お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:38 人 文字数:2164字 評価:0人

深淵を覗くとき人はまた深淵に覗かれている

 率直に言おう。俺の家系は代々ハゲを受け継いでいる。
 父も兄も……そしてその例外に漏れず、俺の頭は後退し始めてきた。

「お前も兄ちゃんに似てきたな、見事にデコ広いじゃん。兄2号機だな」

 これが今日の学校での会話。
 中学生までは俺はこの系譜を受け継がず、生きていける。ふさふさで行けるんだ! ……と意気込んでいたものの。高校生になると段々とその恐怖は片鱗を見せてきた。

 苦しみもがきながら邁進する高校生活。周りの奴らは夏休みにもなれば脱色したり髪染めしたりしている中俺は踏み切れない。踏み込んだら最後つるっぱげになりそうだ。
 なんで俺だけこんな目に合わなくちゃいけないんだ。

 ある休日の午後。この日は何も用事もなく、居間でくつろいでいると大学生の兄が帰ってきた。
「兄貴、おかえり」
「…………おう」

 元気がない。まるで彼女にでも愛想を尽かされたように。
「今日さ、兄ちゃん振られちゃったよ……」
「ええ……!?」

 物の見事に的中してしまった。
 あんなに仲良さそうにしてて最近は家族ぐるみの付き合いだったというのに……。

「シャワーを浴びてドライヤーで乾かしてたんさ。そしたら不意に彼女が俺のおでこを凝視してきてな……。こんなにおでこ広かったのって……」

 兄はその頭部のコンプレックスから、中腹にある髪の毛を伸ばし、前髪として持ってきている。
 その事実を彼女に見られ、発覚したということか……。恐ろしい名探偵め……。

「お前も気をつけろよな……」

 そう言うと兄はそそくさと二階にある自分の部屋へとトボトボと戻っていった。
 俺はその哀愁漂う後ろ姿を――煤けた背中を見つめて、ただ呆然と立ち尽くした。

 あくる日の朝、寝込んでいる兄貴を心配しつつも。俺は学校へと向かう。
 自転車のスピードを穏やかに髪が風に煽られないように。
 今日は強風じゃありませんように。

 悩ましい種を頭の隅においやり、教室へと足を運んだ。


 ◆


 一日の授業が終わり、澄み切った青空に目を向ける。
 今日も大変だった。

 今日の一幕。体育の授業中。俺のマラソンでの走りにクラスメイト全員がざわついた。
 もちろんこれも例外漏れず、そよぐ前髪には奇怪な視線が向けられた。
 そのことでみんなに野次られ、俺はへらへらと薄ら笑いを決め込むことしかできなかった!
 なんて不甲斐ないんだ。自分に少しでも自信があれば、勇気が持てたなら。

 もうこうなったら野球部にでも入って、いっそのこと頭でも丸めてやろうか……。

 甲斐甲斐しい努力も何もかも無駄だったのだ。父の使う育毛剤をこっそり使っても。
 カツラや植毛だって考えたけどバレたときや金銭面を考えると合理的ではない。


 自転車を漕ぐその足に力が籠もった。耐え難いこころへの痛みは怒りとなって沸々と押し寄せた。
 自然と辺りに目を配る。登下校するこの道も今では見慣れたものだ。
 深く考え事をしないように、ただただ前を見つめ漕ぎ進む。
 するとそこに突然。曲がり角から人影が飛び出してきた。

「きゃあっ!?」

 すぐさまブレーキをかけ悲鳴の方へと目を向けると、マスクをした若い女性が尻餅をついていた。

「大丈夫ですか!?」

 そう言って俺は駆けつけ手を伸ばした。するとその女性は涙目をこらえながらも笑顔を見せると、俺の手をそっと掴んだ。

「ありがとうね。私の不注意だわ……」
「いえいえ、そんなことないですよ」

 ドキドキした。胸がね。ドックンてね。
 見たところ俺よりは年上、若いOLのKATAKANA。

「ちょっと考え事をしてたの……」

 女性はそう言うと立ち上がり、俺を一瞥すると。

「良かったら悩みを聞いてもらえないかしら……」
「えっ……」

 突然のことに戸惑うが、年上好きの俺は了承の返事をした。


「はえ~すっごい大きい」

 そこは見るからにどこかの企業の社宅だった。

「お一人で住まわれてる訳じゃないですよね? ご主人に迷惑じゃないですか?」
「大丈夫よ、主人は今泊まり込みで遠方の仕事に出かけているから」
「あっ、はい」

 おら、わくわくすっぞ。
 部屋に入ると、そこにはメス匂いがプンプンしてやがって、おら、わくわくすっぞ。

「ここのソファに座って待ってて貰える? 今お茶を用意するから」

 そう言われて待つが、奥の部屋のトビラの隙間からベッドが見える。オラわくわくしてきたぞ。

「お待たせ、アイスティーしかなかったんだけど、いいかしら」
「いえ、もう全然お構い無く……ところで俺に話ってなんなんですか、急に俺だなんて」

 思っていた疑問をぶつけた。そこがもう不思議でしょうがない。
 ただ偶然出会っただけなのに。
 そして、室内に入ってもひた隠しにしているマスクの中。
 気になる。

「そう。私の悩みというのはね……」

 そう言うと彼女はマスクをゆっくりと外し、素顔を見せた。
 そこに現れた、深淵の闇を見つけてしまった。

「私、ヒゲが剛毛なのよ……髭剃りしないニューハーフのようになぁ!!」

 ということで僕のハゲに気づいていた彼女は。

 俺の頭部とその顎を交換した。

 
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