お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:100 人 文字数:3375字 評価:0人

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数年に一度、普段はひきもしない風邪をこじらせることがある。それもどこでもらったのかも思い出せないような凶悪な風邪をもらう。
「パブロンは一回三錠だよ」
いつもそのようなタイミングで風邪をひくのだけど、ただ今年は少し様子が違った。

きっかけはそんな会話で、私が家に常備しているパブロンの話をしていると、その友人は驚いたような顔をした。
「風邪?うーん、でもまあこの時期になると、私は大体家にある常備薬のパブロンを飲んでいるから」
都心ではインフルの季節になったという話が始まりで、それがインフルの予防診断とかの話になり、赤羽では千円で打てる場所があるだの、という話に移行し、それが風邪はひくのかどうかという話に変貌したのだった。
「一回四錠で飲みにくいんだけどね」
ただ、とにかく日常的に危ないと思ったら、この時期は特に風邪薬を飲んでいる。家に常においておくようにしている。パブロンは手放せない。そんな感じの話をしたつもりだった。
すると、その友人は怪訝な顔をし、
「パブロンの何?」
と、聞いてきたので、
「ゴールドだよ」
と、私は返した。たくさん入っている奴だと。確か二百十錠くらい入ってて、すごい持つんだよ。風邪とか、病気とかし慣れてないから、一回かかるともう大変なんだよね。不安になるし、直し方も知らないんだよと。

病気にかからない人ほど、病気を恐れ、異常にうろたえるものだ。

とは、私の好きな小説の一節である。それが何の一説かは言わない。恥ずかしいので。

すると怪訝な顔をしたその友人は、
「パブロンにもいろいろとあるけども、新しいのは一回二錠なんだ」
と、言った。SWのはね。と。

なぜ、そんなことを今言い出したのかと、私が黙っていると、
「でも、君の言ったパブロンは一回三錠だよ」
と、言った。

それから家に帰り、実際冷蔵庫に入れてあったパブロンの箱を見ると、確かに三錠、一回三錠と書かれており、それで足元がふらつくのを感じた。

それからはもう無我夢中で、パブロンの残りを数えていた。帰ってきたまま、手を洗うこともせず、うがいもせず、着替えることもせず、暖房もつけないまま、一度パブロンの残りをテーブルの上に全部空けて、三個ずつ分けていく作業に没頭した。

ここのところ、二日おき程度にパブロンを四錠ずつ飲んでいたように思う。ある時は三日おきだったかもしれないし、ある時は一日おきだったかもしれない。詳しく覚えていない。最も誰にとっても日常生活などそのようなものである。

私にとって常備薬であるパブロンも、そうであった。

去年は三錠ずつ飲んでいた。箱の記載もちゃんと確認していた。それなのに、どうして今年になって私はパブロンが一回四錠だと思い込んでいたのか?

そんなことを考えながら残りの数を数えていく。

私が常備薬としていたのは二百十錠入っているパブロンである。つまり三錠ずつの飲んでいけば、七十回の予防ができるという計算だ。それが一回四錠飲んで、それを幾度か繰り返していくと、その計算は崩れてしまう。割り算のあまりの様に、そんな中途半端な部分が生じてしまう。必ず残り端数が出てくる。

残りを数え終わると、案の定、3にならない部分が生じた。

「マジでか・・・」
それにショックを受けた。無論パブロンは悪くない。悪いのは勝手な勘違いをしていた私である。

しかし、それによって昔の記憶がよみがえった。

子供のころ、風邪をこじらせたとき、親に連れられて病院に行った。その時も心底辛い風邪であった。咳はとまらず、うるさかったし、それによって喉は傷んだ。鼻水は出たし、熱も出た。何を食べても戻してしまった。枕元に置かれていたタオルを冷やすための洗面器に吐いたりしていた。ひどい記憶だった。
思えば、その時私はもう風邪をひかない様にしよう。と思ったのだ。
「こんなにつらいもの、もう絶対にひかない」
と、それで病院から処方された3種類の風邪薬を1週間分くらい一気に飲んだのだった。

