お題:近い理由 必須要素:ペロペロ 制限時間:1時間 読者:89 人 文字数:3474字 評価:0人

特技よりも勝負よりも
 あいつと俺は、なんとなくだが似ている気がする。



 ぼんやり見つめてしまい、やがて俺は当初の目的を思い出して歩き出していた。あいつは今日も自主トレだ。神社の木に藁を蒔いただけの特訓用ダミー標的だ。
 熱心ご苦労。俺には絶対に無理だね。
 何度も殴ったあとで、藁の一部は取れてしまい、内部の木が覗いていた。いったいどれだけの練習を繰り返したのだろうか。あいつの拳は、とても同じ高校生には見えないほど無骨だった。
 あいつはここの神社の息子だ。
 今ダミーの標的にして殴っている木は、おそらく親から許可を貰って使わせて貰っているのだろう。確か祭神は軍神の類いだった。なら、きっと、あいつの練習も神様に許されている。
 あの拳も。あの蹴りも。あいつの才能も。
 きっと神から許しを得て人の身が手に入れた叡智の一つだ。
 羨ましくなんてない。だけどなんだか、悔しかった。



 この世界では、己の特技を武器にしなければならない。
 古くは世界大戦、今から200年以上前の話だ。ゲノム技術で、人間はその内に秘めた才を限界の果てまで引き出せる技術を得ていた。
 しかし、戦争は激化をした。
 人類の大半が減って、故郷の星が六割近く腐敗してようやく戦争が終わる。どれだけの犠牲が出たのか、歴史書を読み解いても最初の10行で数えるのをやめたほうが懸命だろう。
 そうして人はやっと戦争をやめて、爪痕こそ残すものの形だけの平和を作り、それを積み重ねてどうにか現代まで繋いできたのだが。
 人間は遙か昔に原罪を纏って生まれてきたときのままではいられなかった。
 人の才の限界まで引き出すゲノム技術は、戦争時代から現代まで続く子孫に受け継がれていた。今や全世界の人類が一人ひとり特殊な力を持つようになった。
 それは武に届くものだ。これも戦争時代の名残なのだろう。
 特殊といってもそれほど特別な力では無い。ただ、ある一点に対して異様で異常に、器用で強かった。
 棒回しが得意な奴は、身体で棒を回す武術を。
 腕立てが得意な奴は、相手との掴み合いで腕と肩を生かした組み手の武術を。
 歌が得意な奴は、音の周波数を操り相手を鼓膜から攻撃する武術を。
 あくまで例えばの話だ。
 これほど強力でわかりやすい奴はそうはいない。
 ちなみに俺は―――。



 もうすぐ学校内で大会が開かれる。
 年に一度の、己の特技を武器にして戦う武闘会だ。これも戦争の名残というやつもいるのだが、特技が武に繋がる遺伝子を絶やさないための一環とも聞く。
 あいつもきっとこの大会に向けて練習しているのだろう。
 あいつは神に愛されている。
 武の神様に。
 なぜなら、あいつの特技は、武術そのものなのだから。
 まさに天才。まさに天童。
 特技が武術だったあいつは、本当に強かった。
 俺とは比較にならないくらい。
 それでも、俺とあいつは似ていると思っている。それはどうしてか。いったいいつからだろうか。
 あいつと俺が、似ていて、近い理由は。
 ああ、たぶん。まだ小学校にあがる前のころだった。
 あいつとは仲が良くて、そのころはよく一緒に遊んでいた。そのとき俺たちは三人で、真ん中には女の子がいたんだ。あいつと俺はよく女の子を取り合っていたっけ。
 あるとき、よく遊んでいた公園で、当時のガキ大将が場所取りをしていた。俺たちもそこで遊びたいと主張して喧嘩になったんだ。
 掴み殴り合いの泥仕合。
 女の子が止めに入って、怪我させて。俺とあいつは完全にキレた。
 ガキ大将には力で勝てなかったけど、何度も立ち上がって掴みかかった。諦めなかった。そのときだったと思うんだ。あいつと俺はよく似ていると思ったのは。
 単純な話、あいつと俺は単なる負けず嫌いなんだ。
 ―――この話には続きがある。
 あんまり喧嘩が激化するものだから、女の子が大人を呼びにいった。誰でもいいから止めて欲しかったんだろう。女の子は喧嘩があまり、というかかなり好きじゃなかったからだ。
 甲高いブレーキ音と、大きな破砕音。そして、誰かの悲鳴。
 助けを呼びにいった女の子が近くの交差点で車にはねられた。しばらくして大人たちが来て、救急車が来て、けれど女の子はそれっきり帰ってこなくなった。
 あいつがぼそりと言ったのを覚えている。
 強ければ、と。
 それからちょっとしてからだった。
 あいつの特技が開花した。人に望まれる最たるものとして。



