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クレイジーサイコ幼女 ※未完
 墨汁を覗き込んでいるようだった。湿った木の匂い、眼球を緩やかに覆う暗闇。瞼裏に溶け込む奇妙な闇は、しかし心地の良いものであった。
 聴覚と、僅かな触覚や嗅覚によって構成される世界は、酷く不気味なもので、気付いたら意識を失っているような、喪失の世界。木の軋む音と、自身の手が床に触れる感覚のみが己を己足らしめ、それを除く要素は殆ど無いに等しくなっていく。次第に失われた自己は、気力と共に闇にさらわれる。そうして、全てが終わっていくのである。
 樫を打ち鳴らす叫びは諦念の溜息と共に消える。力も精神も奪われ、思考能力が著しく鈍っていく。
 しかし、雨音に現れたその声だけは、消えることが無かった。

 鈴の声。ころがしたような。心地よい声。そうだ、綺麗な──クリスタルのような、声。
 久しく使うことのなかった言葉が溢れる。そういえば、このような言葉もあった。あれを表現する為に、どのような言葉を用いるか。ああ、言葉とは、すばらしいものだったのだ。
 絶望に死を委ねた声に身体を預けた、汚れを知らぬ無垢な声。蕩けるように甘やかでとろりとした少女の声。

 雨音と、少女の足音。優艶な声が笑んだ気がした。
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