お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:30 人 文字数:2543字 評価:0人

プレゼント
 晴れ渡った空、すがすがしく青い海。
 強い太陽光の下でサーフボードを抱えた彼は、オフシーズンを存分に満喫していた。暑苦しい白ひげも、三つ編みにしてリボンを結んである。夏が暑いからと女性が長い髪を丸坊主にしたりしないように、サンタクロースもまたひげを剃ったりはしない。その季節にしか見られないポニーテールと露出したうなじに価値があるように、白ひげの三つ編みサンタはカワイイと好評なのだった。
 空飛ぶトナカイも四足で自分のサーフボードを踏みつけ、砂浜で相方のやってくるのを待っている。今年流行のサングラスはサンタとおそろいのものだ。男のおそろいというのもなかなかおしゃれで、これまたカワイイと人気を博している。
「バカンスは海と決めているのさ」
 老人は若かりし頃の輝きを失わない、白い歯でかっこよく笑ってみせる。ビーチの主役は俺とばかり、颯爽と歩みだしかけたとき、海パンの後ろポケットで携帯が着信した。
 しぶしぶ足を止め、電話をとった。
「はい、サンタだが。なにかね」
「なにかねじゃないよ、あんた、今がいつだと思ってんだ。こっちは雪の降るなか煙突を解放して待ってるってのに、ちっとも来やしない。もたもたしてたら朝になって、子供が起きてきちまうよ」
 電話口の向こうから聞こえてきたのは、苛ついたクライアントの声。サンタは遠い目をして空を見た。蒼穹を飛行機雲が横切っていき、ひっきりなしに見かけるそれに、ここが観光地であることを思いだした。
「今は8月じゃなかったかね」
「ボケたか、爺さん。真冬だよ真冬。クリスマス当日だってのに」
 サンタはそっとサングラスを外し、自分のやってきたホテルを振り向いた。エントランスのまえには噴水があり、直立したライオンと魚類のキメラのような銅像が水を吐き出している。言わずと知れたマーライオン、観光客向けのそのレプリカである。
「シンガポールは常夏なんだよ」
「はあ? 知ったこっちゃないよ、そっちの都合なんて。シンガポールだろうが南極にいようが、とにかく朝までにプレゼントを持ってきてもらわないと困るね」
 クライアントがイライラと靴裏で床を踏む音がするようだった。電話に出たまま、サンタの顔が曇っていくのを、トナカイが心配そうに見ていた。つい先ほどまで、休みの開放感に満たされ楽しく過ごしていたのが、今や現実の厳しさ、クライアントの怒りのまえに無慈悲に晒されている。 
 彼はサングラスをかけ直し、重いため息をついた。休暇とはどうしてこうも、またたく間に過ぎてしまうのか。
 諦めの心地で、仕事に戻るしかなかった。
「ああ、プレゼントか、プレゼントね。お名前を伺っても?」
 依頼人は名乗り、サンタは持ち歩いている手帳を開いた。スマートフォンのメモ機能は信用しておらず、かならず仕事のリストは紙に書いておくのが彼の主義だった。
「はいはい、十歳と八歳のお子さんね。中身は……グミ? スーパーで売ってるようなカラフルなやつ? 私が言うことじゃないかもしれんが、せっかくのクリスマスなんだからもっといいものを贈ってやったらどうかね」
「放っておいてくれ。本物のサンタに頼むとそのぶん金がかかることは知ってんだろう。それにうちの子供たちはあのチープな見た目と味が大好物なんだ」
「子供は無神経なようで、気遣いをする生き物だからな。親の懐具合を慮って、リクエストに気を遣ったんじゃないかね」
「それこそ大きなお世話だよ。人の家庭に首を突っ込むんじゃない。あんたは黙って言われた仕事をすればいいんだ」
 電話は一方的に切れた。
 サーフボードをずるずる引きずってそばまでやってきたトナカイと、顔を見合わせた。いつでも出発準備は整っている、と言いたげだが、依頼のままにスーパーに寄って買い物をしていくだけで本当にいいのか? とその無表情は疑問を浮かべているようだった。

 メモ機能を信用していない、というのは一度水没してデータがまっさらになった経験があるからで、クラウドやらの新機能を使ってみようとしても、アップデートの際のはずみかなにかで同じくまっさらになり、すっかり不信に陥ったわけである。
 で、やはり昔ながらの手段だろうと、手帳であれば問題はない、と安心しきっていた。やんちゃな子供に奪われ油性ペンで黒く塗りつぶされたあげく海に放り投げられ行方不明、なんて事態はまったく想定していなかった。
「あー今年受注した依頼がわからなくなってしまったー」
 ビーチで寝そべりながらわざとらしく棒読みでサンタは言う。とりあえずかぶったトレードマークの赤帽子を子供の足が踏みつけ、甲高い笑い声をあげながら海に駆け出していった。
 十歳と八歳の子供は仲がいいらしく、親がいなくとも寂しがる様子もみせずに、ふたりだけで遊んでいる。夜が明けてみればもぬけの殻になっていたベッドを見て依頼人は探しているかな、と思い、なにげなく携帯を見れば『誘拐犯サンタ』と大きくニュース記事になっていて、そっと電源を切った。ついでに手帳の後追いをさせて海に投げた。どちらにしろ仕事の予定はわからなくなってしまったので構わない。
「常夏の国でのバカンスは最高のご褒美だと思うんだが、どうかね」
 トナカイに同意を求めれば、ブルーハワイに突っ込んだストローを咥え、こっくりうなずいている。みんなが凍えている冬に、あたたかい土地で過ごすのはなににも代えがたい幸せである。今年ぶんの収入はパーになってしまったが、いいことをした、と自賛していると、気づけばびしょ濡れの子供たちが見上げてきている。
「パパとママはいつ来るの?」
 と無邪気に。
 寂しくないなんてそんなわけはなく、当然家族で遊べるものと思っているから楽しめる。もちろん彼らの両親はクライアントで、この冬ゆいいつ仕事をしようと決めた相手でもある。クリスマスは家族で楽しく過ごすもの、サンタクロースである彼が贈るプレゼントとは、物ではなく、そうした普遍的な幸せであるのだ。日々の忙しさに、子供を持つ大人が忘れてしまったものだ。
「すぐ連れてくるよ」
 さっそうとトナカイにまたがるサンタを、子供たちの歓声が送り出した。





