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お題:誰かは感覚 制限時間:15分 読者:38 人 文字数:622字

この世は常に正しいのだから

 道端に、
 植木鉢が転がっている。そのまま通り過ぎる。誰かが立て直すだろうから。
 コンビニ弁当が引っくり返っている。そのまま通り過ぎる。誰かが片付けるだろうから。
 酔っ払いが倒れている。そのまま通り過ぎる。冬ならちょっと様子を見たかもしれないが、いまは夏だし、車道ではなかったし、そのうち誰かが起こすだろう。あるいは自分で起き上がるだろうから。

 会社で、
 新卒の女の子がトイレから出てこない。そのまま通り過ぎる。自分よりも慰めることが上手な誰かが上手くやってくれるだろうから。
 どうやら不正らしきものが行われている。そのまま通り過ぎる。部署全員が気づいているし、正義感の強い誰かがきっと止めてくれるだろうから。
 あきらかに給与の計算がおかしい。そのまま通り過ぎる。よくあることだし、言っても無駄だし、労働組合の誰かがどうにかしてくれるだろうから。

 世界に、
 どうやら要らないと言われたらしいことに彼が気づいたのは中年にさしかかってからのことだった。不正が明らかになったことで会社は倒産し、職を失い、次に行ける場所はどこにもなかった。借家に住めなくなり、都会のターミナル駅のあたりをさまよい、寒い夜には教会にこもり、神様の像をぼんやり眺めている。
 それでも彼はまったく絶望していない。世界を信じ、他者を信じ、かならず誰かは自分を見ていてくれていると、かならず善良な誰かは自分のそばにいると、心の底から信じきっている。

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