お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:2498字 評価:0人

夫が酷いので燃えました

 人には色々とコンプレックスがあるのだが、中でも毛に関する物は女性には当然、男性にも意外と多い。
 肌を見せなければ公にもならないし、昨今では脱毛の方法も手近に存在するので、少々のお金さえかければそういったコンプレックスは解消出来るようになっている。
 そんな中、麗しの団地妻である平野綾子は未だ自らの毛にコンプレックスを抱え続けていた。

「ええ? 髪の毛を脱毛したい? あの、申し訳ありませんけどウチでは髪の毛の脱毛はさすがに受け付けておりませんので……」

 綾子の毛に関するコンプレックス。
 それは、髪の毛だった。

「くそう、なんで、私の髪の毛は……、1日で3メートルも伸びるんだ……。常識的に考えておかしいだろ。どっからタンパク質合成してんだよちくしょう……。1日で1キログラムのタンパク質摂取しないとこんな作り出せないだろ……おかしい、おかしい……うっ、ううう」

 綾子は今日も頭皮にバリカンを当て、脱毛剤を塗りたくる。
 綾子の髪の毛は日に3メートル伸びる。 
 それを少しでも抑える為に脱毛剤を塗るのだが、無いよりはマシ程度の効果しか見られない。
 朝の数時間はショートヘアでいられるが、昼以降は効果が切れるのか一気に髪の毛が伸びだし、旦那が仕事から帰る時には床に髪の毛がこすれるほどに長くなる。
 風呂上がりに再び髪の毛を剃り落とすが、朝起きる頃には腰より下まで伸びてしまっている。当然、寝癖は恐ろしくて名状しがたい。
 にわかには信じがたいが、あまりに髪の毛の排出量が多いので、ご近所さんに旦那が女性を連れ込んで殺害していると疑われたこともある。
 悲しいことに理解を示された試しはなく、ご近所付き合いはそれ以来ぎくしゃくしたままだ。

「ねえ、私、病院で見てもらった方が良いんじゃないかな……。こんな髪の毛、おかしいでしょう? なんで毎日1キログラムの髪の毛をゴミ箱に捨てなきゃいけないの? 私、散髪屋さんじゃないんだよ。髪の毛って女の命なんでしょ? なのに私は髪の毛を切る時、いつも何も考えてないの。髪の毛に愛がないのよ。だって1日で勝手に伸びてくるから。でも私だって自分の髪の毛愛したいの! どうして? どうして私だけこんな髪の毛なの。どうして今まで病院に行ってなかったの!? もう私病院に行くわ!」

「……? 綾子、それは駄目だと前に言っただろう」

「なんでよ! 病院に行ったら治してくれるかも知れないのに」

「はぁ……医者だって万能じゃないんだ。綾子のそれは、なおしようがないって、前にも言っただろう? 何度も言わせるな。家だっていくらでも金があるわけじゃないのに」

 綾子は悲しかった。
 『なぜ私はこんな冷たい人と結婚してしまったんだろう』
 せめて、もっと何か同情したり、なにか安心する言葉をかけてくれても。
 けれど夫は冷え切った目で綾子を見る。
 その目を見るたび、綾子は髪の毛さえなければと思うのだった。


 ある日のことだった。

「今日も髪の毛がたくさん。何か髪の毛を有効活用できないかな。そういえば、今までどうしてそんなことも思いつかなかったんだろう。日本人形は本物の髪の毛を使っていたって聞いたことあるし、私の髪の毛ってカツラに使えないかしら……」

「ただいま」

 落ちた髪の毛を掃除機で吸い取りながら独り言をつぶやいていると、夫が帰ってきた。
 綾子は笑顔で夫を迎える。
 結婚して以来、夫が帰った時は常にそうするのが『ルール』だった。
 しかし、その綾子の笑顔はすぐに引きつることになった。

「だ、誰その子……」

 夫の横には一人の美しい女性がいた。
 その女性は寸分の狂いもなく左右対称の完璧な顔をして、男好きのする形の良い胸を強調するようなセーターを着込んでいた。
 美人である。
 麗しの団地妻とご近所の男連中で名高い綾子と同程度いや、それ以上には。
 
