お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:97 人 文字数:2543字 評価:0人

プレゼント
 晴れ渡った空、すがすがしく青い海。
 強い太陽光の下でサーフボードを抱えた彼は、オフシーズンを存分に満喫していた。暑苦しい白ひげも、三つ編みにしてリボンを結んである。夏が暑いからと女性が長い髪を丸坊主にしたりしないように、サンタクロースもまたひげを剃ったりはしない。その季節にしか見られないポニーテールと露出したうなじに価値があるように、白ひげの三つ編みサンタはカワイイと好評なのだった。
 空飛ぶトナカイも四足で自分のサーフボードを踏みつけ、砂浜で相方のやってくるのを待っている。今年流行のサングラスはサンタとおそろいのものだ。男のおそろいというのもなかなかおしゃれで、これまたカワイイと人気を博している。
「バカンスは海と決めているのさ」
 老人は若かりし頃の輝きを失わない、白い歯でかっこよく笑ってみせる。ビーチの主役は俺とばかり、颯爽と歩みだしかけたとき、海パンの後ろポケットで携帯が着信した。
 しぶしぶ足を止め、電話をとった。
「はい、サンタだが。なにかね」
「なにかねじゃないよ、あんた、今がいつだと思ってんだ。こっちは雪の降るなか煙突を解放して待ってるってのに、ちっとも来やしない。もたもたしてたら朝になって、子供が起きてきちまうよ」
 電話口の向こうから聞こえてきたのは、苛ついたクライアントの声。サンタは遠い目をして空を見た。蒼穹を飛行機雲が横切っていき、ひっきりなしに見かけるそれに、ここが観光地であることを思いだした。
「今は8月じゃなかったかね」
「ボケたか、爺さん。真冬だよ真冬。クリスマス当日だってのに」
 サンタはそっとサングラスを外し、自分のやってきたホテルを振り向いた。エントランスのまえには噴水があり、直立したライオンと魚類のキメラのような銅像が水を吐き出している。言わずと知れたマーライオン、観光客向けのそのレプリカである。
「シンガポールは常夏なんだよ」
「はあ? 知ったこっちゃないよ、そっちの都合なんて。シンガポールだろうが南極にいようが、とにかく朝までにプレゼントを持ってきてもらわないと困るね」
 クライアントがイライラと靴裏で床を踏む音がするようだった。電話に出たまま、サンタの顔が曇っていくのを、トナカイが心配そうに見ていた。つい先ほどまで、休みの開放感に満たされ楽しく過ごしていたのが、今や現実の厳しさ、クライアントの怒りのまえに無慈悲に晒されている。 
 彼はサングラスをかけ直し、重いため息をついた。休暇とはどうしてこうも、またたく間に過ぎてしまうのか。
 諦めの心地で、仕事に戻るしかなかった。
「ああ、プレゼントか、プレゼントね。お名前を伺っても?」
 依頼人は名乗り、サンタは持ち歩いている手帳を開いた。スマートフォンのメモ機能は信用しておらず、かならず仕事のリストは紙に書いておくのが彼の主義だった。
「はいはい、十歳と八歳のお子さんね。中身は……グミ? スーパーで売ってるようなカラフルなやつ? 私が言うことじゃないかもしれんが、せっかくのクリスマスなんだからもっといいものを贈ってやったらどうかね」
「放っておいてくれ。本物のサンタに頼むとそのぶん金がかかることは知ってんだろう。それにうちの子供たちはあのチープな見た目と味が大好物なんだ」
「子供は無神経なようで、気遣いをする生き物だからな。親の懐具合を慮って、リクエストに気を遣ったんじゃないかね」
「それこそ大きなお世話だよ。人の家庭に首を突っ込むんじゃない。あんたは黙って言われた仕事をすればいいんだ」
 電話は一方的に切れた。
 サーフボードをずるずる引きずってそばまでやってきたトナカイと、顔を見合わせた。いつでも出発準備は整っている、と言いたげだが、依頼のままにスーパーに寄って買い物をしていくだけで本当にいいのか? とその無表情は疑問を浮かべているようだった。

 メモ機能を信用していない、というのは一度水没してデータがまっさらになった経験があるからで、クラウドやらの新機能を使ってみようとしても、アップデートの際のはずみかなにかで同じくまっさらになり、すっかり不信に陥ったわけである。
 で、やはり昔ながらの手段だろうと、手帳であれば問題はない、と安心しきっていた。やんちゃな子供に奪われ油性ペンで黒く塗りつぶされたあげく海に放り投げられ行方不明、なんて事態はまったく想定していなかった。
「あー今年受注した依頼がわからなくなってしまったー」
 ビーチで寝そべりながらわざとらしく棒読みでサンタは言う。とりあえずかぶったトレードマークの赤帽子を子供の足が踏みつけ、甲高い笑い声をあげながら海に駆け出していった。
 十歳と八歳の子供は仲がいいらしく、親がいなくとも寂しがる様子もみせずに、ふたりだけで遊んでいる。夜が明けてみればもぬけの殻になっていたベッドを見て依頼人は探しているかな、と思い、なにげなく携帯を見れば『誘拐犯サンタ』と大きくニュース記事になっていて、そっと電源を切った。ついでに手帳の後追いをさせて海に投げた。どちらにしろ仕事の予定はわからなくなってしまったので構わない。
「常夏の国でのバカンスは最高のご褒美だと思うんだが、どうかね」
 トナカイに同意を求めれば、ブルーハワイに突っ込んだストローを咥え、こっくりうなずいている。みんなが凍えている冬に、あたたかい土地で過ごすのはなににも代えがたい幸せである。今年ぶんの収入はパーになってしまったが、いいことをした、と自賛していると、気づけばびしょ濡れの子供たちが見上げてきている。
「パパとママはいつ来るの?」
 と無邪気に。
 寂しくないなんてそんなわけはなく、当然家族で遊べるものと思っているから楽しめる。もちろん彼らの両親はクライアントで、この冬ゆいいつ仕事をしようと決めた相手でもある。クリスマスは家族で楽しく過ごすもの、サンタクロースである彼が贈るプレゼントとは、物ではなく、そうした普遍的な幸せであるのだ。日々の忙しさに、子供を持つ大人が忘れてしまったものだ。
「すぐ連れてくるよ」
 さっそうとトナカイにまたがるサンタを、子供たちの歓声が送り出した。





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