お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:26 人 文字数:1917字 評価:0人

ちょっとした夜
一年中クリスマスのところがあるんだ、と連れて来られたのはやけに薄暗い店で、入った瞬間にしまったと後悔したが、実際のところはただの店だった。
クリスマス専門店、と言えばいいのか、その関連のものしか販売していないそこは店内の明かりを絞り八割を闇へと染め上げ、そこかしこに灯るオレンジの光を際立たせていた。

「でも、なんでここ?」
「だめ?」
「いや、別にいいけど……」

私は、自身の姿を省みて、少しだけ下がる。
身の置き所がない感覚。できれば店の外まで下がりたい。

「ここって、夏祭りの後、浴衣姿で来るところじゃないと思う……」
「いやいや似合ってるよ?」
「サンタの隣に菖蒲の染付が似合う世界はない」

着物の柄を見せつける。

「わたしの中では正義だから無問題!」
「どういう意味で正義なのか」
「異国情緒的な感じが?」
「あんたの感性、異国に行ってる」
「旅行中かぁ」

わはー、と何も考えていない友人を残し、私はおずおずと店内を見渡す。
本当に、クリスマス関連の商品しかない。
冬の、雪がちらちらと降る中では素敵な品々も、八月の熱帯夜の中ではどこか浮いている。
ジャングルの奥地に飾り付けられたモミの木があったらヘンなように、この店だけが日本の夏の情緒に全力で喧嘩を売っていた。

「だが、その店の中にいる私は今、浮いてしまうのであった……」
「なんか言った?」
「どうしてあんたがこの店に連れてきたのか訊いた」

と嘘をつく。

「良い店でしょ?」
「認める、でも、タイミングってものがある」

夏祭りの出店を巡って、久々に逢った友人とも再会し、その次に行くところがなぜクリスマス専門店なのか。

「ぜったい気に入ると思って!」
「せめて着替えてから来たかった」
「わたしは、そういう姿をむしろ見たかった!」
「悪趣味だ」
「知ってるでしょ?」
「いまようやく思い出したよ」
「撮るよぉ?」
「おい、そのスマホから手を離せ、今すぐにだ」

ぽつぽつと、暗い店内に灯る明かりは、妖精か何かを思わせる。
その大半は、ただのまるい光でしかないけれど、中には実用というか意味を持たせているものもあった。

「へぇ……」

ロウソクが立てられ、その上を風車のようなものが水平に覆っていた。
熱で暖められた空気が立ち昇り、上がった先の風車に当たり、固定されていないそれがゆっくりと回転をはじめる。
風車の上方に、アクセサリーのように取り付けられた天使も一緒にくるくると回っていた。
というか、天使を回すのことが目的のインテリアだった。

「理科の実験みたい……」
「感性ズレてるよねぇ」
「あんたに言われるのは心外すぎる」

誰もが思うことのはずだ。
えー、と不満顔の友人は、両手を振って不満をアピールしていたが、ふと棚を見つめ笑顔になった。

「あ、はりぼーだはりぼー!」
「……なにそれ……?」
「不味いって評判のグミ!」
「どうして嬉しそうにそれを言うかな」
「買おうぜ!」
「あんただけが食べるなら、私は止めない」
「苦難を分かち合おうぜぇ」
「おい、その苦難を元の棚に戻せ、というか両手で持って来るな」

HARIBOの文字が何かの呪いのように思えてくる。

「美味い可能性もあるかもしれないし!」
「なおさら一人で食べるべきだよね、それ」
「私、一人占めするキャラだと思われていた!?」
「いや、わたしなら、そうする」
「友達っぽさ行方不明!」

寝言を言う友人の後ろから、赤く巨大な壁がにゅっと迫った。
いや、それは人だった。
というかサンタだった。

私と友人は、固まる。
ニコニコとした笑顔だったけど、いきなり距離を詰められたら、困る。

「――」

何かを言っている、らしい。
けど英語ですらない言葉で言われても、ぽかんとするより他にない。
私たちより頭二つ三つぶんは高いそのサンタは、言うことを言ったら満足したのかゆっさゆっさと離れて行く。

「……な、なんて言ってた?」
「わかんない……」

わたしはそう返すしかない。
少し考え、

「たぶん、店内ではもうちょっと静かに的なこと、だったのかな、ひょっとして」
「あー」
「もしくは、この店でいい子にしてないと、クリスマスのプレゼントには馬糞くれてやるぜ、とか言ってたのかな」
「やっぱり感性ずれてると思うよぉ?」
「いや、正確には覚えてないけど、そういうサンタの伝承が本当にあるんだって」
「そっかー」
「おい、信じてない顔だな、それ」

くるくると回る天使のすぐ前で、わたしたちは囁き合う。
夏祭りで、夜で、クリスマスだ。
なぜだか、気分が良かった。


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