お題:8月のクリスマス 必須要素:グミ 制限時間:1時間 読者:112 人 文字数:2791字 評価:2人

8月のクリスマス
「メリークリスマス!」
昨年はこうして貴方とクリスマス会なるものをしましたね。私は良く覚えていますよ。貴方もそうだったら嬉しいのだけれど。

さて、こうして私が手紙を書いているのは、単純に先日の事が嬉しくて堪らなかったからです。
いえ、他の理由も無いことはないのですけれど
。とりあえず、先日の事といくつかの私の大切な宝物の話をさせて下さい。
読むのが辛ければ今の時点で破り捨てて下さっても構いません。

先日、8月の真っ只中、わざわざ有給を取って貴方は私の所へ来てくれました。その為に無理をしたこと、私はちゃんと知ってるんですからね。
目の下にクマが出来ていました。

先日の貴方は大きな箱を持って私の前に現れました。この時期には不似合いな赤い長袖の服に赤いズボンを来て。
頭にはサンタ帽。貴方はドアを開けるなり言いました。
「メリークリスマス!」
先日は8月の25日でした。きょとんとする私に照れくさそうに貴方が
「ほら、月クリスマス的な」
と言ったのもちゃんと覚えていますよ。

12月まで此処に居られるか分からない私のために貴方がここまでしてくれた事、とても嬉しく思います。
貴方は私のベッドの横に手際よくクリスマスツリーを組み立てて、凄いだろ、と。その時私は何て言いましたっけ。貴方の言葉は一言一句違えず覚えているのに、私の事はあまり覚えていないようですね。今気づきました。

そして私達は季節外れのクリスマス会をしましたね。昨年とは違ってケーキも料理もありませんでしたけど。あった所で私は食べられませんが。
それでもとても楽しかったです。

「先に言ってくれれば私も何か用意したのに」
「良いんだよ。俺がしたかっただけだから」
貴方はそう言って私の頭を撫でてくれました。大きな手は暖かくて、心が溶かされていくようでした。
そう言えば昨年のクリスマス会の時はちょうど雪も降りましたね。今年は季節が季節なもので雪は降りませんでしたが、代わりに壁や天井が白かったのである意味ホワイト・クリスマスでした。こんな事言ったら貴方はまた怒るのかしら。

そうそう、貴方から貰ったプレゼントはちゃんと大切にしてますよ。今年や昨年のだけではなく、ずっと昔のものまで。
ちゃんと10年分、取ってあります。
1年目はネックレス。これはペアでしたね。
2年目は本好きな私のために革のブックカバー。
結構値が張るものだったでしょう? 知ってるんですよ。
3年目はイヤリング。私がピアスに興味を持ったからでしたっけ?
4年目は『俺』とか言いましたね。手紙も付いてきました。ちゃんとそれも取ってあります。何処にかは教えませんよ。だって貴方、教えたら捨ててしまうでしょう?
5年目は花束。いくつかはドライフラワーにしました。
6年目はネックレス。私がずっと同じネックレスを付けているからと貴方が新しいものをプレゼントしてくれましたね。その時のものはペアじゃなくて、女性らしいデザインのものでした。私が、貴方が可愛いと褒めてくれたワンピースを、よく着ていたからでしょうか。でもね、あのワンピースは貴方の前でしか着ていませんでしたよ。
7年目はマンションの鍵でした。
「一緒に暮らしたい」
と真っ赤な顔で言った貴方を良く覚えています。
8年目はホテルのレストランでの食事でした。あんなに高い所、貴方のお財布は大丈夫だったのかしら?
9年目は指輪でした。貴方はその時言いましたね。
「誕生日にはちゃんとしたのを渡す。だからそれまではこの指輪を持っていてくれないか?」
『約束の約束』の指輪でした。『ちゃんとした指輪』を貰った後もあれは取ってあるんです。私の大事な宝箱に入れてあります。
そして、毎年、プレゼントとは別に私の好物であるグミを持ってきてくれましたね。毎年違う味のグミで、手作りしてくれた年もありました。
そして今年は大きな箱の中にクリスマスツリーとオーナメントを入れてきて、クリスマス会をプレゼントしてくれました。プレゼントを忘れたと貴方は嘆いていましたが、貴方が来てくれた事が何よりのプレゼントでしたよ。
全部、取ってあります。全部、写真も残してあるんですよ。

今年はクリスマス会と言っても私のせいであまりする事はありませんでしたね。ケーキもプレゼント交換も無くて、ただ一緒にジングルベルを歌ってメリークリスマスと言い合って、それだけでした。後はいつも通り、お喋りをしましたっけ。
それでもとても楽しかったです。貴方とクリスマス(月クリスマスかしら)を祝えた事が何より嬉しかったのですから。
そうそう、クリスマスツリーを飾るのはいつも私の役目だったからでしょうか、凄くバランスが悪かったです。その時にも言いましたが、あのアンバランスさは面白かったのでもう一度言っておきますね。
「うるせぇ」
と口を尖らせる姿は子供のようでしたよ。

昼過ぎに来た貴方は時間ギリギリまでいてくれましたね。途中で会話が途切れた時もあったけれど、沈黙の時間も貴方となら結構心地よいものでした。貴方もそうでしたか? 違ったら少し悲しいです。

突然ですが、貴方の10年間を私のせいで無駄にさせてしまったことを謝らせて下さい。
私が居なかったら貴方はきっと今頃素敵な奥さんと結婚生活を楽しんでいたでしょう。私のせいで時間を無駄にさせて、その上貴方を悲しませてしまうなんて。悔やんでも悔やみ切れません。
本当にごめんなさい。

そして最後に私のお願いを聞いてください。こんなものは私のワガママでしかなくて、貴方の時間を更に無駄にさせてしまう事なのだけれど。嫌だったら無視してくれて構いませんからね。

どうか、今年のクリスマスは私の事を思い出して下さい。私と過ごした10回のクリスマス-1回は夏にしましたけれど-を1秒でも良いのです、思い出して下さい。
その後は私の事を全て忘れてください。そして、どうか私のせいで無駄にした10年を取り戻してください。

貴方が沢山の思い出をくれたから私は全く寂しくありません。
心配なのは貴方が私の事をちゃんと忘れてくれるかです。これは私の自惚れですかね?
自惚れだったらそれで良いのだけれど。

本当に本当にごめんなさい。
貴方と共に過ごした10年、全てが宝物です。
貴方に貰ったものは本当に多くて、私が何も返せていない事をとても悔やんでいます。

まだまだ書きたい事はあったのだけれど、私の手がそろそろ限界です。薬の副作用もあるのでしょうね。
だからここでお別れです。貴方は果たしてここまで読んでくれたのかしら。もしかしたら途中で破り捨ててしまったかもしれませんね。

そうであったとしても最後に言わせて下さい。

これからの人生を幸せに生きて。
ありがとう。貴方が大好きでした。
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