お題:団地妻の脱毛 必須要素:二号機 制限時間:1時間 読者:26 人 文字数:2465字 評価:0人

脱毛戦線
それは、確かに光だった。
まるで闇夜を照らす一筋の月明りのように、それは青白く光り輝いていたのである。





ミンミンのセミの鳴き声がひっきりなしに聞こえる、季節は夏まっさかりといったところか。
こんな暑い時期に、彼、近藤は引っ越してきた。
郊外にあるマンションのとある一室が彼の新しい住み家となる。

「引っ越しの荷物やっと片付いたぞ俺、よくがんばった俺」

疲労困憊の体をどうにか引きずって部屋の隅に追いやられていた段ボール箱の中をごそごそと漁る。
真新しい畳のにおいが鼻をかすめた。

「引っ越しの挨拶ってするんだよな?あれ?最近ってそういうのしないのか?」

真っ白なタオルと洗濯用の洗剤の箱を抱えた近藤は首を傾げた。なにぶん田舎育ちなもので、(彼にとっての)都会での常識がいまいちわかっていないのだ。

とはいえ挨拶は人としてのマナーである。近藤は首にかけていたタオルで額から垂れる汗を拭うと、立ち上がって背伸びをした。
太陽がまぶしい。時間はもう午後の3時である。

ピンポーン。
隣の部屋のチャイムを鳴らした。

玄関のドアの横には「滝沢」と書かれた表札がかかっている。

「一人暮らしかな?」

少し待ってみたが返事がない。

再びチャイムを鳴らす。が、やはり返事はない。

「仕方ねえ、夜また来るか」

近藤がそうつぶやいた途端、滝沢の部屋からがたんどすんという大きな音が聞こえた。
もしかして、この暑さのせいで倒れているのではないか、悪い予感が脳裏をよぎる。近藤はなりふり構わず玄関のドアをドンドンと叩いた。

「滝沢さん!?何かあったんですか!?大丈夫ですかーー!!」


近藤がドアを叩き続けていると、部屋の中からドスドスという足音近づいてきた。
その音を聞いて近藤が2、3歩後ずさると同時に、派手な音をあげてドアが開いた。

「何事ですか!?火事ですか!?」

現れたのは白い何かを手にした近藤と年の近そうな女性だった。





「たいっへん失礼いたしました!」

「い、いえ、私は気にしてませんから…」

深々と頭を下げる近藤と、困ったように手を振る女性――滝沢は、滝沢の部屋でようやく自己紹介を終えたところだった。色白な肌に艶のある黒い髪をひとつにまとめただけだが、雰囲気のある美人である。

「まさかその…俺が挨拶に来た時にそういうことをしているとは露知らず…」

「ええ、まあ…そうですよね…」

近藤にそう言われ滝沢は赤面し、手で顔を扇いだ。

そう、滝沢は近藤がチャイムを鳴らす少し前から、手に持っていた脱毛器で脱毛をしている最中だったのだ。

「それにしても、滝沢さんがさっき持っていた機械が脱毛器なんですよね?」

「あ、ええと、はい。そうです。…これです」

そういうと滝沢は背後にある棚から、玄関を飛び出した時に手にしていた白い脱毛器を取り出した。

「脱毛器なんて初めて見ましたけど、ずいぶん大きな音がするんですかね。確か…俺の声とかチャイムが聞こえなかったって言ってましたよね?」

近藤がその脱毛器をしげしげと眺めていると、滝沢はハッとしたようにそれを背後の棚に戻した。
確かにこれは赤の他人が、それも今日初めて会ったばかりの男がじろじろと見るものではないと近藤も気まずそうに咳払いをした。

「それはその…前に脱毛器を壊したことがありまして…これは言ってみれば二号機みたいなものなんですけど、安い物でもないですし、はい…。だから、今度は壊さないようにとそれはもう集中してしまいまして…」

「え、壊した?」

「私こう見えて握力強いんです…」

脱毛器を握りつぶしでもしたのだろうか。さすがに近藤にそこまで聞く勇気もなく、出された飲み物も飲み終えたところで帰ろうと立ち上がった。

「すみません、引っ越しのご挨拶をしにきただけでこんなにお邪魔しました」

「こちらこそ、大したお構いもせずに…あ、そろそろ夫が買い物から帰ってきますから良かったら晩御飯でもご一緒に…」

「いえ!そんなお邪魔したら悪いですから!旦那さんがいる時にまたご挨拶に伺いますんで!」

人妻だったんかい!と内心驚愕しながら近藤は自分の部屋へと帰っていった。







隣、近藤の部屋のドアが閉まった音を確認した滝沢はほっと胸をなでおろした。
あんな小手先の嘘で騙されてくれて助かった。

近藤には脱毛器と説明したその小さな機械を手に取る。そして目の前の空間に向けてスイッチを入れた。すると、驚いたことに、ブーンという低い音をたてながら目の前に映像が映し出された。

「先ほどは失礼しました、隊長」

その映像には黒い服を着た灰色のタコのような生物が2本の触手を腕のように組み、残りの何本かの触手をうねらせソファに座っていた。
滝沢がそのタコのような生物に頭を下げると、そのタコはうねらせていた触手を横に振りながらキュルキュルという声で何かの言葉をしゃべった。

『¥●×▼$$…』

「はい、隣の部屋に引っ越してきたという住民からの挨拶だったようです。あの様子ではおそらく地球人でしょう。心配ありません。」

どうやら滝沢には意味が通じているようである。先ほどの温和な様子とは打って変わって、滝沢は鋭い目つきでそのタコと会話をしている。

「はい。…はい。我々火星人が地球の調査に来ているということはくれぐれもバレないよう行動します。特に、あのがめつい金星人たちには。」

―――滝沢は火星人だった。
時を同じくして、近藤も部屋で何かをしゃべっていた。

「はい。今しがた終えた調査の結果をお知らせします。まず、隣に住んでいるのは地球人の『ヒトヅマ』という生き物らしく―――」

『&※@〇×?▽Ε℃…』

「ええ、あの『ヒトヅマ』は十中八九地球人でしょう。問題ありません。あの愚かな火星人に地球人の真似はできませんよ。…ええ。はい。ほかの惑星からの調査団にも念の為気を付けておきます……」
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