お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:16 人 文字数:2432字 評価:0人

天敵 ※未完
「あっ、しまった」

 私は掃除機のスイッチを押しながら呟いた。いくら電源をオンにしても掃除機の吸い込み口はウンともスンとも言わない。どうやら、壊れてしまったようだ。

「結婚したとき買ったものだから、まだそんなに使っていないのに」

 口ではそう言いつつも、私には掃除機の壊れた理由が分かっていた。掃除機が壊れた理由はきっと中身にある。私は本体を開け、中のゴミの詰まっているパックを調べてみた。

「やっぱり」
 
 パックの中には、猫の毛がぎっしりと詰まっていた。パックの中に納まりきらなかった毛が、本体部分のモーターや排気口に絡まり、掃除機を壊してしまったのだ。私は溜息をつきながら、パックを取り外し黒いビニールで包んだ。
 私が居住している団地では、数年前から野良猫が大量発生していた。一年、二年と経過するたびに猫の数は倍ずつ増え、それが問題となっていたのだ。初め、猫たちはその愛くるしい外見で団地の住人達から歓迎されていた。しかし、猫の数が増え敷地内や住居のベランダに侵入し始めたころから風向きが変わった。数の増えすぎた猫たちの、尿や糞が問題となるようになった。住人の中にはプラントで野菜を育てている人も少なくなく、そこに猫が粗相をすると住人達は次第に猫の存在を疎ましく思うようになった。そしてある日、団地では猫を餌付けしたり可愛がることを禁止してしまった。それ以来、猫の数は緩やかに減少していた。

「掃除どうしよう」
 
 私は壊れた掃除機を眺めながら途方に暮れていた。うちの掃除機が壊れてしまった原因は、私が他の人たちには内緒で積極的に猫を家の中に招き入れていたことに原因がある。朝、旦那を職場へ送りだして家事を一通りしたあと、私はとても暇だ。初めはその暇を楽しむ余裕があったが、その状態がずっと続くと徐々に私は暇であることを苦痛に思うようになった。
 そこに現れたのが野良猫だ。猫たちは餌を与えれば家の中まで入ってきて、私の遊び相手になってくれた。私は自分が寂しいことをしていると自覚しつつも、暇潰しの相手をしてくれる猫に感謝をしていた。
 家の中に猫を入れれば当然掃除が必要になってくる。特に猫を入れたあとは毛があちらこちらに落ちていた。私はそれを今まで掃除機で処理していたのだが、掃除機が壊れてしまってはそれも出来ない。仕方がなく私は隣に住んでいるYさんに掃除機を借りることにした。

「はい、どなた?」

 家の前に立ってチャイムを鳴らすととインターホンからYさんの声が聞こえた。私は掃除機を貸してほしい旨を伝える。

「どうして掃除機は壊れたの?」

 猫を家の中に入れることは団地のルールで禁止されているので、私は理由をでっちあげた。

「今月は家計が苦しいので、普段はお店でやってもらっている脱毛を自分で処理していたんです。抜いた毛をゴミ箱に移そうとしたんですけれど、誤って床の上に落としてしまい、それを掃除機で吸っていたら毛が絡まって壊れてしまったんです」

「それは大変ね。でも、困ったわ。掃除機は今使っている最中なの。そうだわ、ちょっと待って」

 しばらくするとYさんが少し古い掃除機を持って現れた。

「この掃除機なら使ってもいいわよ。今の掃除機を買う前まで使っていたものなの。毛が絡むと掃除機はすぐ駄目になるわよね。それ、返すのいつでも構わないから」

 私は掃除機を受け取るとお礼を言い、急いで我が家へ帰った。

「ただいま」

 夕方、旦那が仕事から帰ってきた。

「今日の夕飯はなに?」

「ごめん。まだ準備できてないの」

「そう。……ねえ何か変な匂いしない?」

「何のこと?」

 私はどきっとした。旦那は、何故か猫のことが病的に嫌いで、もし、家の中に猫を入れていたことがばれると激怒するはずだった。私が夕飯の支度をしていなかったのは、猫が入った後処理で忙しかったからだ。

「そんなことより掃除機が壊れてしまったの。今度の休み、新しい掃除機を買いに行きましょう」

「ああ」

 旦那は目を険しく細めながら返事した。

 次の休日、旦那に車を出してもらい電気店まで掃除機を買いに行った。その帰り道、旦那が車の中で話しかけて来た。

「最近、家の周りで猫を見かけなくなったね」

「ええ、そうね」

「みんなが団地のルールを守り、猫に厳しく接した成果の表れだ。実に喜ばしい」

「ねえ、ちょっと車を停めて」

「どうした?」

「お手洗いに行きたくなったの。そこの公園に公衆トイレがあったはずだわ」

「駄目だ。家まで我慢しろよ」

「どうして?」

「……別に意味はないよ」

「無理よ。我慢出来ないわ」

 私は強い口調で旦那に車を停めてもらい、公園のトイレへ向かった。用を足し、手を洗った所でトイレの裏手から異臭が漂っているのに気がついた。

「あれは何かしら?」

 異臭の元には段ボールがあった。もし、それが閉まっていれば私は興味を失くし車まで戻っていただろう。しかし、段ボールの蓋は開いており、近づけば中身が見えるようになっていた。
 一瞬、それが何なのか分からなかった。スーパーで見かける手羽先が積まれているのかと思ったがよく見れば違った。それは毛をむしり取られた猫だった。桃色の肌を晒した猫の死体が、ギュウギュウと絡み合った指と指のように狭い段ボールの中でひしめき合っていた。
 
 私は声を上げることなく車まで走って戻り、旦那に報告した。

「なるほど、だから猫の数が目に見えて減っていたのか。おい、僕たちがこれをした人に感謝しなくちゃいけないな」

 私は旦那の言葉に気持ち悪さを覚え、そのまま気を失った。

 家に着いたあと、私はベッドの上で横になっていた。旦那の姿はなかった。どうやら、夕飯の買い出しに行ってくれたらしい。
 このまま寝ていても仕方ない。私は部屋の掃除をすることにした。
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