お題:近い理由 必須要素:ペロペロ 制限時間:1時間 読者:100 人 文字数:1938字 評価:0人

戦士の骸
 アルファとベータ。
 ふたつの建物の行き来は禁じられていた。
 完全に隔てられていればそんな規則がそもそも生まれるはずもなく、抜け道がいくつもあるからこそ問題は問題視される。もし国境が陸地になく、海を渡る方法も空を飛ぶ手段もなかったとすれば、島国はいつまでも鎖国していられるように。
 僕たちにとっては、その三メートルの段差が、海を渡る方法で、空を飛ぶ手段だ。
「いつまで気絶してる」
 ……人は飛べないので、着地に失敗してからはしばらく伸びていることもある。頭を乱暴に蹴られて相棒に起こされた。抜け道を通ってもう一方の建物に探検に行くには、常に墜落死のリスクを負わなければならない。
「そんな大げさなものじゃない。お前がいつになってもやり方を覚えないだけだ」
 道具も使わず、猫さながらに壁を駆け登れるやつからすると、登るより楽な落下でさえ失敗する運動音痴の気が知れないのだろう。普通なら足でも折るところ、無傷で飛び降りれるだけまだマシだと思うのだが。
 とっくに体勢を立て直した友人は、僕がもたもたしているのにすっかり焦れている。早く、と急かすようにもう一度、今度は首を踏みつけた。境界線で首を折って死んでいるのが見つかるのが、きっと僕の未来なのだろう。死因が墜落か、それとも焦れた友人に踏まれたことかはどちらもあり得るし、なるべくならどちらも避けたいところだった。
「パーティーに遅れる。今日は食べ放題なんだ」
「ベータのやつら、何食ってるか知れたもんじゃないぞ」
「すくなくとも缶詰よりはいいものが出る。カラカラに乾燥した肉を水で戻して食べるのにはもううんざりなんだよ」
 かといって狂信者の研究室内で飼われている謎の生物の切り身が、干し肉より美味しいかはとても保証できないと思うが、口にはしない。踏み殺されるのはごめんだし、迂闊な友人をひとりで行かせて内通者として手配されるような事態も避けたかった。痛む身体を起こして、すでに先を行く背を追った。

 通路は入り組んでいる。二足歩行のためには設計されていないかのように、平然と急斜面が頭上の穴に向かっていたりする。気を抜けば足元の奈落へ真っ逆さま、元の地面がどこだかわからない円筒の内部は隠された落とし穴の罠が点在している。
 なにも、侵入者を進みにくくさせようという魂胆ではない。特に大気圏外に浮遊していることを前提としていなくても、通常の建物が一度ひっくり返れば、こんなふうにもなる。
「どっちが強かったのかな」
 とは、今やありふれた信仰の有無によって二分された民族の住居を指して、子供たちが無邪気に口にする疑問である。落下の衝撃で大破し、操縦桿にたどり着くことすらできなくなった船が、動いていたころを夢想して。
 二機は男女を模していた。強大な敵を打ち倒し、その代価として二度と飛ぶことのできなくなった機体の内部は、今までずっとそうであったように人々の自活を可能とする設備が整っていた。外部との連絡が断たれ、朽ちたどことも知れぬ惑星の地表に取り残されたまま。
 もはや戦いに参加する意義もなく、空に時折またたく火花を他人事のように眺めた。一方は保守的に内に閉じこもり、もう一方の派閥はもう一度空へ飛び立つために、機体の修理を試みた。惑星からサンプルを収集して、怪しげな実験を繰り返し、そのためのエネルギーを作り出そうとした。
 生まれたときからすでに世界がそういう形になっていた身としては、どちらを支持するともいえない。研究者たちの集うパーティーの乱痴気騒ぎのほうが、アルファの陰気な会合に比べていくらか楽しいと思うくらいで。友人も、いくらかリスクを背負って探検に行くのは暇つぶしに最適だ、程度に考えているのだろう。
 通路に空いた小窓から、横たわった機体が見える。
 ――二機は男女を模していた。戦いに倒れ、まるで寄り添いあうかのように、手を取り合っていた。どうして、互いにこんなにも近くで倒れていたのか。その理由はわからない。手だけでなく、身体は重なり合い、口づけを交わしていた。そうした一部が接触しているからこそ、三メートルの段差を越えて、内部の通路を行き来もできる。
 足を止め、しばらく見入っていた。僕の知らない遠い昔の戦いと、その最後に思いを馳せた。内部に寄生虫のように生き続ける生命より、ずっと気高い戦士の魂が、この機体には宿っていたのではないか。
「ねえ……」
「なんだよ、さっさと行こうぜ」
 呼び止めようとしたが、返ってきたのはそんな返事。立ち止まる僕の手が強引に引かれる。窓の外に友人は目もくれずに、見えてきたパーティーの明かりと、食べ物のにおいに舌なめずりをしていた。






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