お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:2076字 評価:1人

団地妻の剃毛は二号機のために。
 近所の誰かとすれ違う瞬間が一番嫌いだ。
 私の暮らす団地の階段は小さい。
 お互いに気を使いながら「すみません」なんて言って体を避けながら通るのが苦しくて、私はあえて早朝か夜遅くを狙って出かける。

 五階建ての五階暮らし。もちろん団地にはエレベーターなんてついていない。
 夏は汗がにじんで、冬は寒さに身体が軋む。
 私にとって団地での暮らしは我が家というより、幽閉された牢屋のような気分なのだ。

 子どもは小二と小五の男子が二人。
 どちらも夫に顔が似てきた。
 兄は馬鹿で、弟は暗い。
 私は、彼らにとって甘えられる家政婦でしかないのだろう。

 夜に洗濯物を片付ける時、ベランダから一軒家の電気が、ぼつぼつと並ぶ。
 私は心の中で、一つひとつの光に中指を立てながら、生理痛の憂さ晴らしをしていた。

 狭い風呂場には、薬局で買った安いシャンプーとリンスのセット。
 小二の方は、一人で風呂に入れない。
 だから私は弟の方をせっせと洗わせてから、自分の脱毛へ時間を費やす。
 普通に夫がいれば風呂場で過ごす自分の時間くらい持てたのだろう。

 切れ味の悪い剃刀を使いながら私は誰のために毛を処理しているのかが分からなくなる。
 
 そんな私の元に大きな宅配便が届いた。
 宛名は誰もが聞いたことのあるテレビ局の名前。
 視聴者プレゼントで、私に家政夫ロボット『FHーR23』が当選したのだ。



 FHーR23はロボットのような声で、見た目がSASUKEの山田勝己に似ていた。
 息子二人がいない日曜日の昼下がり、私は彼を起動させる。

 長く、めんどうな初期設定の後に彼が目覚めだした。
「おはようございます、ご主人さま」

「すごい、本当にしゃべるんだ」
「ご主人さま、私に名前をあたえてください」

「名前」
「その言葉に反応して私は、ご主人さまの言う通りに働きます」

 私は、しばらく天井を見上げた後に「二号機」と呟いた。
「今日から、あなたを二号機と呼ぶ」

「では私は…」
「ご主人さまのままでいい」

 名前などをつけて前の夫の名前が薄まるのが怖かった。



 二号機は私のいう事を忠実に聞いた。

 階段を上り下りするのも楽々と行い、買い物もすべて行ってくれた。
 すれ違う人たちに爽やかな挨拶をするのも忘れない。
 彼にはきっと、人と付き合うのがめんどうなんて感情はないのだろう。

 五階建ての五階暮らしを、彼は「見晴らしが良くて最高ですね」と窓を開けて私に告げる。
 幽閉された牢屋を、彼は住み心地がいいとほざくのだ。

 小二と小五の男子が二人には、勉強を教え、休日はスポーツを一緒に楽しんだりもする。
 小五の息子に下の毛が生えてきたことを告げ口してきたので、デリカシーはやはりないのだなと悟る。

 仕事から帰ると、洗濯物は全て片付けてくれていた。
 この部屋から見える街の明かりが、少しだけ綺麗なものかもしれないと思えるようになった。

 弟の風呂を見てくれるので、私は風呂場で自分の時間を過ごす。
 少し奮発したシャンプーとリンスとトリートメント。
 
 無駄な毛を丁寧に剃る。
 丁寧に、丁寧に。

 そうして私は、気が付けば二号機のために身だしなみを整えている自分がいることを悟った。
 


 冷たい声が心地よく、山田勝己に似た体躯もがっしりとしていて頼もしい。
 息子二人がいない日曜日の昼下がり、私は彼に口づけた。

「いけません、ご主人さま」

「なにが、いけないの」
「私は、あなたに使えるロボットですから」

「二号機が来てから私の暮らしに色が増えたよ」
「それはなによりです」

 私は、しばらく天井を見上げた後に、よくある男性の名前を呟いた。
「今日から、あなたを、そう呼ぶ」

「いけません旦那様が見ていますよ」
「もう私には関係ない」

 がちゃり。
 二人の空間を遮る扉の音。

「お母さん」
 弟の声だ。

「どうしたの」
 女から母の声に、つまみをぐっと引き戻す。

「お母さん、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが」
 弟が連れて来たお兄ちゃんは、右腕が九十度にひん曲がり、首が取れて、ところどころから妙な電子音が流れていた。

「あら、壊れてしまったのね」
 私は弟から、兄をもらうと、ごみ袋に、がしゃりと捨てた。

「本当、ここの製品は壊れやすいから嫌なのよ」
 私は引き出しから商品のガイドブックを取り出し、探し物を行う。

「今のお給料ではなあ、ここのランクは変えないからなあ」
 兄を買ったときは弟とセットで購入して安かったのだ。 

「ご主人さま、これは」
 二号機が私に答えを求めた。

 私は微笑みながら答える。
「血が通ってなくたって、家族は家族ですもの」

 でも、すぐに壊れてしまうのが、やっぱりSFとかと違う点よね。
 うろたえた二号機が後ずさりしながら、なにかにけつまずく。

 二号機が振り向くと、一号機の夫の顔が、ごみ袋の中で冷たくこちらを覗いていた。
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