お題:近い理由 必須要素:ペロペロ 制限時間:1時間 読者:139 人 文字数:2576字 評価:1人

呪文はベイブのやつ
「わんわん」
飼い犬のペロを散歩させていると、普段驚くほど吠えないペロが突然吠えだした。そうしてリードをぐんぐんと引っ張って走り出そうとしてきた。
「どうしたペロ」
僕はペロが狂犬病にでもなってしまったのかと思って驚いてしまった。平素のペロという犬はお前は介護犬なのかというくらい吠えないのだ。介護犬でゴールデンレトリーバーなのか?いいところの犬なのか?毎週美容院言ってんのか?と思うほどに吠えない。人が来ても吠えないし、車が来ても吠えないし、ほかの犬とあっても吠えないし、猫とあっても吠えない。本当に全く吠えない犬っころで、予防接種の時とかも吠えないので、本当に犬なんだろうか?と思ってしまう犬だった。でも犬なのだ。見た目がどう見ても犬なのだ。もちろんそれは犬の形をした人ではない。人の両手両足を特殊な拘束器具で拘束してお尻の穴に尻尾みたいなのをぶっこんでエロい感じのピクシブでR-18のタグが付く感じにしているわけでもない。犬なのだ。完全に犬。実際犬くさい。ボルゾイと何だったか覚えていないんだけど、何かのミックス犬で雑種だ。あまりにも吠えないので舌でも引っこ抜かれたのか?と調べてみたことがあるけど、舌もちゃんとあった。その際ちょっとうううって言われた。ドキッてした。

そんな吠えない星からやってきたみたいな犬のペロが散歩の最中突然に、
「わんわん」
と吠えだした。僕は世界が終わるような大地震を予期してもこの犬っころは吠えないだろうと勝手にタカをくくっていた為、かなり動揺したわけ。
「世界の終りのような地震、それこそローランドエメリッヒ監督が作る映画みたいな感じになったら、自分で何とかしなくてはいけないな」
と考えており、ペロにはそのような際の予期、動物には人間には感じない危険を察知するみたいな能力があるとは聞いているものの、そのような事は一切期待せずに、その存在に対してありがたみを感じよう、日々の癒しを受けよう。つまりアニマルセラピーとしてのペロという割り切った考えを持っていた。その為、そのペロがいきなり、
「わんわん」
などと、あまりにもありきたりな吠え方をしたものだから、それだけでもこう、衝撃だった。
「狂犬病か!」
って思ってしまった。
それだったらむしろある日突然人語をしゃべりだした方が、びっくりしなかったかもしれない。
「ああ、やっぱり犬じゃなかったんだ」
と、納得して、それからはもういい話し相手になってもらっていたかもしれない。
「こないださー」
みたいな話し相手ですよ。そんでペロに、
「わかるわかる、そういう事もあるわなあ」
なんて返し方をしてもらいたかった。

そんなペロが、何でもない、何もない天気のいい土曜の昼間にいきなり、
「わんわん」
などと、吠えだし、挙句の果てには僕のリードを引っ張り出して、走ろうとまでしたものだから、これはいったい何なんだ?僕は今ここにいると、何かとんでもない目に合うんではないかと不安になってしまったのもうなずける話だと思う。
「こいつは今、何か、とんでもない危険を察知したんだ」
と、
「ごめんねペロ、勝手に危機察知能力なんてないと思ってごめんねペロ。ペロのその分野に対しては正直もう完全にあきらめていて、目もかけなくて、ただただアニマルセラピーのみとして扱っていてごめんねペロホントごめん」
と、思ってしまった。

僕は自宅でお酒を飲んでそれがいい酒で、いい気分になってきて、そんな最中にペロが近寄ってくると、
「ペロペロ~」
と言って、ペロの頬の肉とか皮とかを両手で揉みしだいて愛でる、他人には聞かれたくない見せたくないちょっとした癖があるのだけど、

その時、その散歩時、いきなりペロが、
「わんわん」
と吠えだして、リードを引っ張って逆にリードする勢いで走り出そうとしたものだから、そしてそれがとてつもない危機を察知したんだろうという僕の勝手な解釈によって、ペロに対して謝罪やら感謝やらがぐちゃぐちゃになって言葉にできない感情へと昇華し、酔ってもいない素面の状態なのに、思わず感極まって、
「ペロペロ~」
と言ってしまった。
屋外でいうのはもちろん初めてだった。それくらいもうなんというか感極まっていた。感涙していた。
ペロが吠えるというのは、
「わんわん」
と、あまりにも犬みたいな吠え方でも、吠えるというその行為自体に僕は感涙していた。普段のペロは犬のにおいがするルンバみたいなものだった。もちろん掃除はしない。でもあまりにも吠えないため、「もしかして近未来のルンバか?」
と、錯覚してしまうくらい吠えなかったのに、
「こういうUSBとかで充電するマシーンなのかも?」
と思ってしまうくらい吠えなかったのに、
「もうむしろルンバと改名するか?」
と思うようなわんこだったのに、
「今日のわんことかに出したら、なんて紹介されるんだろう?」
と、勝手な不安を抱いていたのに、

「ペロ吠えれんじゃん!」

「わんわん」
しかし、ペロはそんな事は今どうでもいいといわんばかりに、走ろうとしていた。地面に足がかっかっかって何度もなっている。

「ペロが獣の遺伝子を覚醒させただ!」
僕は、そう感じ、ここはもうペロに任せるしかないと走った。

ペロも走った。走るペロすら滅多に見れない。吠えない走らない風呂嫌がらない。小学校の避難訓練の標語みたいな存在だったペロ。

そんなペロも真の獣であったのだ。犬くさいルンバではなかったのだ。もちろんアイボでもない。僕はペロが牧羊犬をしているイメージを膨らませて、クララが立ったところを想像して、それでまた泣けた。更にバーラムユーって唱えて羊を行儀よく連れているところも想像して、その想像もまた泣けた。

感動した。

「わんわん」
ペロはスタンダードに吠えながら走り出して、すぐ次の角を曲がり、僕もそれに合わせて曲がると、そこに僕が好意を寄せているものの、一度もそんな話はしていない同じ職場の田口さんがおり、僕は田口さんの胸にダイレクトダイブしてしまい、

「・・・」
一瞬にして時が止まった。

その後、田口さんは犬が好きで、わーかわいいーとか言っていて、セーフだったけど、それからまたペロは吠えなくなったし走らなくなった。
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