お題:彼と凶器 制限時間:15分 読者:55 人 文字数:1038字

殺害理由
 どうしよう、死んでしまったぞ。
 他人事のように、わたしは動かなくなった彼を見下して思った。
 ちょっと押しただけなのに、何でこんなことになっちゃうんだろう。人間の体で、案外脆いものだ。
 そもそも、彼がいけないんだ。
 わたしは死体を引きずって風呂場に運んだ。そして、リビングと廊下についた血痕を拭き取る。
 別れる、なんて考えられない。だって彼はお金をたくさん持ってる素敵な人だから。
 結婚しようって言ってたのに、血痕しか残ってない。もう拭いたけどさ。
 彼が頭をぶつけた棚の角も拭いて、次は死体そのものを何とかしないといけない。
 死体をばらすのは一苦労だ。こんなことなら、彼が生きている間に魚のさばき方でも教えてもらうんだった。まあ、人と魚じゃサイズが違うから役に立たないかもだし、そもそも生魚なんて生臭くって見たくもないんだけどさ。
 家の中を探し回って、わたしは何とかのこぎりを見つけた。
 彼ってば、何でこんなものを家に置いていたんだろう? まさか、わたしに使うつもりだったとか?
 危ないなあ、先に刺してよかったよ。わたしは死体に刺さっていたナイフを抜いた。
 すごくゴツいサバイバルナイフだ。正にサバイバル、わたしの命を助けてくれた。
 それにしても、本当何でこんなことになっちゃったんだろう? これでちょっと脇腹を刺して、押しただけなのに。
 わたしは苦労して彼の死体を切断した。グロくて臭くて、三回はもどしたけど、頑張った。
 そう、わたしは頑張り屋だ。この死んだ彼は認めてくれることなんてなかったけど、わたしのもう一人の彼はそう言って褒めてくれた。
 そもそも、彼はすごく人への要求が高いと思う。「結婚したらお前も働け」とか「浮気せずに我慢しろ」とか、「もう一人の彼氏を俺の家に留守中に連れ込むな」とか、ルールでがんじがらめだ。
 そんなことを言うけど、自分がわたしに何をしてくれたって言うんだよ。わたしは32分割された彼の死体を見下した。
 月に10万しか小遣いをくれないし、わたし用の部屋だって用意してくれないし、高級レストランも週一でしか連れて行ってくれない。おまけに、ブランドバッグの一つもプレゼントしてくれない程度の甲斐性なのだ。本当、ダメな男だった。
 そうだ、だから殺したってよかったんだ。
 わたしはバラバラの彼を衣装ケースに詰めた。
 さて、次は……。わたしは寝室に向かう。ここに寝転がってる二番目の彼の死体も、何とかしないとね。
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