お題:限界を超えたハゲ 制限時間:30分 読者:39 人 文字数:1082字

高校教師の自虐ネタについての家庭内評価
 晴一が高校生の時、やたらと自分の頭髪を自虐している教師がいた。
 田牧という名字の教師で、世界史を担当していた。歴史上の著名な人間はみなハゲで、その理論で言うと俺も著名になれるはず、とか言う言葉がやたら頭に残っている。
 高校という場所は特殊な空間で、数の有利は学生にあるが、権力の有利は教師にあった。
 とはいえ、黒々とした豊かな頭髪の持ち主が多くをしめる空間で、さびしい頭をしている教師というものは圧倒的なマイノリティとなる。自虐しないとやってられないというのが本当のところだっただろう。
 それから早十数年が過ぎ、晴一は30歳になった。
 社会人としてそれなりのキャリアを積んでいると、接する人間の殆どが成人になり、十代の人間と話す機会なんていうものは少なくなる。
 普通はそうなのだが。

「でさ、まじ頭髪ヤバい先生なんだよね。なのにさーニュースの話の時にクラス盛り上げようとしたのかもしれないけど『このハゲー!』って言うんだよ。笑っちゃえばよかったんだけど全然笑えなかったんだよね」
 
 そう食卓で笑いながら話すのは、晴一の姪の薫だ。去年晴一の姉夫婦が交通事故で亡くなってから、14になる彼女と共に暮らしている。
 
「それは災難だったな」
「災難だよ~授業すごい変な雰囲気なっちゃったしさ~。明後日も授業があるんだけど、また変な空気のままだったらヤだなあって」

 こういう何気ない授業の話をすらすらとしてくれるようになっただけ、薫は自分に心を開いてくれているようだった。晴一は長く海外で働いていたから、幼い頃の薫にはそんなに接していなかったのだが、それがかえって良かったらしい。

「自虐にも上手い下手があるからな」
「それ。おじちゃんのとこにもそういう人いる?」

 薫は晴一のことをおじちゃんと言う。事実だから別に構わないが、そのうち「せいちゃん」あたりに言い直させようかちょっと悩む所だ。

「俺は高校ン時の先生がそうだった。でも自虐うまかったから、大抵いつも笑い取れてたよ」
「ふーん。やっぱ人間、ディスでもなんでも自分の身の丈に合った感じにしないとだよね」

 限界を超えたハゲネタというものが笑いをとれるかどうか。
 晴一は世の中の『自分の見た目を笑いの種にしている』芸人の顔を思い浮かべながら、自分の額を撫でた。

「あ、おじちゃんのおでこはまだ全然平気だよ」
 めざとい。
「ありがと」

 会社に行く時、ついつい額を出すヘアスタイルにしがちなのだが、それもたまには変えた方がいいだろうか、とちょっとだけ思った。
 ちょっとだけ。
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