お題:今度の小説トレーニング 制限時間:30分 読者:28 人 文字数:1575字

忘れていたこと
 正直ネタが尽きた……。
 悩んで、考えて、悩んで。思いついて。
 また悩んで、考えて。
 以降、それの繰り返しだ。もう10年だ。もう十分だろう。頑張ってきたじゃないか。
 名もそれなりに売れていた頃もあったじゃないか。
 だからもういいんじゃないか?
 僕は自問自答しながら、椅子の背もたれに身を預けた。
 ギシっ、と年期のある椅子は僕ごときの体重でもちゃんと相手してくれる。
 作家生活をはじめて10年。
 売れたのが、それから2年後。そこそこのヒットだった。
 あれから8年。鳴かず飛ばずだ。
 印税も、8年前のヒット作「泣こうぜかっちゃん」だけで持っていたようなものだ。5年以上も鳴かず飛ばずが続けば、いよいよ読者様も僕を忘れていく。
 今じゃほとんどお金は入らない。
 本を出すためには編集者の合格を貰わなければならないが、売れなくなった作家の相手なんざしている暇すらないくらいに忙しいらしい。
 この間、編集社に行ったら、僕が前日に送ったはずの原稿がまとめてゴミ箱に捨ててあった。
 深いため息をつく。
 どんなに考えても、これは売れるという自信のあるネタが思いつかない。
 どんなに書いても、今注目の作家の文章力には到底追いつく気がしない。
 どんなに頑張っても、今さら個性が輝きそうにない。
 やめようかな……。
 実家に帰って、バイトしながら農業して暮らしたほうがいいだろうか。
 頭ばかり使う仕事より、身体を使う仕事のほうが案外楽しいかもしれない。
 無力感を紛らわせたくてネットサーフィンをする。
 執筆の合間もしている。気を紛らわせる方法だ。
「ん? あなたもこれで有名作家に?」
 小説トレーニングのサイトか。
 癖でネタ探しの「小説」を検索したらトップに出てきた。
 今さらだと思ったんだが。
 僕はそのサイトに入ってみた。書いてあるのは当たり前のこと。
 やっていて当然のこと。
 基本と、応用ばかりだ。
 これでも作家デビューしているので、ある程度の文章力は問題ない。感性などのセンスは四十にもなった歳で磨けるとも思えない。
 できることは基礎ばかりだ。設定、プロットなど。
 作家になった今でもやっている。仕事だから。
 でも、作家になった今だからこそ、やっていないと売れる本はできないとわかっている。
 しなくても売れる奴がいるが、生憎その天才という奴じゃなかった。
「……」
 僕は、昔を思い出していた。
 あのときは、ただ好きで書いていた。
 売れ行きとか、ブームとか、そういうものを予め調査してから、世の中の流れに沿った本を狙うようなことはしていなかった。
 有名になりたいのは昔からで。
 読者を意識して書き始めたのは、本当にデビューを目指してからで。
 今は、もう、好きなものを書いているという感覚すらなくなっている。
 前に出した小説だって、推理もの。
 僕は、本当は日常のゆるやかな話が書きたいんだ。でも、編集者にだめだと、それでは売れないと言われて推理小説に変えた。それがまぐれヒットを出したものだから、余計に固執してしまっていた。
「これは、トレーニングだ」
 ぼそりと言ってみる。
「今からはじめるのはただの遊びだ」
 自分の書きたい場面が頭に浮かんだ。不思議と指が動く。立ち上げたメモ帳に入力する設定が止まらなくなる。
 先ほど浮かんだ鮮明な映像が泡沫になってしまう前に、少しでも文章にしようと急ぐ。
「こんなんじゃだめだ」
 僕は紙とペンを取り出した。
 紙に書いていく。
 これだ。
 この感覚だ。
 僕は、紙に絵も設定も、どんどん書き殴っていった。
 学生時代に戻ったようだった。
 それから売れるのは、数年後だけど。
「さて、今度の小説トレーニングは」
 楽しい心は忘れてない。
 
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