お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:104 人 文字数:2118字 評価:1人

ブルークリスマス
「クリスマスプレゼントちょうだい」

「は? いったいどう言う意味だ?」

「やだなあ、アキラ頭があまり良くないと思っていたけれど、とうとうこんな簡単な日本語が分からなくなっちゃったの? 私はクリスマスプレゼントが欲しいの。だからアキラは黙って私にプレゼントを用意すればいいんだよ」

「違う。俺が言っているのはそういう意味じゃない」

 俺は真っ青な空の下、蝉の鳴き声を聞きながらカオリの言葉を聞いていた。

「百歩譲って俺がお前にクリスマスプレゼントをあげるのは分かる。だが、今は夏休みが始まったばかりで、クリスマスはまだまだ先だ」

「だってしょうがないじゃん。私の誕生日はこの前過ぎちゃったんだから、クリスマスプレゼントしか思いつかなかったんだもん」

 俺はハアと大袈裟に溜息をつきながら額の汗を拭った。終業式も終わり夏休みの予定をアレコレ考えながら下校している最中に、こいつはいったい何を言っているのだ。

「よく分からないが、その要望は却下だ。俺は来年の受験の準備で忙しい」

 実際、俺は今夏忙しくなる予定だった。近くの私塾の夏季セミナーに申し込みをしたので、完全な休日が数えるほどしかない。

「へえ、アキラ勉強するつもりなんだ。意外」

「ああ、勉強するつもりなんだ。将来のことを考えて。どっかの誰かさんと違ってな」

「なるほどねえ」

 俺の嫌味に気づいたのか、カオリは何だかちょっと複雑そうな顔をした。

「じゃあ、勉強で忙しいみたいだし、プレゼントは簡単なものでいいよ」

「おい、何で既にあげる前提なんだ」

「まあいいじゃない。かわりに12月は何もいらないから」

「あげる前提なのは確定なんだな」

「へへっ」

 カオリは不自然なほど綺麗な歯を見せながら小憎たらしく笑った。なんだかんだ文句を垂れつつも、俺がプレゼントを用意すると確信しているのだろう。その考えは非常に不愉快だが、たぶん、俺はそうする。今までも彼女からの意味不明な要望に全て応えてきたからだ。

「タイムリミットは8月1日ね。遅れたら絶対に駄目だから」

 8月1日か。まだ一週間以上あるしのんびり贈り物を考えることにしよう。

 なんて思っていたら日時はあっという間に過ぎて、8月1日は翌日に迫っていた。7月31日の夜にその事実に気がついた俺はさすがに慌てた。今からプレゼントを準備するのは難しい。さてどうしたものか。
 俺はカオリの好きなものを思いだした。かわいいヌイグルミ、派手な色をした傘、二千円札、グミ……。うん、これだ。コンビニで買ってきても良かったがどうせなら特別なものを贈りたい。ネットで調べてみると作るの自体は簡単そうだった。

「よし、試しに作ってみるか」

 俺は、勉強の休憩がてら台所に立つことにした。

「何これ?」

「何ってご所望のクリスマスプレゼントだ」

 翌日、俺は真夏の太陽の下、カオリにクリスマスプレゼントを渡していた。グミの元は缶ジュースをベースにしてゼラチンを溶かしたものだったので簡単だったが、グミを入れる容器がなかったので、冷凍庫にあった製氷機の型を使用した。結果、出来上がったのはカラフルな色の氷のようなグミだった。主観的に見てもグミっぽくないのだから、カオリから見てもグミとして微妙なのだろう。

「昔から固めのグミが好きだったろ。ゼラチン多めにして固めにしといた。最近ちょっと顎が細くなってきてないか。しっかり噛んで顎を鍛えろよな」

「余計なお世話だよ。でもありがと。嬉しいよ」

 言葉とは裏腹に、カオリの表情はどこかぎこちないものだった。やはり、クリスマスプレゼントにお菓子では不服だったのか。本当のクリスマスにはもっとしっかりしたものを用意しよう、と俺は密かに考えた。
 けれど、その機会は永遠に訪れなかった。

 それからしばらくしてカオリとは連絡が取れなくなり、夏休みが終わる前にカオリは死んでしまった。数年前から大病を患っていて、8月1日に俺と会った後から入院していたらしい。

「アキラ君。これありがとうね」

 葬式の出棺直前、最後にカオリの顔を眺めているとカオリのおばさんから声を掛けられた。久しぶりに会ったおばさんは、ひどくやつれていた。

「あの子、アキラくんから貰ったってすごく喜んでいたの」

 それは、俺がアイツと最後に会った時に渡したグミだった。

「喜んでくれたなら嬉しいです。でもアイツ食べてくれなかったんですね」

「違うの。食べられなかったの」

 おばさんの話によると、カオリは数か月前から総入れ歯になっており、固い食べ物が食べられなくなっていたそうだ。

「そうですか」

 その話を聞いて、俺はおばさんからグミを受け取り、カオリの棺の中に入れた。

「ゼラチン多めで作っちゃったけど、こうすれば天国に持って行けるだろ。向こうに着いたら早く食べてくれよ。クリスマスまで取っとくと腐っちゃうだろうからな」

 俺の横でおばさんが、すすり泣きながら小さな声でもう一度ありがとうアキラ君、と言っているのが聞こえた。













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