お題:限界を超えたハゲ 制限時間:30分 読者:105 人 文字数:1082字

高校教師の自虐ネタについての家庭内評価
 晴一が高校生の時、やたらと自分の頭髪を自虐している教師がいた。
 田牧という名字の教師で、世界史を担当していた。歴史上の著名な人間はみなハゲで、その理論で言うと俺も著名になれるはず、とか言う言葉がやたら頭に残っている。
 高校という場所は特殊な空間で、数の有利は学生にあるが、権力の有利は教師にあった。
 とはいえ、黒々とした豊かな頭髪の持ち主が多くをしめる空間で、さびしい頭をしている教師というものは圧倒的なマイノリティとなる。自虐しないとやってられないというのが本当のところだっただろう。
 それから早十数年が過ぎ、晴一は30歳になった。
 社会人としてそれなりのキャリアを積んでいると、接する人間の殆どが成人になり、十代の人間と話す機会なんていうものは少なくなる。
 普通はそうなのだが。

「でさ、まじ頭髪ヤバい先生なんだよね。なのにさーニュースの話の時にクラス盛り上げようとしたのかもしれないけど『このハゲー!』って言うんだよ。笑っちゃえばよかったんだけど全然笑えなかったんだよね」
 
 そう食卓で笑いながら話すのは、晴一の姪の薫だ。去年晴一の姉夫婦が交通事故で亡くなってから、14になる彼女と共に暮らしている。
 
「それは災難だったな」
「災難だよ~授業すごい変な雰囲気なっちゃったしさ~。明後日も授業があるんだけど、また変な空気のままだったらヤだなあって」

 こういう何気ない授業の話をすらすらとしてくれるようになっただけ、薫は自分に心を開いてくれているようだった。晴一は長く海外で働いていたから、幼い頃の薫にはそんなに接していなかったのだが、それがかえって良かったらしい。

「自虐にも上手い下手があるからな」
「それ。おじちゃんのとこにもそういう人いる?」

 薫は晴一のことをおじちゃんと言う。事実だから別に構わないが、そのうち「せいちゃん」あたりに言い直させようかちょっと悩む所だ。

「俺は高校ン時の先生がそうだった。でも自虐うまかったから、大抵いつも笑い取れてたよ」
「ふーん。やっぱ人間、ディスでもなんでも自分の身の丈に合った感じにしないとだよね」

 限界を超えたハゲネタというものが笑いをとれるかどうか。
 晴一は世の中の『自分の見た目を笑いの種にしている』芸人の顔を思い浮かべながら、自分の額を撫でた。

「あ、おじちゃんのおでこはまだ全然平気だよ」
 めざとい。
「ありがと」

 会社に行く時、ついつい額を出すヘアスタイルにしがちなのだが、それもたまには変えた方がいいだろうか、とちょっとだけ思った。
 ちょっとだけ。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:akari お題:春の小説 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:441字
街一番の桜の木。その根元に一冊のノートが置いてあった。不思議に思い中を確認すると、それは誰かが手書きで書いた物語だった。内容は一人の少女の心情を唯唯書き綴った 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
彼が愛した女 ※未完
作者:はるちか お題:彼が愛した女 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:1079字
彼女の第一印象は最悪だった。「ここは俺に任せて先に行け」と言うのは死亡フラグの常套句になりつつある。戦場でそんなことを言ったやつは大抵思わぬ伏兵が現れたり最終兵 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:afternoon runnner お題:裏切りの彼 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:830字
銃声が鳴り響く。ビール瓶の割れる音がすぐ後ろから聞こえる。野太い声の喧騒があちこちでこだまする。真っ黒なガムがへばりついたアスファルトには、あちこちに濁った水 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:僕が愛した小説修行 制限時間:30分 読者:5 人 文字数:827字
銃声が鳴り響く。ビール瓶の割れる音がすぐ後ろから聞こえる。野太い声の喧騒があちこちでこだまする。真っ黒なガムがへばりついたアスファルトには、あちこちに濁った水 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:akari お題:ドイツ式の春雨 制限時間:30分 読者:7 人 文字数:644字
「お母さん、今日ドイツ人のマット君が来るから」 息子から突然飛び出した言葉に私は心底びっくりさせられた。急に言われても困る。こちらにも心の準備というものがあるの 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:愛と死のコメディ 制限時間:30分 読者:6 人 文字数:783字
"人を選ぶ商売"っていうのが世の中にはあります。代表的なのはPCメーカーのAppleですね。ググると信者とアンチの終わりのない論争で溢れかえっています。一昔前 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:はるちか お題:ダイナミックな息子 制限時間:30分 読者:8 人 文字数:1012字
その日も彼は談話室の端に置かれている一人がけソファの上で窮屈そうに膝を抱え、真剣な眼差しで文庫本を読んでいた。私が彼を認識する時は決まって、談話室のあのソファの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:絹糸 お題:寒い旅行 制限時間:30分 読者:16 人 文字数:880字
独り寝の寒さが心身とこたえる。元々一人用だったベッドがやたらと広く感じた。目を瞑れば、あの時の思い出が蘇って、全く眠らせてくれない。記憶に一人旅行をさせれば涙を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:悲観的な多数派 制限時間:30分 読者:2 人 文字数:611字
「また、会えるよね?」 1人の少女は悲しいそうな表情で問いかける。「うん。サマーバケーションとか長い休みの日だけになるけどね」 腹をくくった様な表情でもう1人の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にせくまもん お題:悲観的な多数派 制限時間:30分 読者:9 人 文字数:1062字
手の甲を顔に近づけて、吸い込んだ煙をゆっくり吐き出す。その手にまとわりついたバニラの匂いを静かに嗅いぐ。どうしてこんなことになったのか。二週間前に仕事を首になっ 〈続きを読む〉

T.たかつの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:T.たかつ お題:限界を超えたハゲ 制限時間:30分 読者:105 人 文字数:1082字
晴一が高校生の時、やたらと自分の頭髪を自虐している教師がいた。 田牧という名字の教師で、世界史を担当していた。歴史上の著名な人間はみなハゲで、その理論で言うと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:T.たかつ お題:白い発言 制限時間:30分 読者:125 人 文字数:1342字
「これ、なんだと思って見てた?」 声を掛けられ、ノートから顔をあげると真寿美が漫画の1コマを指さしていた。放課後、人がノートを写させてもらっている間随分静かにし 〈続きを読む〉