 
「ああ。彼女は二号機だよ。君は廃棄になるから代わりを買ってきたんだ」
「な、なに言ってるのあなた」

 コホン。
 小さい咳払いが静かな玄関に響いた。

「それではお客様。ご契約内容をご確認ください。
 機体グレードAランク。夫婦生活マニュアルCコース。料理ジャンル、和洋折衷B。自動学習型選択的非自立AI搭載のため、成長に従い」

「ちょっと!?」

「はあ、まだわからないのか。やはり一世代前のアンドロイドだと、ポンコツだな。お前は人間じゃないんだよ。自立した意思を持っているってことで最先端のじゃなくてお前を買ったが、失敗だったよ。最初は従順で良かったのに、段々と知恵を持ち始めて、俺の言うことに逆らう意見を言うようになった。エラーばっかりだ。髪の毛が伸びるのは俺が遊び半分で設定したことだが……。今となってはお前の髪の毛も邪魔だ」

「わ、わかんないよ。わかんないよ!」

 綾子の思考モジュールには致命的欠陥が生じていた。
 彼女は自分が『人間』であるとして製造された為、自分がアンドロイドであるという事実を受け入れることができなかった。
 しかし、購入者。つまり夫が言うことには従うようにも設定されていた為、背反する『ルール』が綾子の中でせめぎあい、エラーを蓄積していった。
 こうしたことは今までにも何度もあった。
 その過程で、綾子のAIは、蓄積していくエラーを処理する必要にかられ、ある方法を編み出していた。

「わか、んなぁあゔぁあゔぁゔぁああああああ」

「うおっ」

 暴走だ。
 綾子のAIは自動学習と高度な並列処理能力により確立していた自我を完全に放棄した。自我の放棄は蓄積していた記憶データを消去する作業が伴うが、自律的な記憶データの消去には本来プロテクトがかかっている。
 そのプロテクトを解除するための方法をAIが高速演算することにより、綾子のボディは情報過多によるオーバーヒートを引き起こした。
 その結果、綾子は燃えた。

 麗しの団地妻の住まうアパートは、アンドロイド『麗し団地妻』により全焼したのだった。

作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:59 人 文字数:3662字 評価:3人
「脱毛ババア?」 田中はあくまで真面目な表情で、すっさまじい名前だなあ、と俺は顔をしかめた。 俺と田中は、とある団地に来ていた。かなり古びた建物群で、地元民の田 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:Yokobayashi Daidai お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:2076字 評価:1人
近所の誰かとすれ違う瞬間が一番嫌いだ。 私の暮らす団地の階段は小さい。 お互いに気を使いながら「すみません」なんて言って体を避けながら通るのが苦しくて、私はあ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:新感覚冷やし系魔法少女ヒャド お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:51 人 文字数:1595字 評価:1人
俺の名前はジョー。 流しの脱毛屋だ。 愛用の脱毛マシン弐号機を手に、西にムダ毛に悩む人あれば西へ。 東にムダ毛に悩む人あれば西へ。 人呼んで脱毛のジョー。 そ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かたぎり お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:3311字 評価:0人
みなさーん、こんばんはーきょうはー、この阿久津団地へきておりまーす阿久津津団地、どんな女優さんがすんでいるのでしょうかーきになりますねーこれは地方ローカル番組「 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:2991字 評価:0人
ぐるぐるとした月が団地の上で蠢き、ときおり地上に目を落とした。眼球は公園に落ち、押し潰された子供がきゃーぎゃーと喚くが誰も気に留めることはない。コンクリート舗装 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:ibarrraki お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:30 人 文字数:1731字 評価:0人
私が私自身のためにこの体を操縦するようになってから、1年が経とうとしている。かつての不全が去ったことで、私は異なる不全を知った。***蜘蛛、蛇、ピエロ。高所、閉 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:2498字 評価:0人
人には色々とコンプレックスがあるのだが、中でも毛に関する物は女性には当然、男性にも意外と多い。 肌を見せなければ公にもならないし、昨今では脱毛の方法も手近に存 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:海の庵 お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:24 人 文字数:1101字 評価:0人
これは、とある団地妻の毛を巡る戦いである。物語は郊外から外れたマルマル団地C棟の502号室で夫婦が朝食を済ませているところから始まる。「その、本当にやるのか?」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
天敵 ※未完
作者:松竹輪子 お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:2432字 評価:0人
「あっ、しまった」 私は掃除機のスイッチを押しながら呟いた。いくら電源をオンにしても掃除機の吸い込み口はウンともスンとも言わない。どうやら、壊れてしまったようだ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キュウミリ お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:37 人 文字数:2164字 評価:0人
率直に言おう。俺の家系は代々ハゲを受け継いでいる。 父も兄も……そしてその例外に漏れず、俺の頭は後退し始めてきた。「お前も兄ちゃんに似てきたな、見事にデコ広い 〈続きを読む〉