 今日は最低の気分だ。
 いくらクラス対抗から始まる武闘会とはいえ、最初から俺はあいつに当たってしまった。
 場所は体育館。トーナメント表順に名を呼ばれ対戦が開始される。
 大会用の観戦席にはすでにギャラリーでいっぱいだ。
 みーんな、神の祝福を受けたあいつを見に来ている。あ、俺のクラスメイトはちゃんと俺にも手を振ってくれた。ありがとう。
 さて。
「よう。久しぶり」
「……」
「髪長くしたんだな。似合ってるぞ」
 ちなみにあいつも、女の子だ。顔も美形でスタイルもいい。学校内でも結構な美人だと有名だ。一部では強烈なファンもいて、一時期あいつのハンカチや体操着が盗まれる事件も起きた。
 捕まったのはなんと女子生徒。ペロペロしたくて、と謎の言葉を残している。確か捕まった女の子の特技は舌の味分析の類いだったはず。これ以上は詮索をやめよう。
 かくして、人に最も望まれた特技は、しかし女の身に降りた。
 特技に恵まれても必死に特訓しているのは、女と男の差を少しでも縮めるためだ。女特有の軽さを生かすのはいいが、しかし男のような重い一撃は難しくなる。
 あいつは髪を後ろで一つに縛った。もうすぐ試合開始だ。
 武器は最初に申請しておけば何でもあり。ただし己の特技にあったものだけ。
 俺とあいつは無手。つまり、素手同士だ。
「もう、私は負けない」
 やっと喋ったかと思えばまた呪いみたいな言葉を話してやがる。
「少しは力抜けよ。皺になるぞ。綺麗な顔してんだから」
「あんたにも、負けない」
 聞いちゃくれない。
 なんとかあいつの呪いを解いてやらにゃあならん。
 でも、まあ俺にできることは一つしか無いし。
 先手必勝は無理だろう。
 一瞬の隙を突くしか無い。でも、あいつは絶対に許してくれないだろう。
 試合が始まった。
 あいつの右拳から始まる連続攻撃が初っ端から俺を苦戦させる。
 マジかよ。そんな速度で回し蹴りとか痛い痛いイタイ。
「ふッ」
 捌くので手一杯だ。こいつはピンチだぜ。
 行けそうにねえぞ。
 どうする!
 止まない連続攻撃。
 俺は防戦一方だ。嘘だろ。まだあいつ汗一つかいてないぞ。
 あの頃からだ。あいつが俺の先を行くようになったのは。
「でもよ!」
 悔しさが俺の胸を熱くする。
 あいつに伝えなくちゃいけないことがあるんだ。頑張れ俺、男の子。
 襟首を掴んでからのフェイント。あいつがこちらの手を解いて半歩下がった瞬間を逃さない。
 踏み込め。攻め込め。
 俺は一歩踏み出した。あいつの半歩に対して、こちらは一歩。一気にあいつとの距離を肉薄する。あいつがすでに嘘みたいな早業で足払いをかけてきているが頑張れ軸足。ここは耐えるしかない。
 あとの試合なんてしったことから。俺にとってはここが、正念場だ。



 俺の特技がわかったとき、みんなは嗤った。
 それがどんな武術になるのかと。
 俺が聞きたかったくらいだ。
 拍手。
 手と手をたたき合わせて音を鳴らす。それが、俺だけに許された特技だった。



 だけども、これだけが神の子に届く、俺の武術だ。
 素早く両の腕をあいつの前に突き出す。幅は肩幅よりやや狭く。
 右手をやや前に。左手を少しだけ引く形で。

 ――パンッ。

 乾いた、響きはあるが後に残らない音が鳴った。
 とても一瞬で、とても短い。
 あいつは硬直した。
 いわゆる猫騙し。俺の特技から編み出した、唯一の武術だ。
 完全無謀のあいつ。
 やむ歓声。静まる観客。
 俺はあいつを足払いをして倒した。衝撃で意識を取り戻すが、もう遅い。俺の拳が早い。
「そこまで!」
 審判が俺を止める。
 勝負は俺の勝ちだ。
 あいつが泣いている。負けたことを知ったようだ。
 でも、俺の勝利より伝えなくちゃいけないことがある。
「俺もちゃんと強くなるから。一緒に、お前と」
 あいつと俺はよく似ている。
 
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