幸いにしてすぐに吐かされた為に体には異常がなかったけども、でもそのあと親に死ぬほど怒られた。死ぬつもりかと、薬を何してるんだと。
とにかく怒られた。風邪ひいてただでさえ弱っているときに、死ぬほど怒られた。

子供のころの私というのはそれの意味が、怒られたことの意味が分からなかったが、読書などをするようになって睡眠薬を大量に飲んで自殺する人がいることを知って、ようやくその意味を理解した。
「薬っていうのは危ないんだな」
と。

薬っていうのは何も病気を治すだけのものではない。使い方を誤れば、死ぬこともあるのだ。

と。

パブロンを数え終えた時も、そういうもろもろの記憶が自分の中でバチバチッと、次から次にフラッシュバックされて行って、それで気分が悪くなった。

子供のころ死ぬほど怒られたのに、私はまた同じ過ちを犯したんだ。

という事がショックだったというのもあるし、

普段、薬なんて飲まないのに、時期が冬になったからとパブロンを飲み始めた為、
「普段薬飲まないし、子供のころは吐いたけど、でも自分の体は大丈夫だろうか?」
という事が不安になったのもある。一錠とはいえ、薬は薬。今までは気が付かなかったからセーフだったけども、でも気が付いてしまった今、私の体は大丈夫なんだろうか?という不安。

「・・・べっくしゅ!」
気が付けば、暖房もつけていない暗い部屋で手も洗わずうがいもせずに、パブロンの端数を眺めながらぼーっとしていた。そのくしゃみで気が付いた。

なんとなく体に異常があるような気がしていた。

そこに来て、

病気にかからない人ほど、病気を恐れ、異常にうろたえるものだ。

という私の好きな小説の一説を思い出した。

「・・・」
ある種の小説には、久々に再読するとまるで、
「これは、私と気心の知れた旧友なのではないか?」
と感じることがある。

それが肉親でないのは、私の勝手な解釈だ。肉親なんて思ってしまうと、相手に迷惑が掛かるかもしれないという配慮である。だから友人で止めている。

その本を一冊読むつもりはなかった、トイレに入るときだけちょっと何かほしかった。そんなつもりで久々に手に取った本の、言葉遣いや、話の展開の仕方に心が奪われるときがある。

抗いがたいほどの面白さで、顔はほころび、話の展開や結末は知っているのに、再び興奮してしまうような事。

ある種の小説には、そういう事がある。誰にとってもあるだろう。一度読んだらもう駅のごみ箱に捨ててしまう。家にものを増やしたくないからという人以外、読書をする人であればそういう事があると思う。

私はあった。

しかし、その時思ったのは違う事であった。

私は私の好きな小説の一説を思い出して、恐怖したのだった。

病気にかからない人ほど、病気を恐れ、異常にうろたえるものだ。

私は今、恐れているのではないか。と。うろたえているのではないか?と。

自身の体に起こった異常に。

「もしかして、大丈夫じゃないかもしれない」
と、思ってしまった自分の体に。

恐怖したのだった。

薬は毒にもなるんだ。死ぬこともあるんだ。

風に言えば、

実は旧友が犯人だったんだという感じである。

いくら気心がしていていても、いくら仲が良かったとしても、それで殺されないという事はない。そんなこと、いくらでもあるではないか。

土地にかかわるトラブルで、隣人の80歳を超えたばあさんが長年嫌がらせに落書きをしていたというニュースを最近読んだばかり。

隣同士でも、そういう事があるではないか。

私はそれで寝込んだ。

その晩、恐ろしい夢を見た。

棺が燃えている所に腕を突っ込む夢を見た。

そして起きたら、タイムスリップしていた。

カレンダーを見ると8月になっていた。テレビをつけてみても8月のニュースが流れていた。

しかも今年の8月である。

子供時代に戻るわけでもなく、中途半端な8月にタイムスリップ。

「これは夢の続き?」

しかしアマゾンを眺めてみると、クリスマスまでにお届けしますという表示で、履歴が残っており、ハリボーのグミがのっていた。
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