作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:ホノミ お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:47 人 文字数:2791字 評価:2人
「メリークリスマス!」昨年はこうして貴方とクリスマス会なるものをしましたね。私は良く覚えていますよ。貴方もそうだったら嬉しいのだけれど。さて、こうして私が手紙を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:60 人 文字数:2769字 評価:2人
わたしが小学生の時に住んでいた家には、大きなグミの木があった。春には白い花をつけて、六月ぐらいになると2センチくらいの赤い実がなる。 そう、だからあれは小学校 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:tomogata お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:1974字 評価:1人
彼女はクリスマスを楽しみにしていた。クリスマスツリーを眺めながら言った。もし、次のクリスマスも会うことができたなら。その時はーーその手紙が届いたのは夏のひどく暑 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:松竹輪子 お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:32 人 文字数:2118字 評価:1人
「クリスマスプレゼントちょうだい」「は? いったいどう言う意味だ?」「やだなあ、アキラ頭があまり良くないと思っていたけれど、とうとうこんな簡単な日本語が分からな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:3375字 評価:0人
数年に一度、普段はひきもしない風邪をこじらせることがある。それもどこでもらったのかも思い出せないような凶悪な風邪をもらう。「パブロンは一回三錠だよ」いつもそのよ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:inout お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:25 人 文字数:1917字 評価:0人
一年中クリスマスのところがあるんだ、と連れて来られたのはやけに薄暗い店で、入った瞬間にしまったと後悔したが、実際のところはただの店だった。クリスマス専門店、と言 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:30 人 文字数:2543字 評価:0人
晴れ渡った空、すがすがしく青い海。 強い太陽光の下でサーフボードを抱えた彼は、オフシーズンを存分に満喫していた。暑苦しい白ひげも、三つ編みにしてリボンを結んで 〈続きを読む〉

にいの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:にい お題:永遠の高給取り 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:748字
砂漠のただなかにオアシスのふりをして、その施設はある。遭難者の願望をそのまま投影したかのような憩いの地だ。水場のかたわらにヤシの木が生え、アロハ服の案内人が出 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
成りすまし ※未完
作者:にい お題:可愛い女 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:699字
人間と見分けがつきませんね、と客は感心した。それもそうだろう、アンドロイドという名目で展示ブースに設置された彼女は、単に表情に乏しいだけの人間であるのだから… 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:ねじれた冬休み 必須要素:漆黒の翼 制限時間:30分 読者:18 人 文字数:1192字
家が貧乏だというのは年端もいかない子供にもなんとなく察せるもので、たとえ学校が長期休暇に入ったとしても、遠出をしたいとか言い出しにくい雰囲気があった。海に行き 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:興奮した嫉妬 制限時間:15分 読者:22 人 文字数:719字
風呂場に湯気が充満していた。家族が先に入ったわけでもなく、今から浴槽の掃除でもしようと窓を開け放して換気していたくらいなのに、一体どこからこの湯気は生まれたの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:すごい壁 制限時間:15分 読者:20 人 文字数:660字
半分くらい登ったところで休憩に入ることにした。えんえん続く壁の中途の出っ張りは、テントを置くには足らず、半分くらいが虚空へ突き出している。まあ重しを置いとけば 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:30 人 文字数:2543字 評価:0人
晴れ渡った空、すがすがしく青い海。 強い太陽光の下でサーフボードを抱えた彼は、オフシーズンを存分に満喫していた。暑苦しい白ひげも、三つ編みにしてリボンを結んで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:昼の接吻 必須要素:三つ巴 制限時間:30分 読者:21 人 文字数:1198字
休日のランチタイムは馬鹿みたいに混む。寄ってたかってほかの時間帯よりいくらか安いセットメニューを頼み、友人同士で訪れて全種類制覇とかに挑戦する。パスタにデザー 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:小説家の結婚 制限時間:15分 読者:24 人 文字数:607字
今だけ次元を越えて結婚できるサービスがあるらしい。サイトから婚姻届をダウンロードして印刷、郵送でその局へ送れば婚姻証明書が届くという手はずで、期間は12月なか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:誰かと作家デビュー 制限時間:15分 読者:25 人 文字数:726字
共著の場合にはその旨を備考欄に記入してください、と応募要項にはあって、特にひとりで書いたわけでなくとも作品を受け付けてくれるらしい。どうせろくに選考も通らない 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:美しい火 必須要素:5000字以上 制限時間:1時間 読者:34 人 文字数:2110字 評価:2人
黴臭く、埃っぽい。書棚にいっぱいに詰められた本のなかには、虫が巣食っているのが容易に想像できた。日に当たるのを嫌ったのだと思われるが、かといって冷暗所において 〈続きを読む〉