重量があるであろうそれは、
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