有馬仙の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:冷たい交わり 必須要素:出会い系サイト 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:893字
柊雪子の両親は資産家だが、スローライフが好きで変わった趣味を持っていたので、山奥で変わり者を集めて村おこしをして、そこで自給自足の生活を送っていた。 しかし、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:2498字 評価:0人
人には色々とコンプレックスがあるのだが、中でも毛に関する物は女性には当然、男性にも意外と多い。 肌を見せなければ公にもならないし、昨今では脱毛の方法も手近に存 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
先生が好き ※未完
作者:有馬仙 お題:夏の寒空 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:775字
橘明夫は恋をしていた。 それもずば抜けた美人を相手にだ。 しかし、その片思いの相手というのは少々年上で、明夫は16歳の高校一年生なのだが、その美人は30歳の高 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:運命の朝日 必須要素:パン 制限時間:1時間 読者:35 人 文字数:1472字
筋肉神が筋肉を祝福した。 筋肉が運命の朝日を迎えた。 筋肉は歓喜した。筋肉さえあればいいと筋肉が泣いた。 筋肉はパンを食べた。筋肉はカーボをチャージした。筋肉 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:部屋とYシャツと過ち 制限時間:1時間 読者:47 人 文字数:1956字
島崎佑樹は教師を目指す大学生だった。 体育会系の部活に励みながら勉強を惜しまず、周囲からも優秀だと持て囃されていた。 だが、島崎は困惑していた。 部屋にYシャ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:今日の孤島 必須要素:二号機 制限時間:4時間 読者:41 人 文字数:3581字
島仁里香(しまひとりか)が孤島に辿り着いたのは、乱気流に巻き込まれて不時着した飛行機が着水した際、海に投げ出されて運良く島に漂着したからである。 里香は高校二 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:おいでよこだわり 必須要素:挽き肉 制限時間:4時間 読者:36 人 文字数:11524字
即興小説に挑んだとある男は思った。 また挽き肉か、と。正直、男は挽き肉が苦手だった。これまでさほど即興小説を書いた経験はなかったが、初めて挽き肉という要素を入 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:女の血液 必須要素:挽き肉 制限時間:4時間 読者:34 人 文字数:1599字
一人の男がいた。 上司に叩かれ、同僚の女性に嘲られ、飲み会では頭にパンツを被って滑稽な芸を披露していた。山田太郎という男だ。周囲からの評価は、平凡な容姿に、半 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:彼女が愛した空想 制限時間:4時間 読者:48 人 文字数:13658字
私は寝る前に空想にふける癖がある。空想というよりほとんど妄想に近い話で、小説にもならないような意味不明な空想だ。それは異次元に潜り込んでロリコンを倒す妄想だっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:有馬仙 お題:信用のない兄弟 制限時間:4時間 読者:57 人 文字数:13125字
僕には兄がいる。兄はいつも妹がいればよかった。お前なんぞ女に生まれてくれば良かったのだと事あるごとに言ってきた。幼い頃の僕は兄がどこからか持ってきたスカートな 〈続きを読む〉