お題:鋭い投資 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:1082字

兄弟の投資
 父の教えは「お金は自分への投資になるよう使いなさい」というものだった。
 僕も弟も、それを胸に生きてきた。
 自らを研鑽することを厭わず、入学試験や資格試験、就職戦線を勝ち抜いてきた。
 しかし、どれだけ磨いても、尚磨き足りないのが人間というものなのかもしれない。あるいは、僕も弟も、磨きすぎてすっかり削れてしまったのかもしれない。
 僕は会社で忙殺される中、心がぽっきり折れる音が聞こえてから、家の中から出られないでいる。今は貯金を元手に株の運用でギリギリ生きている。
 弟は、もっと折れるのが早かった。
 就職に失敗し、家にパラサイト。弟は自分自身に厳しいタイプなので、何とか自立しようと躍起になってはいるのだが、結果は芳しくない。
 父が厳しく発破をかけ続けたせいもあり、弟は折れた心を癒すこともなく「次へ、次へ」と焦り過ぎて、遂には完全に粉々になってしまったようだ。
 加えて、この兄の失敗である。兄ちゃんのようになるのだ、と弟は常々言っていたそうだが、兄ちゃん以上に心がぼろぼろになってはいけないだろう。
 そういうわけで、我が実家で弟は引きこもっていたのである。
 数日前までは。

 実家の惨状と言ったら、筆舌尽くしがたいものだった。
 外見は慣れ親しんだ我が家なのだが、一歩中に入ると目を疑う光景が広がっている。
 柱や壁、床や梁についた大きな傷。そして、こびりついた血痕。
 何よりも、廊下に倒れる二人の人物。そう、父と母だ。
「やったのか?」
 立ち尽くす三人目の影、弟に僕は尋ねた。
「そうさ」
 弟はどこか得意げだった。昔と変わらない。すぐに感情が表情になって出てくる。
 いつもの弟だ、両腕が刃物になっている以外は。
「どうしたんだ、その腕?」
「投資さ」
 弟はにやりと笑う。
 何でも、改造人間と言うものを造る会社が実際にあるそうで、弟は親のカードを使ってそこで改造手術を受けたらしい。両腕を鋭い刃物にするのは、最も安い改造だそうだが「こんなものでも効果てきめんだった」と血を拭いもしていない刃を見せびらかす。
「俺はこれで、天下を取るんだ。この刃に切れないものはない。この力で、馬鹿にしてきた企業の採用担当者も、ハローワークの職員も、親も殺したんだよ」
 そうだな、と僕はうなずいた。天下が取れると思ったんじゃなくて、弟の犯した所業についてだ。
「兄ちゃんは、俺の味方か?」
「敵だよ」
 僕が来たのは弟を裁くためだった。そのために、僕も投資した。
 弟が刃を振るうよりも早く、僕は投資して手に入れた拳銃で彼を撃ち殺したのだった。
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