お題:いわゆる絶望 制限時間:30分 読者:23 人 文字数:798字
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恋という名の、
天草礼生(あまくされお)という少女は、はっきり言って関わってはいけない人種だった。
まあ正直言って、普通に生活していれば平凡極まりない自分とはとても縁のある人種でもないのだが。
視界の片隅に映るだけでも空間が華やぐもので、教室の窓際、移動教室の廊下、休み時間の笑い声なんかは、俺の記憶に確かに爪痕を残していった。

でも、それだけだ。
こちらは認識していても、相手にはその他大勢有象無象。
俺の存在は、視界の片隅にすら入っていないだろう。

「世界が物語だとしたら、天草さんみたいなひとを主役に選ぶだろうね」
「人生の主役は、いつだって自分だろ」
「いいこと言うねえ。でも僕は主役になるために、今以上に頑張りたくないんだよね」

中庭で購買のパンを頬張りながら、友人たちの会話を聞いていて、確かにそうだと思えた。
天草礼生は世界のヒロインそのものだし、例えばその隣に立ちたいと願ったとして、そこまで辿り着く努力を自分ができるとは思えないのだ。

「誰だって、実る保証のない努力なんてしたくないもんな」

ぽつりと零した俺を、友人たちは一瞥して、各々の食べかけの昼食を見つめながら、確かに、とどちらともなく呟いた。
世の中には夢を見れる人種と、そうでない人種がいるものだ。
それに気づいた時、これからの長い人生を思うと酷く虚しく思えるけれど、そういうものだとも思う。いわゆる、絶望というやつだ。

「次、移動だろ」
「俺、忘れ物取ってから向かうから、先に行ってて」

友人たちと別れ、いったん教室に戻った俺は、がらんとした教室の隅に見慣れた少女の姿を見た。

「きみも、忘れもの?」

彼女の瞳に映り、その言葉が耳に届いた時。
世界の常識を覆しても、自分でない何かにならないといけないとしても、隣に立てる存在になれないかと思った。

この感情の名前を知っている。
これもいわゆる、絶望というやつだ。
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